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後悔4

 

 しばらくってどれくらい遊学されるつもりなのかしら。

 婚約しておきながら、私を置き去りにするなんてちょっと酷くない?

 やっぱり許してなんてあげないわ。ぷんぷん。


 でも……予想通り王妃様にあのとき何か言われたのかも。

 私があまりに可愛いから王妃様は危機感を持たれたとか?

 しかも可愛いだけじゃなくて、性格もよくなって人気者だから?

 ここまでのうちわの売上ナンバーワンですからね!

 謙虚な私、大成功! ふふん。


 その情報を入手した王妃様は強引な戦法を取ることにしたのかしら。

 殿下も私のうちわを持っていらっしゃるものね。


 あら、ちょっと待って。

 まさかサラ・トルヴィーニも一緒になんてことはないわよね?

 もしそうなら断固阻止しなければ!



「――ファラーラ様、ブルーノ・フェスタ様がいらっしゃっているそうですが、お会いになりますか?」

「は? 先生だけ? チェーリオお兄様は?」

「いいえ、お一人だそうです」

「……会うわ」

「かしこまりました」



 チェーリオお兄様もいらっしゃらないのにいったい何の用件かしら。

 課題の免除を伝えるのなら手紙で十分だし、チェーリオお兄様に何かあったのかも!

 大変!

 食虫植物が巨大化してお兄様を食べちゃったとか!?



「――先生、チェーリオお兄様はまだ生きてますか!?」

「私が知る限りは」

「そんな吞気なことをおっしゃっていないで、早く救出に向かいましょう!」

「君の頭は大丈夫か?」

「頭? どこにもぶつけたりなどしておりませんが?」

「そうか。そうだよな。心配した私が馬鹿だったよ」



 チェーリオお兄様の一大事と急いで準備を整えたのに、私の心配なんてしている場合ではないでしょう。

 あら? 私の心配?



「ええ!? ひょっとして、先生は私を心配してくださったんですか? それでわざわざいらしてくださったとか? いえいえ、そんな馬鹿な。天と地がひっくり返ってもあり得ないことを考えるなんて、私ってばうっかりさん!」

「そうだな。誰にでもうっかりはあるからな。私もうっかり君の単位をつけ忘れそうだよ」

「それはうっかりではすまされません、先生。ですが大丈夫です。今から〝秀〟を付けておけば安心ですからね!」

「そんなことをすれば罪悪感で眠れなくなるだろうが」



 何がどうして罪悪感を抱くことになるのかしら。

 私が〝秀〟なのは当然じゃないかしら。

 あ、そうだわ。



「ところで、今回の課題は免除ですよね?」

「天と地がひっくり返ってもあり得ないことを考えるなんて、本当に君はうっかりさんだな」

「ええ!? どうしてですか!? 私、お爺ちゃんのお仕置きから庇ってさしあげたじゃないですか!」

「まったくもって意味がわからん。それと、学院長のお仕置きってのは、面倒くさい仕事を押しつけてくるだけだ。まだ明日も休みなんだからしっかり課題はやりなさい。もちろん、私以外の授業のもだぞ」



 やっぱり先生は鬼だわ。

 私を心配して来てくれたなら、課題くらい免除してくれてもいいのに。

 あ、そうだわ。



「ごほっ、ごほっ、昨日の心労がたたって、体調が悪く……」

「そうか。ならばとっておきの治癒魔法を施してやろう。少々痛みを伴うが、完治するのは間違いないからかまわないな?」

「治癒魔法が痛いなんて聞いたことありませんけど!」

「嘘つきにはよく効く魔法なんだよ」

「どうして嘘だってわかったんですか!?」

「むしろ、どうしてわからないと思った?」



 そうだったわ。

 フェスタ先生はこの名女優ファラーラ・ファッジンの演技を見破る数少ない人だったのよ。

 次こそは、と決意していると、先生は長~いため息を吐かれて、私をじっと見つめられた。

 何なの? ひょっとして演技はまだ続けたほうがよかったのかしら。ごほごほ。



「まあ、元気そうでよかったよ。というわけで、殿下とはちゃんと仲直りしておくんだぞ」

「仲直り? 私からですか? 嫌です」

「嫌って、こういうことはさっさと解決しておかないと後になって後悔することになるぞ」

「だからって、チョコレートと花束くらいで許してなんてあげません」

「……ほんと女って面倒くせえな」

「男性のほうが面倒くさいです! プライドとかくだらないものにこだわって!」



 旅に出るとか意味がわからないわ。

 そんなことして怪我とかしたら大変じゃない。



「かっこなんてつけなくても、かっこいいときにはかっこいいものなんです。無理したってよくないんです」

「だが、無理をさせようとしたのは君だろう? 陛下と殿下の仲を気にしての発言だったのかもしれないが、家族については他人があれこれ口を出す問題じゃない。相談されるまでは放っておけよ」

「そんなの……」



 冷たい。って言いそうになってやめた。

 先生も家庭環境は複雑で、家族にうんざりするくらい愛された私にはわからないことなのかもしれなから。

 蝶子だって弟が生まれてから両親との仲が冷めてしまっていて、それを私は密かに甘えだって思っていたけれど、それこそ私が甘えていたの?

