表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
245/253

入れ替わり4

 

「にわかには信じがたい話だな。はっきり言って、荒唐無稽だ」

「ですが——」

「信じないと言っているわけではない。むしろ信じるべきだろう。それでいろいろと疑問に思っていたことが解決する」



 すごい。本当に信じてくれるなんて。

 どうしてファラーラはもっと早くに相談しなかったのかしら。

 そうすればこんなことにもならなかったのに。



「だが疑問は解決しても、原因がわかったわけではないからな。おそらくそれは古代魔法の一種ではないかと思うが、詳しく調べないことには断言はできない。だから君の……サイオンジ君の話を詳しく聞かせてくれないか」



 先生はそう言って、近くにある椅子を示した。

 これは本気で聞いてくれるってことね。


 そこからは私の世界についてなどは省いてすごく簡単に説明した。

 ファラーラに似た物語を学生時代に本で読んだこと。

 その本を貸してくれた——奪い取った相手に、大人になってから婚約者を奪われたこと。

 それが本での内容によく似ていたこと。

 ファラーラも同じように感じたらしいけれど、なぜかファラーラは十二歳からやり直しているようだったこと。

 それからずっとお互い時々相手の夢を見ていたこと。

 そして今、二人の体が——正確には心が入れ替わっているみたいなこと。



「――なるほど。概要はだいたいわかった。だがすぐに答えは見つけられないのでしばらく時間をいただいてもいいだろうか?」

「それは……ええ。どうしようもありませんものね」



 これですっきり。

 どう考えても魔法のあるこの世界の影響で私まで巻き込まれてしまったと思っていたのよね。

 だからこちらで原因を究明してくれないことには、ずっとファラーラのお馬鹿っぷりを見せつけられるかもしれないもの。

 ファラーラはやり直すことができて、王子様と幸せに暮らしました。めでたしめでたし。って。

 そうなると、意外にあの本の結末も変わっていたりして。

 ……って、まさかね。



「ところで、先生は長期休暇なのに、なぜ学院にいらっしゃるのですか?」

「生徒は休みでも教師はすることがあるんだよ。まあ、今日はさすがに休んでいる先生が多いがな」

「大変ですね。お疲れ様です」



 おかげで私は助かったけれど。

 椅子に座ったまま頭をぺこりと下げると、先生は眉間にしわを寄せて私を見た。



「どうかしましたか?」

「いや……中身は別人だとわかっていても、その姿で本気の労いの言葉をもらうと戸惑うな」

「確かにそうかもしれませんね」



 今までのファラーラの所業は酷いものだったわ。

 だけど何が一番怖いって、ファラーラにまったく悪気がないところなのよ。

 そして純粋な馬鹿。

 だから他人からの愛情を疑うことがないし、他人の悪意にも気付きもしない。

 それで以前は暴走してあんなに馬鹿で傲慢になってしまったのよね。


 それに比べて、私は他人の悪意に過敏になりすぎていた気がするわ。

 小さい頃の私はみんなから注目されたかった。

 でも目立とうとすればするほど上手くいかなくて、反感を買っていたのよね。

 しかも弱気なところを見せたくなくて逆に強気に出て大失敗。

 私ももう一度やり直せたら、せめて高校から――社会人になってからでもいい。

 そうすれば誰かから少しでも愛されたのかしら。



「私もやり直せたらなあ……」

「どうした? 君は明日にでも死ぬのか?」

「はい? そんなことはないと思いますけど?」



 このまま元に戻れないかもしれないとはちょっと心配だけど。

 ファラーラでいる限りは身の安全は保証されているようなものだし、私もまあ大丈夫なはず。



「それなら、やり直せるじゃないか」

「今の私はファラーラなので、そう思われるかもしれませんが、本当の私――西園寺蝶子はもう二十六歳なんです」

「それで? やり直そうと思えば十分に間に合う年だろ?」

「ですが私……先ほども言いましたけど、すごく傲慢な人間なので、みんなに嫌われているんです」



 誰にも打ち明けられなかったここ最近の後悔。

 おそらくもう二度と会うはずもないからか、自然と口にしてしまったのかもしれない。

 それなのに、フェスタ先生は笑い出した。

 ちょっと酷くない?



