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婚約式2

 

「では、噂は本当だったのですね!?」

「へ?」

「どのような婚約式になさるのですか!? やっぱり伝統に則ったものでしょうか!? それともファラーラ様らしく画期的なものですか!?」

「そ、それは……まだ教えられないわ……」



 だって何も考えていないもの。

 そもそも婚約式なんて考えてもいなかったんだけど。

 まずいわ。

 ミーラ様だけでなく、レジーナ様もエルダも期待しているみたい。


 それならいっそのことやってしまう?

 期待されたら応えずにはいられないもの。

 ああ、でも殿下にまた拒否されてしまうかも。

 あの屈辱を再び受けてもいいの?


 否!


 そう。あれは忘れもしない(今思い出したけど)卒業した翌日。

 この私がわざわざ王宮に赴き、殿下に婚約式のことを提案したのよ!

 そのときの殿下の言葉を忘れはしないわ!(忘れてたけど)


『わざわざ立会人の前で誓約しなくても、この婚約は君が何年も言い回っていたのだから、みんな知っているよ。今さら必要ないだろう? 悪いが時間もないんだ』


 異議なし!

 あの時に私が傍聴していたなら、そう叫んでいたでしょうね。

 どうせするつもりのない結婚だもの。

 無駄無駄無駄無駄無駄!

 時間もお金も無駄になるだけだわ。


 あら?

 ちょっと待って。

 あの悪夢の中で、私は確かに招待もされていないのに殿下に会いに王宮を訪ねたのよ。

 で、私は(中身は蝶子だけど)昨日ご都合を伺いはしたものの、殿下に会いに行ったわけで……。


 やだ、怖い。

 これじゃまるで予知夢みたいじゃない!

 多少のズレは生じているものの、このまま婚約式を殿下に提案したら拒否される可能性大。

 それは即ち、婚約破棄へ一歩前進。

 サラ・トルヴィーニ大勝利!


 ここは不安の芽を摘むべきね。

 ミーラ様に婚約式なんてしないと伝えれば、あら不思議。

 明日には王都中の貴族に知れわたるわね。

 よし!



「婚約式のことなのですけど、実は――」 

「ああ、ダメです! やっぱり当日まで楽しみにいたしますので、そのまま秘密になさっていてください!」

「え?」

「ファラーラ様はお優しいから、秘密の計画を教えてくださるおつもりなのでしょう? 私が知りたがったばかりに、余計なお気遣いをさせてしまい、申し訳ありませんでした」

「い、いえ。いいのよ」



 いや、よくないわよ。

 ミーラ様に誤解されたままだと、婚約式の噂がもっと広まってしまうわ。

 仕方ない……。

 ここは『必殺・絶対誰にも言わないで!』戦法でいくしかないわね。

 これはさらに噂が広まってしまう逆効果を生じやすい技でもあるけれど、ミーラ様の私への友情と忠誠心を信じましょう。



「ミーラ様、まだ正式に決まったことではないから、中止になるかもしれないの。だから絶対! 誰にも! 言わないでね?」

「はい! もちろんです、ファラーラ様!」

「ありがとう、ミーラ様。エルダとレジーナ様もお願いね?」

「うん、わかった。素敵なお式になるといいね」

「私も誰にも話しませんわ。それに、私は婚約式に出席できる身分ではございませんので、お話を伺うのを楽しみにしております」

「何を言ってるの!? レジーナ様は私の大切なお友達なのよ! もちろんエルダもミーラ様も! 招待しないわけないじゃない! ぜひ、来てほしいわ!」



 待って待って。

 どの口がそんな調子のいいことを言ってるの?

 それは私の可愛いお口。

 だってお友達に寂しい思いなんてさせたくないもの。


 口は禍のもと。

 だけど、嘘から出たまことにしてみせるわ!

 お友達に喜んでもらうためなら、たとえ火の中、水の中。

 これがあの悪夢実現への序章だとしても、怯んだりなんてしない。


 そうよ。

 夢では婚約式を断られてしまったけれど、今度はお断りされないようにすればいいのよ。

 それって、現実を悪夢と反転させるってことよね。

 即ち、ファラーラ・ファッジン大勝利!


 無事に婚約破棄されることなく、お父様も無事、投獄されることもなくて……ん?

 婚約が破棄されなければ、そのまま結婚?

 私が殿下と? 殿下が私と?

 ふぁあああ!



「私にまでご配慮いただけるなんて……。ありがとうございます、ファラーラ様」

「ファラーラ様、ありがとうございます!」

「ありがとう、ファラ。でも無理はしないでね?」

「だ、大丈夫よ! 楽しみにしていてちょうだい!」



 この! この! 見栄っ張りな自分が憎いわ!

 私の可愛さが余りすぎたのが原因ね。


 とはいえ、何をどうしたって、あと二年は結婚できないわけで……はなくて、猶予はあるのよ。

 それなら婚約解消はおいおい考えるとして、今は婚約式をどうやって殿下に承諾させるかだわ。


『必殺・お父様にお願い!』戦法でいくべきかしら。

 アルバーノお兄様は最終奥義だし、ベルトロお兄様は論外。

 チェーリオお兄様は研究に専念していただかないとね。

 悪夢では真正面から殿下に対峙したのが敗因なのよ。


 それに今の殿下は私のことが、す、す、好きなんだから!

 婚約式だって喜んで承諾してくれるんじゃないかしら。

 だって、私のことが好きなんだもの!


 はあ。つらいわあ。

 私のことがお好きな殿下に、いつか婚約解消を申し出ないといけないなんて。

 本当に……つ、つらくなんてないもの!


 だって、私は殿下のことなんて別に……。

 たぶん思い込みよ。

 二年も離れていたから、寂しいって気持が誤変換を起こしたのよ。

 ええ、寂しかったのは認めるわ。

 誰だって友達が遠くに行ってしまったら寂しいものでしょう?


 とにかく今は、婚約式を決行すること。

 その式で何か斬新な催しをすることね。

 それが私、流行の最先端を担うファラーラ・ファッジンの役割だから。





本日3月15日はコミカライズ1巻の発売日です!

詳しくは活動報告にて。

オリジナル要素満載でとっても面白いので、ぜひぜひよろしくお願いいたします。


※しばらく更新は不定期ですが、もう少しして落ち着いたら定期更新に戻りますので、お待ちくださると嬉しいです!


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― 新着の感想 ―
[良い点] 大好きで何度も読み返している作品です。 コミック版も好きですが、こちらの原作も情景を簡単に描くことができ作品に没入できるので時間を忘れて読んでしまいます。 [一言] 以前現段階では続きが書…
[良い点] ファラちゃんは子犬が尻尾を丸めながらもキャン×キャン吠えてるみたいで可愛い(人´ з`*)♪ [気になる点] 果たして殿下のお返事は? [一言] 婚約の後は結婚へ走れε=(ノ・∀・)ツ
[良い点] >それは私の可愛いお口。 >私の可愛さが余りすぎたのが原因ね。 なら仕方ないかwとおもわされてしまう! この作品は読者をお兄様たちのように変えてしまう恐ろしい作品ですね。
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