本音3
伏せていた目を上げてちらりと見ると、殿下はまた笑っていらっしゃった。
ええ? ひょっとしておかしいのは私?
髪型はおかしくないはずだし、ドレスだってとっておきのものだから、ひょっとして顔かも。
泣いてはいないけれど、目に水が溜まっているとか赤くなっているとか。
「最近のファラーラはすごく人が変わったようで……次々と画期的な発案をして、学院では尊敬されて……僕は嫉妬していたんだ」
「嫉妬……?」
「うん。手紙にも書いたように誇らしくも情けなくて、それに焦りもあって嫉妬してしまった」
殿下はそうおっしゃって、今度はアンニュイな感じに微笑まれた。
美少年にアンニュイな表情は法律で禁止するべきじゃないかしら。
いえ、今は法律を問題にしている場合じゃないわ。
私のどこに笑える要素があるのかよ。
「だけど、人間そんなに簡単には変われないよね?」
「え……」
まさか本性がバレてしまったの?
謙虚なふりをしているだけで、楽に不労所得を手に入れて悠々自適生活を目指していたこと。
「初めて会った頃の――ううん、婚約するまでのファラーラは正直に言って、なんて我が儘な子なんだろうって思っていたんだ」
「それは……驚きません」
もちろんそれなら知ってたわ。
夢で見るまで客観視できなくて気付いていなかったけれど。
あの悪夢からは、みんなが私の我が儘で迷惑に思っていたことを知ってしまったのよ。
だから謙虚なふりをしようって頑張ったんだもの。
でもそれを今さら打ち明けてくださるなんて意味がわからない。
ひょっとしてやっぱり婚約解消したいという話かも。
私はこれから振られてしまうの?
それは……困るわ。だって、ほら……困るわ。
「あの手紙……ファラーラに八つ当たりしてしまったことを謝罪した手紙の返事を読んだとき、嫌われてしまったと思ったんだ。それにサラのお茶会にも欠席していたから……。今さら直接会って謝罪しても許してもらえないんじゃないかって、学院でも会いにいくことができなかった」
「いえ……謝罪しなければいけないのは私のほうです。あんな失礼な返事を書いてしまって……。それに余計なことをしようとしたのは私なのですから、殿下がお怒りになるのももっともなことです」
「それはとても模範的な返答だね?」
「はい?」
「だから僕は勘違いしてしまったんだ」
何を?
もしかして私が善人とやらになったと?
ということは、やっぱり演技していたことにお気付きになったのね。
今まではきっと私が知的で可愛いから誤魔化されていたんだわ。
「ファラーラは僕の――王太子の婚約者として努力してくれていたのに、初めから完璧な女性だったといつの間にか思うようになってしまったんだ。だけど本当のファラーラはまだちょっと我が儘な女の子なんだよね?」
「それは……」
ちょっと、でいいのかしら。
そもそも我が儘って何?
我のまま? ありのまま? 素顔を見せること?
だとすれば、逆にみんなは嘘ばっかりということ?
エルダもミーラ様もレジーナ様も?
それはショックだわ。
「だから、あの返事もお茶会に欠席したこともファラーラの我が儘だったのかなって今さら気付いたんだけど……違うかな?」
「違う……こともない、かもしれません」
何なの、これ? 羞恥プレイ?
自分が我が儘だったかどうか認めさせられるなんて、これが殿下の仕返しなのかも。
「だとしたら、嬉しいな」
「嬉しい?」
どうして?
ま、まさか殿下もシアラと同じなの!?
それは将来の王としては危険な性癖だと思うわ!
あら? だけどそれなら、悪夢の中でも私の我が儘を許してくれたはずよね。
限度があるってことかしら。
シアラはハードでもいけるけど、殿下はソフトがお好きということ?
「あれがファラーラの我が儘だとすれば、僕の遊学に不満があるってことだよね? それって僕の立場ではなく僕自身のことを少しは好きでいてくれるのかなって」
「……へ?」
私が殿下を好き?
この私が?




