表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
250/253

嵐2

 

 しまった!

 シアラを置いて逃げてしまったわ!

 どうしよう!?


 ううう。

 盾にするつもりだったけど、やっぱりこのまま見捨てるなんてできない!

 だって、シアラだけが酷い我が儘だった私を見捨てずに仕えてくれてたんだもの。


 やればできる子、ファラーラ。

 ここで主人として動くべきは、シアラの救出! 

 目指せ、忠誠心MAXゲット!



「シアラ! 助けにきたわよ!」

「おはよう、愛しのファラーラ! 久しぶりに私に会えて、恥ずかしくて逃げてしまったんだな?」

「……ベルトロお兄様?」

「しかも照れ隠しにあんな可愛い炎魔法を放つなんて」



 あ、あー。

 この騒ぎの元凶はすべてベルトロお兄様なのね。

 耳をすませば確かに遠くから聞こえてくる悲鳴。

 お母様がおっしゃっていた「王都中が大騒ぎ」って、そういうことね。



「……お兄様、いきなり魔獣を連れて戻らないでください」



 そのせいで私は淑女にあるまじき醜態をさらしてしまったのよ。

 シアラとお母様の前でだけだけれど。

 今朝からの体の不調は嵐(ベルトロお兄様襲来)の前兆だったんだわ。

 お兄様、気圧まで操らないでください。



「あいつはもう相棒なんだ。離れることなんてできないだろう?」

「……そうですか」

「それに陛下に許可はいただいている。王都の警備の者たちにも通達しているから、あいつが攻撃されることもないぞ」

「……そうですか」



 でも警備の人たちは大変でしょうね。

 この王都のパニックを抑えなければいけないんだから。

 ご苦労様だわ。

 それに……。



「お兄様、あの……相棒さんは女の子なのですか?」

「さすがファラーラ! よくわかったな!」

「ええ、当然です」



 先ほど目が合ったときの嫉妬に満ちた視線は魔獣とはいえわかりました。

 あとすごく値踏みされていましたから。

 ベルトロお兄様が女性にモテることは知っていましたが、まさか魔獣まで虜にしてしまうとは恐るべし。

 やっぱり殿下も剣だけでなく、女性の口説き方とか教えてもらったんじゃないかしら。

 それであんなに簡単にす、好き、とか言えるようになったとか?



「ファラーラの発案のおかげで、私はあの子と――ラブと出会うことができたからな。ファラーラには感謝してもしきれないな」

「……ラブ?」

「あの子の名前だ」

「それはわかります。ですが、なぜそのお名前にされたのですか?」

「色々と呼びかけたんだが、ちっとも反応しなくてな。たまたま口にしたラブが気に入ったのか、ようやく答えてくれたんだ」



 ラブ。それは愛。

 そして恋人への甘い呼びかけだったりするのよね。

 だけどそれは蝶子の世界でのこと。

 この世界ではただの音の羅列なのに。


 これは偶然? それとも必然?

 いえ、難しいことを考えるのはフェスタ先生に任せるとして。



「お兄様、いい加減に着替えたいので出ていってくださいませんか?」



 そもそもどこから入ってきたのですか?

 窓からですか。そうですよね。



「ああ、すまなかったな。あんなに小さかったファラーラも、今では立派な女性に成長したんだな」

「そうなんです! 背もずいぶん伸びたんですよ!?」



 なのに誰も触れてくれなかったこの話題。

 さすが女性の心を摑むベルトロお兄様だわ。

 私が望んでいる言葉をくれるなんて。


 嬉しくって、にっこり笑顔をお兄様に向けた途端、魔獣が吠えた。

 痛い、痛い、耳が痛い。



「こら、ラブ! 静かにしなさい!」



 お兄様に叱られて、魔獣は――ラブさんはしゅんとうなだれたように見える。

 あんなに鋭い目に涙がたまっているように見えるのは気のせい……仕方ないわね。

 私とお兄様の関係を、きちんと(お兄様が)説明しておくべきね。



「お兄様、ラブさんはお兄様のことが大切すぎて私に嫉妬してしまったんだと思います。ですから、ちゃんと私が妹だと説明してくださいませんか?」



 ラブさんが大切なのはお兄様。

 お兄様が大切なのは私。

 ということは、ラブさんが大切なのは私。

 これは当然の法則よね。

 ※ただし、血縁関係に限る。


 そう。私は小姑。

 お兄様との愛を貫くために、私が障害となるか潤滑剤となるかはラブさんの態度次第だから。

 さあ、私に媚びへつらいなさい。


 お兄様がまるで愛を囁くようにラブさんに話しかけているのを見守る。

 ラブさん、ちょっとうっとりしていません?


 あら、シアラが衣装部屋から私のドレスを持ったまま、出てくるべきか迷っているみたい。

 無事だったのね。よかった。

 もしシアラに何かあったら私の持てる全ての(人脈)力を使って、ラブさんを高級バッグにするところだったわ。


 ひとまずシアラにはしっしっと手を振って待つように指示。

 今また別の女性――シアラが姿を現すとややこしくなるもの。


 さてと。

 私は恋人同士の会話を盗み聞くほど野暮ではないので、その間に別の窓に近づいてラブさんをじっくり観察しましょう。


 目が合ったときには頭から丸呑みされるかと思ったけれど、改めて見るとそれほど大きくはないのね。

 とはいえ、冷静になってみると、どこかで見たことがあるフォルムね。

 ええっと。

 魔獣図鑑か何かかしら?


 違うわね。

 魔獣の絵姿を見るだけで気絶するのが淑女の嗜みだもの。

 だから怖いもの見たさで、夜中にこっそりお布団を被ってしか見ていないわ。

 そんなふうにしか見ていないのに、この私が覚えているわけがないのよ。


 あ! 思い出したわ!

 そうよ。

 蝶子の世界の映画か何かで見たことがあったのよ。

 個体名は確か……。


 ドラゴン!





活動報告にお知らせがあります。

よろしくお願いします(*´∀`*)ノ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 全編通じて面白いです。 ファラーラのボケっぷりに、思わず声を出して笑ってしまいます。 [一言] ぜひぜひ連載を再開してください。
[気になる点] 書籍から来ました。 こちらで物語の続きはあるのでしょうか?
[良い点] ファラーラが面白い [気になる点] 続き [一言] すごく楽しみにしていて読み直したりしていますが、ここではもう続きを更新されないのでしょうか?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