 悪夢の中でどんなに我が儘を言ってもにこにこしていた殿下が怒るなんて、やっぱり私が悪かったのかも。



「私って、すごく甘やかされていますよね……」

「そうだな。超壊滅的に甘やかされているな。だが、それを負い目に感じる必要もないぞ。ファッジン君には素敵な家族がいる。それでいいじゃないか。まあ、私も学生時代、家族仲のいいチェーリオを羨ましく思うこともあったが、だからこそチェーリオという友人を得ることができたんだからな」

「チェーリオお兄様から伺いました。学生時代の先生はとっても嫌なやつだったって。女子生徒に告白されても無視していたって。イケメン許すまじ。きっと、今恋人ができないのはそのときの呪いですよ」

「……そこはいいことを言えよ。ちょっと傷ついたぞ。あと、本気で呪いについて調べようかという気になってしまったじゃないか」

「今ので呪いを信じる気になるなんて、先生って本当に女性の敵だったんですね」

「若気の至りだ」

「黒歴史ですね」

「あ、そうそう。昨日のことは――殿下と君のちょっとした行き違いについては、私たち以外は知らないからな。アルバーノ殿は公爵の判断で知らされたようだが、他に漏れると色々とややこしいことになる。だからチェーリオも知らないし、二番目のにも黙っておきなさい」

「――話を逸らしましたね?」

「察しのいい生徒は嫌いだ」

「仕方ないですね。わかりました」



 確かにややこしいことになるのは間違いなしだものね。

 王妃様たちにも知られないようにしたってことね。

 もちろん私だって泣いたことは知られたくないから、大歓迎だけれど。 

 先生と話しているとちょっと元気が出てきたわ。

 落ち込んだのも先生のせいだけど。



「チェーリオお兄様は順調ですか?」

「ああ、元気だぞ。ただ君の無茶ぶりに答えようとして、とんでもない副産物が……いや、何でもない」

「ええ!? 何なのか気になるじゃないですか! 教えてください!」

「私の口からはとても言えない。気のせいかもしれないし、治験ができるわけもない。うん、まあ、そういうことだ」

「ええ……」



 まあいいわ。きっと粘っても先生は教えてくれないことは経験済み。

 だけどお兄様に訊けば簡単に答えてくれるもの。

 とはいえ、手紙では無理っぽいから、また近いうちに陣中見舞いにお伺いしましょう。



「ところで、先生は結局何をしにいらしたのですか?」

「……そうだな。己の馬鹿さ加減と学習能力のなさを再認識しにだな」

「そうですか。お疲れ様です」



 教師ってお仕事は大変だって聞くものね。

 それにお爺ちゃんのような上司がいるとさらに大変なのかも。

 昨日は休日出勤のようなものだったのよね?



「私、(無賃労働する)先生のことは(要領悪いなとは思うけれど)尊敬しております。(お爺ちゃんとチェーリオお兄様の面倒を見てくださることを)応援しておりますので、(私の不労所得のために)頑張ってくださいね」

「……課題はちゃんとしろよ」



 応援するだけならタダだからしただけなのに。

 課題免除のことはもう諦めたわよ。

 だから明日は家庭教師を呼び出すことにするわ。




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― 新着の感想 ―
[良い点] やっぱり先生との掛け合いめちゃくちゃ面白いですね!! ファラーラちゃん殿下じゃなくて先生にしない?笑(フェスタ先生推し)
[良い点] 「かっこなんてつけなくても、かっこいいときにはかっこいいものなんです。」 これ何気に名言じゃないですか!? エモ・イオシ様もきっと祝福してくださるはず! あと、フェスタ先生優しい…。 大…
[良い点] フェスタ先生とのやり取りですべてを元通りにしたファラ。 フェスタ先生一応落ち込んだんですよ。その後プレゼントで喜んで手紙でぐちゃぐちゃですけど。 「嘘つきにはよく効く魔法」とっても良かっ…
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