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本音4

 

「今までずっと、ファラーラは僕ではなくて、王太子という立場の僕が好きなんだと――王太子の婚約者になりたいだけなんだと思ってたんだ。だから僕が遊学することにも興味がないのかと。学院でもファラーラから会いに来てくれたことは一度もないよね?」

「あら……?」



 そうだったかしら?

 えっと、私の記憶が確かなら……ないわ。



「それで情けなくも拗ねてしまって……ごめんね、ファラーラ。先ほどの態度も酷かったよね?」

「それは……ちょっと冷たいなとは思いましたけど……でも、怒らせているのは私ですから当然のことです」

「また模範的な返事になっているけど、それは本音?」

「本音……ではない、です……けど、それではダメなんですか?」



 もう、いったい何なの!?

 最初は冷たい感じだったのに、今はいつもと変わらず優しくて、以前の私は我が儘だったとか、嫉妬していたとか、模範的とか、本音がどうとか。

 さらには私が殿下を好きだなんて!



「ダメではないけど、最近のファラーラはすごく大人っぽくなってしまったというか、近寄りがたく感じていたんだ。でもそれも無理をしていたのなら、僕の前ではそんなに頑張らないでほしい」

「で、でも、殿下は以前の私を我が儘だと思っていらしたのでしょう? もし私が我が儘のまま好き勝手にしていたら、どう思われましたか? 不快に思われても拗ねたりはなさらなかったでしょう? それなのに本音をお訊きになったり、頑張らなくてもいいとおっしゃったり、そんなの勝手です!」



 そうよ。

 そもそも殿下が我が儘な私を嫌って婚約破棄を突き付けてきたんじゃない。

 だから破滅を回避するために今から頑張っているのに、ちょっと私が知的で可愛いからって拗ねて遊学なさるとか信じられない。



「私、殿下はずっとお優しくて賢明で素敵な方だと思っておりました。それなのに私にばかり理想を押しつけていらっしゃいますよね?」

「ファラーラ、僕はそんなつもりで――」

「どんなおつもりかはわかりませんが、私はそう感じたんです! 要するに、殿下だって我が儘です!」



 決まったわ。

 人を指さすのは失礼だけれど、この状況ではこれが一番かっこいいと思うのよね。

 びしっと人差し指を向ければ、殿下はぽかんとされた。

 きっと殿下は今までこんなことを言われたこともされたこともないんだわ。

 だけど私だからこそ、言いにくいことでも口にするのよ。


 って、あら?

 なぜ私は殿下にお説教をしているの?

 今日は謝罪にきたのに。

 それから世間に仲直りをアピールして、サラ・トルヴィーニにぎゃふんと言わせるつもりだったのよ。


 だけどこれでは仲直りどころか悪化するわよね。

 こんな生意気で失礼な子とは結婚できないって婚約破棄まっしぐらだわ。

 まさか私自身で婚約破棄の時期を早めてしまうなんて。

 覚悟を決めてもう一度しっかり殿下に目を向けると、俯き加減で唇をぎゅっと結んでいらっしゃった。


 あ、この光景には覚えがあるわ。

 あの悪夢で殿下が私に婚約解消を言い渡された直前の表情。

 もちろんお姿は五歳若いから幼くていらっしゃるけれど、この後すぐに厳しい視線を私に向けられるのよ。


 さよなら、私のやり直し人生。

 だが後悔はしていない!

 友達だってできて、不労所得の目処もついて、私の人生に悔いなし!


 これからは地味に暮らしながら古代魔法の復活を夢見て(フェスタ先生が)頑張るわ。

 いっそのこと呪詛返し返しの研究を(フェスタ先生が)するのもいいかもしれない。

 チェーリオお兄様にはファッジン公爵家の秘薬を開発してもらって、ベルトロお兄様には魔獣を手懐けてもらって、アルバーノお兄様にはサルトリオ公爵派の人たちの時間を長い講釈で無駄にしていただきましょう。


 私の短くも長い人生を振り返り、今後の計画を立てていると、いきなり殿下が噴き出された。

 そのまま声を出して笑い始められる。

 何? 何なの?


 はっ!

 まさかこれは私との婚約を破棄したいがために仕掛けられた壮大な罠だったの?

 婚約してからの私は品行方正、清廉潔白、知的で可愛いくてどこにも落ち度がないからと陥れるための芝居。

 ということは、リベリオ様が私を好きだというのも嘘の可能性大。

 今にサラ・トルヴィーニとリベリオ様が〝大成功〟と書いた看板を持って出てくるのかも。



「――ありがとう、ファラーラ。君の言う通りだよ」

「そんな、ひど……はい?」

「〝我が儘〟だなんて初めて言われたけれど、実際に最近の僕は聞き分けのない駄々っ子のようになっていたよね?」

「い、いえ、駄々っ子とまでは……」



 おかしいわね。

 いつまでこの茶番は続くの?

 看板を持って出てくるのなら、今が一番のタイミングでしょう?


 この部屋には隠れられる場所はないから、あの控室に続くはずの扉から出てくるかと思ってそちらを見ていたのにまだ出てこない。

 それどころか殿下は目に涙をためたまま、演技を続けられている。


 いえ、これは演技なの?

 だとしたら名女優ファラーラ・ファッジンも真っ青の迫真の演技だわ。

 ということは、殿下がおっしゃっているのは本音。

 これこそ、本音というものなの?



「いや、そうだよ。ファラーラが変わったことで置いていかれた気分になって、試すように遊学を決めたんだから」

「試す?」

「気を引きたかったというほうが正しいかな」



 やっぱり殿下も駆け引きをされていたのね。

 それでは駄々っ子だったご自分を反省されて、遊学の件はなかったことにされるのかしら。

 なんだ、あれこれ考えて損した――。



「ファラーラのおかげで目が覚めたみたいだ。これで心置きなく遊学できるよ」

「……はい?」





 皆様、いつもありがとうございます。

 本作のコミカライズが『がうがうモンスター(https://gaugau.futabanet.jp/)』様にて連載開始されました!

 まだまだ序盤の嫌な子ファラーラですが、ぜひよろしくお願いします(*´∀`*)ノ

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― 新着の感想 ―
[一言] 結局遊学には行っちゃうのね… やっぱり素直にはなれませんか…(笑)
[一言] おおおあああああ… 遊学するのはわるくないけどとおおおおおお… すれ違ってるううううううおおおおお…
[良い点] 相変わらずのゆ○理論ならぬファラ理論(笑) 結局遊学に行っちゃうのはさびしいよね。遠距離恋愛?ガンバ。
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