商会4
「あなたが?」
「はい。私は土魔法が得意なのですが、その中でも特に植物についての魔法を学んでおりましたので、薬草をもっと何かに活用できないかと研究しておりました」
「土魔法……」
その中でも特に植物についての魔法ってことは、命名するなら緑魔法ってことかしら。
やっぱりもっと魔法を細分化すれば、魔法の可能性はまだまだ広がると思うのよね。
今は学園で基礎的なことしか学んでいないけれど、二年になれば専科に進んで特性を伸ばすから……。
「シアラは何科だったの?」
「私は全てにおいて平均だったので普通科です」
「そうだったのね」
火魔法や水魔法をまんべんなく学んだってことね。
それでお風呂の用意も髪を乾かすのも上手なんだわ。
「女子生徒はほとんどが普通科に進んでおりました。やはりどの魔法も習得しておけば、生活に便利ですから」
「なるほどね」
確かに、我が家のように魔法を扱える侍女や従僕を雇えるお家は少ないものね。
だから自分でお風呂の準備をしたり、魔法をあえて使わず使用人に用意させたりするのよ。
要するに、さすがファッジン公爵家なんだけど。
おほほほほ!
「ところで、お嬢様は化粧水について、なぜそこまでお知りになられたかったのですか?」
「あ、ええ。そうね……」
目的ははっきりしているけれど、それを今この場で説明することになるとは思っていなかったから考えていなかったわ。
まさか研究者を引き抜くつもりだったとも言えないし……。
この国一番のテノン商会を相手に、下手な交渉はできないわね。
だからといって、上手い交渉ができる自信はまったくないわ。
ええ、婚約者を賭けてもいい。
ここはロイヤリティなんて欲を出さずに素直に開発してもらう?
いいえ。それはやっぱり嫌だわ。
そもそも緑魔法(勝手に命名)が得意な人なんて他を捜せばいいのよ。
このジェネジオは心を病んだ私を見捨てようとした酷い人なんだから。
まあ、私ならシアラとは違ってさっさと見捨てたけれどね。
自信をもって言えるわ。
うーん。ジェネジオは開発者でもあるけれど、商売人でもあるわけで。
それなら損得勘定で動いてくれる可能性大だから。
それとも何も知らない研究者から搾取するっていうのもありかしら。
山奥に閉じ込めて、人との接触を断って、ただひたすら植物と向き合うのよ。
ふふふ。
「お嬢様、とても悪い笑顔を浮かべていらっしゃいますよ」
「え……」
「ジェネジオ! あなたの目は節穴なの!? ファラーラ様はこんなに愛らしいのに、馬鹿なことを言わないで!」
どうしましょう。
私の中のシアラのイメージがどんどん崩れていく。
だけど私レベルじゃなく、ジェネジオの中のシアラは崩壊寸前みたい。
ジェネジオ、強く生きて。
そうね。
何も知らない研究者からの搾取も楽しそうだけれど、今から新しい開発者を捜すよりは、ジェネジオと契約してしまうほうがいいと思うわ。
化粧水開発でノウハウもあるでしょうし、何よりこの二人の恋の行方を見守るのが楽しそう。
ということは、まずは条件提示。
でも手の内を全て明かすと不利になるから、探りを入れることね。
さて、ジェネジオは乗ってくるかしら?
最初はとにかく大きく吹っ掛けるのよ。
そこから値下げ交渉をして、お互い得した気分になるのが一番。
私が売るのはアイデア。
さあ、始めましょう。




