入れ替わり1
「――って、どうにもならないわよ!」
どうしてあんなやつに頼るのよ。
って、ちょっと待って。
ここはどこなの?
「おはようございます、ファラーラ様。もうお目覚めなさいますか?」
「……シアラ?」
「はい、お邪魔してしまいましたでしょうか?」
「そんな……そんなこと……まさか!」
「ファラーラ様!?」
嘘でしょ? 嘘に決まってるわ!
急いでベッドから出て鏡を見ると、やっぱりファラーラ・ファッジンの顔が映る。
私たち、入れ替わってるー!?
「その、シアラ? 私……」
もう一度寝るわ、とベッドに戻りかけてふと思う。
ファラーラが信じていたように、眠って次に起きたときには元に戻ってるとして。
それならすぐに戻るよりも、せっかくだからこの世界を一日体験するのもよくない?
よし、目の保養に行きましょう。
「ええっと……今日の予定は?」
「本日はゆっくりお休みになりたいとおっしゃっておられましたので、特に何も入っておりませんが……」
「そうそう! ええ! そうだったわ!」
中身が違うってバレるんじゃないかヒヤヒヤするわ。
あの子、よくあんなに堂々としていられたわね。
しかも相上に服まで脱ぐ手伝いをさせるなんて!
絶対にあの子、おかしいわよ。
もし相上が変な気でも起こしたらどう責任を取ってくれるの?
でもすごく女性の扱いというか、髪を乾かすのだって手慣れてて……。
「って、桜井誠人!?」
「はい!?」
「あ、ごめんなさい。ちょっと考え事をしてしまっていて……」
「ファラーラ様、いかがなさいました? お考えに夢中になってしまわれるのも、突然声を上げられるのもいつもとお変わりありませんのに、お体の調子は悪くございませんか?」
「え、いいえ。大丈夫よ。その……着替えたいのだけれど……」
「かしこまりました。それではすぐに準備してまいります」
そういえば、ファラーラって元々おかしい子だったわね。
シアラも驚いていなかったというか、私が謝罪したことに驚いていたみたいね。
大丈夫かしら。
私にあの子のような振る舞いはできないわ。
でも、せっかくだもの。
やっぱりこのチャンスを逃すのは惜しすぎる。
「お待たせいたしました、ファラーラ様」
「いえ、そ……そうね」
こういうときってどう返事してた?
わからないから黙っているほうがいいわよね。
そう思って何も言わずにいたら、シアラともう一人女性がやってきて、私の――ファラーラのパジャマというかネグリジェを脱がせ始めた。
これくらい自分で脱げるのに。
でも我慢するべきよね。
だからこそあの子は相上に――いえ、桜井誠人に服を脱がさせたんだもの。
あの桜井誠人を使用人扱いするなんて、さすがよね。
何が誠の人よ。
相上だなんて嘘を吐いて。
みんな嘘ばっかり。もう男の人なんて信用できない。
「朝食はお部屋でとられますか? それとも――」
「部屋でとるわ」
「かしこまりました」
朝食室でファラーラの家族に会ってしまったら、ばれてしまうかもしれないものね。
家族といえば、ファラーラにはお兄さんが三人もいるのよね。
羨ましい。私は生意気な弟の雄大だけ。
それであのあと――アルバーノお兄様とやらはどうしたのかしら。
「シアラ、その、私が学院を卒業してから何日経ったかしら?」
「昨日……ですが……」
「あ、昨日ね! うん。そうそう! それじゃ、アルバーノお兄様は今どうされているかわかる?」
卒業したのが昨日だったなんて、さすがにシアラも困惑したみたいね。
慌てて質問を続けたら、今度は心配そうに表情を曇らせた。
「アルバーノ様は、殿下を王宮までお送りされたそうですが……まだお戻りになっていないようです」
「そうなの……」
なんだ。
せっかくだからイケメンを生で見ておきたかったのに。
もう二人のお兄さんもかっこいいけど、一緒に住んではいないのよね。
こうなったら、旅の恥はかき捨てよ。
「ねえ、シアラ。今日は王……殿下とアポ――いえ、お約束していないんだけど、会いにいくことは可能かしら?」
「それは確認いたしませんとわかりませんが……お会いしたい旨の使者を立てますか?」
「――ええ。お願い」
もう後には引けないわ。
だけど本物の王子様に会えるチャンスなんてこの先ないだろうし、何よりすごく好みの美少年なんだもの。
このチャンスを最大限に活かさないと。
ファラーラも好き勝手にしているんだから、私も好きにさせてもらうわ!




