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葛藤1

 

「――どうしてそう、危険に首を突っ込もうとするの!?」



 って、まあセキトウと会うくらいで危険ではないけれど、男性に免疫のない蝶子ならわかっていながらコロっと騙されるかもしれないもの。

 自分は大丈夫。――なんて思い込んで、いったいどれだけの女性が卑怯な男性の餌食になったことか。

 蝶子の会社の女性たちだって、化粧室でいつも愚痴っていたじゃない。

 それを蝶子は心の中で『自分は大丈夫』なんて上から目線で考えていたのよね。


 メーデー、メーデー。至急、セキトウから離脱セヨ。


 とはいえ、あの探偵を近くに控えさせておくのは賢明な判断だわ。

 本音を言えば、セキトウが何を言ってくるのか気になるしね。



「ファラーラ様、おはようございます」

「……おはよう、シアラ」



 昨日は(家庭教師が)課題に追われて大変だったから、まだ眠いのよね。

 だけど朝は無情にもやってくるのよ。

 それでも目が覚めてしまったのはあの夢のせいね。


 もそもそとベッドから出て、シアラに朝の準備を任せる。

 顔を温かい布で拭いてもらってからお手入れ。それから夜衣を脱がせてもらって、朝のドレスを着て朝食に向かう。


 そこでふと気付いた。

 まだちょっと眠いし、体もだるいし、サボってもいいんじゃないかしら?

 悪夢の中の私はすぐに学院をサボっていたわよね。

 つい最近までは招待を受けたお茶会だって、よく欠席していたもの。

 それが今の私ってば、真面目か。


 うーん。

 また一日授業受けるの面倒くさいなあ。

 でも今日サボったら、フェスタ先生に課題ができていないから逃げたって思われる確率百パーセント。

 それでは昨夜遅くまで課題を(家庭教師が)頑張った意味がないわ。

 私だって字でバレないように書き写すの大変だったんだから。

 何よりエルダたちに会えないじゃない。


 よし、行こう。

 授業中は眠くなったら寝ていればいいのよ。

 だけど堂々と寝るのはエルダたちに心配かけてしまうだろうし、他の子に寝顔を見せるなんて嫌だわ。

 どうすればいいのかしら……。

 そうよ! いいことを思いついたわ!



「――君は馬鹿か?」

「どうしてですか? 名案ではないですか」

「なぜ私が、授業中に居眠りしている君の姿を幻惑魔法で起きているように見せないといけないんだ? そもそも幻惑魔法は簡単には使えないと聞いただろう?」

「ですから、こうして許可も取ってさしあげましたわ。そのうえでお願いしているのではないですか」



 授業中に居眠りしてもいいよう周囲にはバレない幻惑魔法をかけてもらうために、わざわざ朝からお爺ちゃんにお願いして許可まで取ったのに。

 お爺ちゃんはすぐに返事をくださったわ。『いいよ』って。

 それなのに、フェスタ先生が了承してくださらないなんて。



「わかった」

「では――」

「君は大馬鹿なんだな。いったいどんな教師が授業中に居眠りしたいという生徒に協力するというんだ。ああ、学院長のことは考えるな。あの人は面白ければそれでいいというだけなんだから。とにかく却下。ほら、一限が始まるぞ。早く教室に行きなさい」

「ええ……」

「『ええ』じゃない。睡魔と戦うのもまた学生の仕事だよ。ほらほら。しっしっ!」



 ちょっと!

 まるで犬を追い払うような言い方はないんじゃないかしら?

 しかも学生の仕事って、睡魔と戦うことなの?

 まあ、一理ある気もするけど。


 お爺ちゃんは今日は学院にはいらっしゃらないみたいだし、本当はこのまま帰ってしまいたいけれどエルダたちには会いたい。

 これがいわゆるジレンマってやつなのね。

 初めての体験だけれど、もどかしくてもぞもぞするのね。



「おはよう、ファラーラ。今日はちょっと遅かったんだね?」

「おはようございます、殿下。職員室に寄っておりましたので、早めには登校したのです」

「そうだったんだ」

「おはよう、ファラーラ嬢。私たちも早めに来たつもりなんだが、それで馬車寄せでは会えなかったんだな。言ってくれればよかったのに」

「おはようございます、リベリオ様。これからは気をつけますわ」



 いえ、そもそもどうして言わないといけないのかしら。

 ひょっとして昨日の私を守るとかどうとかって話?

 あれからは空を飛ぶための話になったとチェーリオお兄様から聞いたけれど。

 それで自主練習しようと思っていた箒をお兄様が持っていってしまったのよね。


 そもそも当分は私のことは心配ないってお爺ちゃんも言っていたのに。

 それに護衛騎士だっているし、学院はフェスタ先生がいらっしゃって、あのペンダントだって……鞄に(入れっぱなしで)入っているもの。


 教室前で待っていたうちわをもった子たちは殿下どころかリベリオ様までいらっしゃることに黄色い声を上げているわ。

 その子たちに手を振って、殿下たちと別れて教室に入る。



「おはよう、ファラ。今日はちょっと遅かったね?」

「うん、職員室に用事があって。おはよう、エルダ」

「おはようございます、ファラーラ様」

「ファラーラ様、おはようございます! 今朝はリベリオ様もご一緒だったのですね!」

「ええ、偶然出会っただけなんですけどね。ミーラ様、レジーナ様、おはようございます」



 ああ、やっぱりみんなの笑顔を見るとほっとするわ。

 だからサボるのはやめにして、頑張って睡魔と戦わないとね。




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― 新着の感想 ―
[良い点] (家庭教師が) [気になる点] (家庭教師が) [一言] (家庭教師が) 本編で名前も出て無いのに、名無しのまま家庭教師視点が書かれそうな予感…
[一言] 一応家庭教師がやった課題、自力で写したのですか。筆跡をまねさせた誰かに写させて眠らなかった分勉強してますね。
[一言] 授業中寝る為に普通教師に協力を頼むか?(笑) 『君は大馬鹿なんだな。』 この言葉に集約されてますなぁーww そして学院長…ノリで許可を与えないで下さい(笑) ホントじいちゃんとは相性ピッタリ…
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