葛藤2
朝はサボろうと思っていた授業だけれど、エルダたちに会ってからは頑張ることができたわ。
あとはこの午後の授業を乗り切れば今日は終わり。
私、やればできる子だから。
それも休み時間のエルダやミーラ様、レジーナ様とのおしゃべりが楽しいからよね。
本当に今までの私は人生を無駄にしていたわ。
もちろん授業中は寝ないように、手紙を書いたりして気を紛らわせた。
まずはジェネジオを呼び出す手紙。
私が関わっていることは今さら隠しても仕方ないから、堂々と会って情報流出していないか、進捗状況とともに聞いておかないと。
次には暇だからベルトロお兄様へのお手紙。
魔獣を手懐けて味方にできれば素敵ですね、と書いておく。
特に空飛ぶ魔獣に乗れたら楽しいのに、とも付け加えた後でふと思い出す。
そういえば、お爺ちゃんは私の発想が新しいとかどうとかって言っていたような?
要するにお爺ちゃんが言いたかったことは、私の発想でこの国が他国より有利になることもあるから気をつけてね、ってことよね?
ということは、これから何か思いついても気軽に口にしないほうがいいってこと。
ジェネジオは商売人だからお金で動くし、そういう意味では信用できて、できないわ。
それできっとヒタニレの木の箒を新しく作らず、お兄様は私の箒を持っていってしまったのね。
また受注があれば何かあると思うでしょうし……。
そのあたりも含めてお父様たちとお爺ちゃんは相談するのかしら。
まあ、ベルトロお兄様への提案なら問題ないわよね。
だって、お兄様は兄馬鹿だけど――だからこそ、私の不利になることはしないはず。
悪魔の副隊長として、一人で頑張ってくれるに決まっているわ。
魔獣が懐いたら楽しいなってだけで、不労所得にはなりそうにないもの。
だけど、騎士団で竜騎士隊みたいに魔獣隊というのができたらかっこいいかも。
それをお披露目するのに観覧料を取るとか?
だからといって、そのお金は私には入ってこないわけだから、考えるだけ無駄ね。
あら? それじゃあ、そのお金はどこに入るのかしら?
騎士団? 王国? 王家?
王家といえば、殿下。殿下といえば、私は婚約者。
ダメダメ。またまた本末転倒になってる。
昨日、家庭教師から聞いた課税システムだけでもややこしくて面倒くさいのに、殿下と結婚でもしようものなら、もっと面倒くさいことを勉強しないといけなくなるもの。
お役所仕事ってどうしてあんなに面倒くさいのかしら。
もっと簡略化すればみんな助かるのに。
家庭教師に聞いたこの国の課税システムはやっぱり複雑で面倒だったものね。
領地を持っていればその収益から何割か。商売をして売り上げれば、その収益から何割か。
他には領地については広さなどに応じて、商売をするにはその許可を得るのに上納しなければならなかったり、地方には――それぞれの領地にはまた別の課税システムがあったりと面倒だったわね。
とにかく大事なことは私の不労所得で悠々自適生活計画に支障があるかどうかだから。
所得税っぽいものがないことだけは確かで……。
「はい! バッジオ先生、質問してもよろしいですか?」
「な、何でしょう、ファッジン君?」
「先生はこの学院で教師として働くことでお給金をもらって生活されているのですよね?」
「そ、そうですね……」
「そのお給金は全て先生のものになるのですか? それとも国などにいくらかの金額を納めていらっしゃるのでしょうか?」
「……ええっと、その、確かにこの街――王都は陛下の直轄地であらせられるので、住まわせていただくお礼として、その、いくばくかのお代は納めさせていただいておりますが……不満などはなく、むしろ以前より少額に――あ、いや、とにかく、陛下もファッジン公爵も私たち民のことをお考えいただき、感謝しており――」
「わかりました。それでは、先生は働けなくなった場合、どのように生活していくべきかはお考えですか?」
「わ、私が何かいたしましたでしょうか!? 今まで教師以外の職に就いたことはなく、ここをクビになったらっ――」
「あ、違います。そういうわけではなく、老後の生活です。やはりご高齢になるとずっと働き続けることは大変ではないですか。そのときのための蓄えなどはされているのかなと思いまして」
「た、多少の蓄えもありますし、息子夫婦がおりますので……」
「なるほど。参考になりました。ありがとうございます」
蝶子の世界ではお給金から何かいっぱい引かれていたみたいだけど、この国ではお給金をもらっている人はいわゆる住民税だけってことね。
年金がなくても蓄えがなくても子供たちが面倒を見てくれるってことで。
病気になったらどうするのかしら?
まあ、いいわ。
私には関係ないものね。
ただ住民税らしきものがこの国で必要なら、国外はどうなのかちゃんと(家庭教師が)調べて、一番住みやすい場所を見つけておきましょう。




