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卒業3

 

 やだ、私まで涙が出てきてしまいそう。

 だけどここで泣くわけにはいかないわ。

 次は――最後は私の出番。

 私が泣くのではないの、私が泣かせるのよ!



「では、最後に感動的なスピーチを頼むよ、ファッジン君」

「……はい」



 ぐぬぬぬ。

 おのれ、ブルーノ・フェスタ!

 ここにきてさらにプレッシャーをかけてくるとか、どれほど根に持っているの?

 いいわ。覚えていなさい。

 アルバーノお兄様の解読途中の古代魔法の実験台にしてやるんだから!



「――私は……えっと……」



 あら? おかしいわ。声が上手く出せないなんて。

 この三年間の感想でいいのよ。

 殿下に婚約破棄されないように、みんなに嫌われないように努力して……友達ができたこと。

 課題が大変だったこと。

 それから……それから……。



「この三年間、とても……楽しかったです。皆さん、ありがとうございました」


 

 って、子どもの感想文みたいじゃない!

 もう私は十五歳なのよ!

 背だって伸びて、制服だって何度も仕立て直して、分厚い教科書の最後まで折り目をつけたんだから。


 でも、もういいわ。

 レジーナ様はハンカチで涙を拭いてるし、他にも泣いている子がいるもの。

 多くを語らないのもまた粋なのよ。


 フェスタ先生にもまあお世話になったし、軽く頭を下げて椅子に座る。

 えっと、ハンカチはどこかしら?

 あ、こっちのポケットね。


 もちろん私の涙は卒業を演出するためのものよ。演技ったら、演技なんだから。

 フェスタ先生が何かおっしゃっているけれど、少し耳鳴りがしてよく聞こえないわ。

 大変。あとで医師に診てもらわないと。


 まるで殿下をお見送りしたときみたい。

 ということは、これは泣いたせいかもしれないわね。……演技だけど。

 仕方ないから何をおっしゃっているのか、先生には後日繰り返していただきましょう。



「――ファラーラ様、先ほどはとても素敵なお言葉でしたわ。とても簡潔で、それでいてぐっと胸に刺さりました」

「ファラーラ様のお気持ちが痛いほど伝わってきて……本当にこの学院生活をファラーラ様とご一緒できたこと、誇りに思います」

「うん。私も思わずもらい泣きしちゃった」



 そうでしょう、そうでしょう。

 狙ってやったのよ。

 エルダもレジーナ様からもらい泣きしてしまったのね。


 それもこれもぜーんぶ、私の最後の挨拶が素晴らしかったから。

 ごてごて飾り立てるよりも一言二言のほうが心に響くことがあるのよ。

 レジーナ様、ミーラ様、エルダたちと話していると、次々に他の生徒たちもやってきて、それからは大忙し。


 ええ。私も卒業は寂しいけれど、あなたたちはもっと悲しいわよね。

 だって今までのように私と気軽に会えなくなるもの。

 でも社交界でお会いしたときには声をかけてくれていいのよ。

 元クラスメイトとして仲良くしてあげるわ。


 特待生の子たちはもう二度と会えないかもしれないけれど、それも運命。

 私と過ごした素晴らしい思い出を胸に、新天地でも頑張ってくださいな。

 フェスタ先生も私と同様に生徒に囲まれているから、わざわざ挨拶しなくてもいいわよね。

 どうせまたお会いする機会はたくさんあるはずだもの。


 まずは試したい古代魔法があるのよね。

 その名も〝好きな人と話すときに緊張しないでいられる方法〟。

 いいことなのにどうして廃れてしまったのかと思ったけれど、アルバーノお兄様がおっしゃるには人の心に作用するものだからなんですって。


 だけどそれって、幻惑魔法も一種の古代魔法ってことじゃないかしら。

 ということは、フェスタ先生は失われた古代魔法の継承者ってことで、ある程度の耐性もあるってことよね。

 よし、大丈夫!


 あら、でもフェスタ先生に好きな人がいないと実験できないわ。

 うーん。

 チェーリオお兄様とお話されているときには別に緊張なさっているようには思えないし……。

 そうだわ!



「皆さん、ちょっとごめんなさいね」



 周囲に集まった子たちに断りを入れてから、フェスタ先生に近づいていく。

 すると、あら不思議。

 フェスタ先生を囲んでいた子たちが私に気付いて道を空けてくれるわ。

 さすが私。ひょっとして海さえも道を空けてくれるのではないかしら。



「ファッジン君もわざわざ挨拶か? 三年間、色々と問題は起こしてくれたが、無事に送り出すことができてほっとしているよ。卒業、おめでとう」

「ありがとうございます。先生には本当にお世話になってばかりで感謝しているんです」

「どうした? 熱でもあるのか?」

「私はいたって健康です。それよりも先生に質問があるのですが――」

「待て。その質問は受け付けない。君がどこも悪くないというのなら、その質問は私にとって不吉な前触れでしかない」

「そんなことはありませんわ。ただの他愛ない質問ですから。それで先生には今、好きな方はいらっしゃるのですか?」




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― 新着の感想 ―
[良い点] フェスタ先生、勘が冴えてるー!けど役には立ってないですね。 ファラ、意地でも演技だと言い張るつもりですね、いったところで温かい笑顔で見守られるだけでしょうけど。 で、フェスタ先生の好き…
[良い点] しんみりとした空気が最後の質問で亡くなりましたね。 [気になる点] この後の教室の騒ぎ。 [一言] >どうせまたお会いする機会はたくさんあるはずだもの。 もうフェスタ先生との約束忘れてる…
[良い点] 誤解と失言の申し子…! ファラちゃんそういうとこよ! 可愛いけど! [気になる点] フェスタ先生今夜布団を涙で濡らしそう… 元気出して… [一言] 皆卒業おめでとう!
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