帰宅2
「殿下はあの人と違って、本当に誠実な方だと思っていたのに!」
「……あの人?」
「こんな破廉恥になってしまわれるなんて、最低です!」
「――え? あっ、ファラーラ!」
ちょうど馬車が公爵邸に到着して止まったから、扉が開かれるのも待たずに自分で開けて飛び出した。
踏み台なんて降りるときにはいらないもの。
制服なら身軽だし、運動神経にだって自信がある。
私、逃げ足は速いですから!
だから殿下の呼び止める声だってもう聞こえません。
今日はエルダたちと帰るつもりで屋敷に待機させていたシアラが迎えに出てきてくれたけれど、そのまま通り過ぎて部屋まで猛ダッシュ。
本当ならいくら婚約者同士だからって二人きりで馬車に乗るのだってダメだったのよ。
殿下が侍従を御者席に座らせたのは、私に気を使ってくださっているからだと思ったのに。
あんな……あんな……。
「ファラーラ、いったい――」
「殿下が浮気なさるなんてー!」
やっぱり私は婚約破棄される運命なんだわ!
今まで頑張って謙虚に生きていたのに。
それに社会貢献だって(不労所得のついでに)したのよ。
美しさを追求する女性のための化粧品開発だって(ジェネジオが)頑張ったし、移動が楽になるように空船やマイウェイの開発に(フェスタ先生が)頑張ったし、新薬開発だって(チェーリオお兄様が)頑張ったんだから。
その間、エヴィ殿下は遊学と称して浮気なさっていたんだわ。
最初の一年と少しはトラバッス王国の学生だったから真面目に過ごされていたのかもしれないけれど。
二年目の殿下に何が……わかったわ。
ベルトロお兄様ね。
私だってもう子どもじゃないんだから、ベルトロお兄様のことはわかっているわ。
色々な女性と遊んでいるって。
きっと殿下もお兄様と一緒に、ダンスでもないのに女性と手を繋いだりしていたのかも。
ひょっとしてもうキスまでしているかもしれない!
「相手はいったい誰なの!?」
サラ・トルヴィーニはしっかり監視させていたから、この二年間で長期的に王都を離れてはいないはず。
可能性としては、ベルトロお兄様とご一緒に過ごされていた間に出会った女性よね。
いえ、でもトラバッス王国の学院に相手がいた可能性もまったくないわけではないわ。
「――ファラーラ。殿下が浮気とは、どういうことだい?」
「アルバーノお兄様?」
気が付けば部屋の中にアルバーノお兄様がいらっしゃった。
お仕事はどうされたのかしら。
まあそれよりも、いくら妹の部屋とはいえ、女性の部屋に入るときにはノックくらいしてほしいわよね。
「ファラーラ、殿下がどうされたのかちゃんと話してみなさい」
「それは……その、以前の殿下はとても礼儀正しくて紳士でしたのに、先ほどは……馬車の中でいきなりキスなさったんです!」
「……はは。そうか」
もちろん、今まで挨拶代わりの手の甲や頬への軽いキスはあったわよ。
でも、だからといって、あんな、髪にキスするなんて不埒なことをしてはダメなのよ。
蝶子の世界でも、あれは浮気男がよくやる仕草だったわ。
殿下のような美少年があんな……あんなふうに髪の毛にキスしたり、手を繋いだりしてくるのも女性の心の平穏のためにはよくないわ。
これについても新たな法律を考えておくべきね。
だって殿下が他の女性にもあのように振る舞っていらっしゃったのだとしたら、被害者続出のはずだもの。
「他の女性……」
殿下は毎週、楽しいお手紙を送ってきてくださっていたけれど、その間に他の女性とも仲良くされていたってことよね。
そう考えると、ここ最近お手紙が滞っていたのも怪しいわ。
やっぱりベルトロお兄様が諸悪の根源ね!
って、あら? いつの間にかアルバーノお兄様がいらっしゃらなくなっているわ。
ひょっとして先ほどのお兄様は夢だったのかしら。
まあ、いいわ。
夢といえば、あの悪夢の中でサラ・トルヴィーニと浮気していたように、殿下は浮気性なのかも。
そう考えると、なんだかモヤモヤしてくるわね。
それにあのとき以上に気分が悪くて胸が痛い。
馬鹿だわ、私。
あの悪夢や蝶子の夢で、浮気されることがどれほどつらいか――屈辱かわかっていたのに。
殿下の遊学前は好きな方が別にできて、円満婚約解消できたらいいなって思っていたけれど、やっぱり嫌。
こうなったら振られる前に、振ってみせるわ!
いつもありがとうございます(*´∀`*)ノ
ちょっと忙しいので不定期更新になりますが、これからもよろしくお願いします。




