後悔3
―――親愛なるファラーラへ
昨日は不快な思いをさせてしまったことを申し訳なく思っております。
僕の態度はとても失礼で許されるものではありませんでした。
ファラーラが僕に気を遣ってくれていることはわかっていたけれど、どうしても嘘を吐くことができず、結果ファラーラを傷つけることになってしまいました。―――
べ、別に傷ついたりなんてしていないんだから。
それに王太子殿下ともあろう方が気安く謝罪の言葉を使ってはダメよ。
まあ、私だからかもしれないけど。
それにしても、ずいぶん畏まった文章というか……殿下は手紙だともっと真面目になるタイプなのね。
―――もちろん嘘についてファラーラを責めているわけではなく、自分の不甲斐なさの言い訳にしているだけなのです。
最近のファラーラの活躍には目を見張るものがあり、僕は誇らしい気持ちと同時に、自分が情けなくも感じていました。
しかも昨日は僕が招待したにもかかわらず、王妃陛下を優先させ、さらには目的を最後まで果たすことなく逃げ出してしまいました。
これは恥ずべき行動であり、また改めてお詫びをしたいと思っております。
そして今回のことでつくづく、自分がファラーラに相応しくないと痛感しました。―――
「それって――」
思わず声に出しかけて慌てて口を閉じる。
嫌だわ。手紙を読みながら実際に答えるなんて。
それに私ったら何を焦っているのかしら。
たとえ殿下が婚約解消したいとおっしゃっても計画通りじゃない。
ただ……そうよ。
昨日の今日で婚約解消になってしまったら、サラ・トルヴィーニを喜ばせることになるからつい――って、まさか!
昨日、あのとき殿下は王妃様に何か言われたのかもしれないわ。
だから殿下は情緒不安定になっていらっしゃったのかも。
それで一晩置いて冷静になったのね。
とはいえ、相応しくないなんて言いだすのはさすがに大げさよ。
ふふん。心配ご無用。
私はこんなに毎日謙虚に慎ましく暮らしているというのに、婚約解消したいなんて殿下が思われるわけはないのよ。
続きを読むのを恐れるなんて、私らしくないわ。
だって、私はファラーラ・ファッジンなんだから。
ヒッヒッフー。
大きく深呼吸をして、手紙に再び視線を落とす。
それから……。
「はあ!?」
う、嘘でしょう?
もう一度目を通しても同じことが書かれているから間違いないみたい。
まさかそんな殿下が……。
「本当に中二病に罹ってしまわれたわ!」
「――ファラーラ様、いかがなされましたか!?」
「あ、いえ……何でもないの、シアラ」
「さようでございましたか。差し出がましいことをいたしました」
「ううん、いいの。着替えるから準備をしてくれる?」
「かしこまりました」
許可なくシアラが部屋に入ってきたけれど、私の大声を心配したからだものね。
叱るわけにはいかないわ。
お母様とお兄様もきっと待っていてくださるでしょうし、とりあえず昼食にしましょう。
その後でもう一度手紙を読み直せば、内容が違ったりなんてあるかもしれないしね。
ええ、わかっているわ。
これが現実逃避だって。
でもどうやって受け止めればいいのかわからないんだもの。
面倒くさいことは後回し。
運が良ければ、なかったことにできる。
それがファラーラの知恵袋よ。
悶々としながら食事をしていたから、気がついたらもうすぐ午後のお茶の時間だわ。
どうやら無意識にアルバーノお兄様には返事をしていたみたい。
いつの間にお母様は退席されたのかしら。
きっとどこかのお茶会に出かけられたのね。
お母様ってば薄情だわ。
もし私が思考の海をさまよっていなかったら、お兄様のお話で危うく悟りを開いて昇天するところだったもの。
「……というわけで、トラバッス王家の方々も素晴らしく人格者でいらっしゃって――」
「お兄様、トラバッス王家に私くらいのお年の王女様はいらっしゃいますか?」
「うん? いや、すでに他国へ嫁がれた方はいらっしゃるが、ファラーラと同じ年頃の方は王子殿下だけだな。レアクール殿下は――」
「ありがとうございます、お兄様。私、課題をやらなければいけませんので、これで失礼いたします」
これ以上はもう俗世に戻ってきてしまったので、お兄様に隙を与えず立ち上がる。
自分が今までどういう返事をしていたのかよくわからないけれど、お兄様のお話には十分付き合ったもの。
部屋に戻ると、先ほど机の引き出しに仕舞った殿下からの手紙を取り出した。
「……やっぱり、気のせいなんかじゃなかったんだわ」
残念ながら内容が変わっているなんてことはなくて、逃避失敗。
ええ、私は失敗したけれど、殿下はこれからなさるみたいね。
いえいえ、逃避なんて言っては失礼ね。
そう。ただ単に修行の旅に出られるのよね。
―――そこで、以前から考えていたことではありますが、僕はしばらく国を出ようと思います。行き先もすでに決めてあります。
遊学先はトラバッス王国。かの国にも魔法学院はありますので、またこの国とは違った学びを得ることができるのではないかと思っております。
国王陛下にも許可はいただきました。
急ではありますが、上手くいけば十日ほど先には発つつもりです。
またアルバーノ殿にはかの国について詳しく伺いたいので、よろしくお伝えください。
エヴェラルド・ブラマーニ―――
きっと私には予知能力があるのね。
だからアルバーノお兄様にトラバッス王国のことを殿下にお話してくださるよう先にお願いしたのよ。
さすが、私。ほんと、すごいわ……。ぷんぷん。
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