「いや……すまない。笑いごとじゃないのはわかっているんだが、本当にファッジン君と——話に聞いた悪夢のファッジン君とよく似ていると思ってな」

「それはわかってます。でもファラーラは時を戻せたみたいにやり直せているのに、私は今のままなんて……」

「そうだな。そのことを考えれば、この謎が解けるかもしれないな。たとえば、ファッジン君の場合はお父君が——ファッジン公爵が亡くなられ、彼女自身は投獄されてしまった。これは時を戻さなければやり直せないことだろう?」

「……確かに。それでは私はこのままやり直せないってことでしょうか?」

「さあな」

「はい?」



 それはあまりにも投げやりじゃない?

 私がファラーラじゃないから、適当な返事なの?

 ちょっと傷つくわ。



「聞いていると、君がやり直したいのは人間関係だろう? たとえば、君の婚約者を奪った相手に謝罪されたとして、許せるのか?」

「……無理です」

「そうだろうな。よっぽどの聖人君子でもなければ、被害を受けた側は簡単には許せないことのほうが多いんじゃないか。うわべだけの許しをもらって満足するのは加害者と綺麗事の好きな第三者だけだよ」

「それならどうしろっていうんですか? 私にはやり直すチャンスもないってことですか?」

「自分の人生をやり直すことに、他人の許しは必要なのか?」

「……え?」

「自分が過去に犯した罪があるなら、贖罪の気持ちを抱えて生きていけばいいだろう? そして同じ罪を犯さないことだ。それがやり直すってことじゃないのか?」

「先生は……」

「何だ?」

「いえ、ちょっと知り合いに似ているなと思っただけです。厳しいようで甘いところが」

「その知り合いも気の毒だな」



 本当は別のことを言いかけたけれど、私が踏み込むことでもないので違う言葉で誤魔化した。

 それがどういう意味か察したらしい先生は本気で彼に——相上に同情しているみたい。

 それはかなり正解だと思うわ。

 ファラーラに苦労させられていたもの。いい気味よ。……私の姿でっていうのが困るけど。


 ふふっと笑うと、フェスタ先生はまた眉間にしわを寄せて変なものでも見るように私を見た。

 あ、今の私はファラーラだったわね。



「やはりその姿だと違和感がすごくて本当にこれは夢なんじゃないかって思えてくるな」

「夢かもしれませんよ?」

「そうだな。だとすれば、これは君の夢か私の夢か、ファッジン君の夢か、ひょっとして別の誰かの夢かもしれないな」

「私には私の意思があるのに、誰か別の人の夢なんてことがあるんですか?」

「さあ、どうだろう? 君の意思も私の意思もすべてはただの概念でしかないからね。今、目に見えているものさえ幻でしかないかもしれない」

「……難しすぎてわかりません」

「幻に惑わされてはいけないってことだ」



 そう言ってフェスタ先生は微笑まれた。

 それは幻惑魔法とやらを扱えるから出てくる言葉なのかしら。

 だけどもう、夢かどうかなんてどうでもよくなるくらい、先生の微笑みは破壊力が強くて頭がぼうっとしてくる。

 今日はもう帰って眠るのが一番だわ。



「……今日は突然お邪魔して申し訳ございませんでした。これで失礼いたします」

「ああ。くれぐれも気をつけてな」



 今は夢の中なのかしら。

 それは私の? ファラーラの夢?

 やっぱりよくわからない。ただとても眠いだけ。

 もうご飯もいらないから今はただベッドに横になりたい。

 とにかく、すごく疲れたわ。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] まさかの入れ替わり!? 面白さも加速してます。 面白過ぎて一気読みしたけど星付けるの忘れる位に面白いです。
[良い点] もんのすごい面白い! [気になる点] 殿下の押しが弱すぎる。もっと溺愛してほしい [一言] これは、12月全く更新されていませんが、どうかなさったのでしょうか?更新めっっっちゃ楽しみにして…
[一言] あれ? フェスタ先生って芸人のツッコミ担当じゃなかったっけ?(酷い 先生が先生していて、カッコいいじゃないですかー こんな人を導ける素晴らしい先生なのに、ファラには全然通用しないなんて、全…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