化粧品2
「嘘でしょう……」
「申し訳ございません。間違いないかと思われます」
「あ、いえ。シアラが謝る必要はないのよ。ただ驚いただけだから。ご苦労様」
あまりのショックに出た言葉で、またしてもシアラに謝罪させてしまった。
そろそろシアラも新しい私に慣れてくれてもいいのに。
それだけ染みこんだ習慣なのね。
まあ、それは時間が解決してくれることを信じて。
今は化粧品の問題よ。
お母様もまさか化粧水しか使っていなかったなんて。
そういえばお茶会のときの奥様方は「お化粧濃いなあ」なんて思っていたけれど、とにかく塗って隠すが基本なのかも。
それだとどんどん厚塗りになるだけよね。
しかも今さら気付いたけれど、お母様とお日様が出ているうちにお会いすることってあまりなかったのよ。
だけど思い出して、お母様のお顔を……。
お母様のご年齢は確かアラフォー。
他の奥様方に比べればお肌も綺麗だとは思うけれど、蝶子の世界のアラフォーよりは確実に劣るわね。
幸い私たちは小さい頃から日光は大敵だから、あまり紫外線(というものがあるのなら)に当たっていないことはよかったわね。
とはいえ、お化粧はただ塗ればいいってものではないのよ。
だからといって、基礎化粧品をどうすれば作れるのかはわからない。
アロエがいいってことくらい。
あと、ハトムギ、玄米、月見草。――が、何の効能があるのかも忘れたし、あるかどうかもわからないわ。
「ねえ、シアラ。この化粧水ってどこで手に入れているの?」
「そちらは出入り業者のテノン商会から仕入れていたかと思います」
「ドレスも仕立ててくれている?」
「さようでございます」
「ふーん……。では明日、学園から帰ってくる時間に合わせて呼んでおいてくれる? 会長ではなくていいけど、商品についてできるだけ詳しい人をお願い」
「かしこまりました」
いったいどういう経緯で、しかもどういう成分でこの化粧水が作られているのか知りたいわ。
はっきり言って、十二歳の私は化粧水を毎日使っていても、ただの水であろうとも効果はわからないと思うのよね。
だけどお母様のご年齢なら、その効果の差は長く使えばそれだけ出ているはず。
まあ、生まれ持った体質とかあって、まったくニキビができないとか、色白とか羨ましい人もいるけれど。
この化粧水の今の感想としては、悪徳商売でただの水を売りつけられているとは思えない。
それならこの化粧水が作られたように、他にもっといいものができる気がするのよ。
確かスクワランはナントカサメの肝臓か何かの油だったけれど、植物のオリーブで極々わずかだけれど抽出できたはず。
蝶子はオリーブ成分100%のものを使っていたから。
とりあえず今は魔法のレポートは中断して、図書室の植物図鑑を読んでみましょう。
……あら、そういえば図書室にそもそもそんなものがあったかもわからないわ。
だってこの屋敷で生まれ育って十二年になるけれど、図書室に入ったことなんてなかったものね。
でも大丈夫。
場所は知っているから。
ちなみにキッチンの場所や地下室、屋根裏部屋などはどうなっているのか知らないわ。
興味もないし。
「シアラ、今から図書室に行ってくるわね」
「図書室でございますか!?」
「ええ、ちょっと調べたいことがあって」
「調べ物でございますか!?」
「……ええ」
なぜかしら。
シアラは純粋に驚いているだけなのに、馬鹿にされている気分。
まあ、以前の私は実際に馬鹿だったんだけど。
それは五年後もほとんど変わらなかったのよね。
あーあ。
こういうとき、蝶子の世界のスマホがあれば簡単に検索できるのに。
蝶子はそのありがたみもわかっていなかったけれど。
先人の開発者には感謝ね。




