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お説教

 

「――それで、いったい何を考えてぼうっとしていたんだ?」



 授業が終わった放課後。

 真面目に呼び出しに応じると始まったお説教。

 ここは適当に回避すべきね。



「魔法の可能性について考えていたんです」

「何だって?」

「先生がおっしゃっていた、魔力の特性についてですわ。魔力を有する者たちにはそれぞれ特性があって、そのために火魔法や水魔法に得手不得手が生じてしまうと。それではまだ私たちの知らない魔法があるとすれば、魔法であることさえ気付いていないのではないかと思ったのです」

「……例えばどんなものだい?」

「それはまだわかりません。ただ今は魔法を火・水・土・風・光、そして闇と分類しておりますが、もっと細分化することによって新たに発見することができるのではないでしょうか?」

「……ファラーラ・ファッジン。君の入学前の家庭教師からの推薦状を見たが、このひと月でかなり成績が向上したらしいな」

「え……」



 ひょっとしてしくじったかしら?

 適当に回避するべきが、適当に答えすぎて逆に怪しくなってしまったかも。

 そうよ。私はまだ十二歳なのよ。



「ここひと月の成績については絶賛してある。正直なところ信じていなかったんだが、なるほどと納得せざるを得ない。まるで人が変わったようだ、との評価もあるぞ」

「ひ、人が変わったよう……?」



 どの教師がそんなことを書いたの?

 調べ上げて罰を与えないと。

 いえ、調べる必要はないわね。

 以前の私を知る家庭教師は一人だけだもの。



「まあ、王太子殿下との婚約を機に心を入れ替えたのではないか、ともあるがそうなのか?」

「は、はい! だって私は殿下の婚約者ですもの!」

「そうか」

「そうです」



 そうよ。

 私はあの日を――あの夢を契機に心を入れ替えたのよ。

 とはいえ、たかが家庭教師の分際で生意気な。

 やっぱり罰を……でも、それだけ私のことを見ていてくれたってことかしら。

 まあ、もう雇用はしていないし、許してあげるわ。

 〝ファラーラ・ファッジンいい人作戦〟のおかげで命拾いしたわね!



「それはよいことだな。一晩で人が変わるなど、それこそ魔法かと疑いたくなるからな」

「魔法だなんて、そんなご冗談を。おほほほほ!」



「あはははは」と笑う先生と一緒に、とりあえず笑って誤魔化したわ。

 だけど、ひょっとしてあれは悪夢ではなくて何かの魔法なのかもしれない。

 そんな考えが浮かんできて不安になる。


 魔法というよりむしろ呪い?

 私は誰かに呪われているのかもしれない。

 いやだ、心当たりが多すぎて犯人が思い当たらないわ。


 でもはっきり言って、今のところ何の支障もないのよね。

 ならこのままでよくないかしら?

 むしろ呪い返しで相手が苦しめばいいのよ。

 ざまあみろ、だわ。


 おーほっほっほ!

 って、そもそも呪いのわけもないわね。

 もしあの悪夢が本当のことだとしたら、十分に私は罰を受けているわけだから、わざわざ呪う必要はないもの。


 これが夢だろうが現実だろうがどっちでもいいわ。

 今はとても楽しいし、蝶子だって浮気男と結婚しなくてすんだんだもの。

 きっと私のように蝶子も目覚めるはず。

 世界は違うけれど、無事に目覚めることができるように呪い――じゃなくて、念を送っておきましょう。

 ついでにあの男はクズだってことも教えておかないとね。



「――ああ、それと。今日提出したレポート。誤字脱字が多すぎだぞ。もう一回やり直しな」

「ええ……」

「だから『ええ……』はこちらのセリフだ。授業中といい、今といい、このレポートといい、〝心ここにあらず〟が過ぎるぞ。もっとしゃんとしろよ」

「――はい。すみませんでした」

「ああ。では帰ってよし」

「失礼します」



 フェスタ先生は若いけれどしっかりしている、というより抜け目ないわね。

 ちょっと面倒くさいタイプだから、あまり目をつけられないようにしないと。

 イケメンだけど。


 深々と頭を下げて職員室を出ると、私は少し早めに歩いて待っているはずの馬車へと向かった。

 早くお肌に優しい化粧品を手に入れたいわ。




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