守る会2
「――学院長、先に私が訴えていたことについてご理解いただけたかと思いますので、ひとまずファッジン君は帰らせてよろしいでしょう? 課題がたっぷりあるようですので」
「ふむ。今はまだそれほど危惧する必要はないだろうからな」
「私だけ? お兄様はご一緒してくださらないのですか?」
「そうか、そうか。私がいないと寂しいか。では私はファラーラと――」
「お前は残れ、チェーリオ」
「ブルーノ、貴様は鬼か!」
そうよ、そうよ。
せめて課題を免除してほしいわ。
それがないのなら、お兄様と一緒に帰ることくらいいいじゃない。
いいわ。こうなったら、家庭教師を呼び出すもの。
そしてブルーノ・フェスタ、あなたにはそれ相応の報いを受けてもらいますからね!
「お兄様、仕方ありませんわ。きっとフェスタ先生は魔法ラブの顧問として活動準備のためにお兄様のお力が必要なのでしょうから」
「おい」
「空を飛ぶ練習はできなくても、例えば身体の成長を促す食材や薬草を見つけて補助食品などの開発も楽しいかと思いますわ。土魔法がお得意なフェスタ先生にはぴったりですよね? なので、私は一人でも大丈夫です。護衛もおりますから」
「君はまたそうやって……」
フェスタ先生は困ったように大きなため息とともに呟かれたけれど、苦情は受け付けません。
だって、悩める少年少女の助けになると思うのよね。
それに成長だけでなく、筋肉の助けになる……そう! プロテイン的なものとか!
さらにはバストアップとかの助けになる補助食品があれば大人にも需要が見込めるわ!
ちょっと自分を見下ろして、ぺったんこの胸を見ると闘志が湧いてくる。
もちろん私はまだ十二歳の子供だからこれからなのはわかっているわ。
だけど、きっと喜ぶ女性は多いと思うのよね。
悪夢の中の十七歳の私とか、私とか、私ね。
ええ。パッドを入れていたのは内緒。
「確かに、ファラちゃんがいては話が進まないというお前の主張もわかったが、直接話をすることで色々とわかったこともあるぞ。ファラちゃんも今まで以上に身辺には気をつけなければならないことを理解しただろう?」
「話を聞かず理解していないに賭けてもいいですけどね」
「先生、失礼です! 私だってちゃんと理解しています!」
話は聞いていなかったけど。
身辺に気をつけるって、要するに私が可愛くてお金持ちで王太子殿下の婚約者だからでしょう?
それにきっとジェネジオに依頼しているお化粧の成分を聞き出そうとする悪い人がいるかもしれないってことよね?
特許がないぶん、秘密はしっかり守るわ。
「そうだぞ、ブルーノ。ファラーラは天才だからな。わざわざ言わなくてもわかっているさ。そもそもファラーラを狙う者の心配など私たちにとっては今さらだよ」
「ああ、そういうことでしたか。正直なところ、護衛五人はいくら何でも多いと思っておりましたが、公爵家の皆さんはファラーラ嬢の才能を理解していらしたんですね?」
「もちろんです」
お兄様、そんなに堂々と嘘をおっしゃらなくても。
護衛が五人もいるのは私の我が儘であって、普通の令嬢は傍に控えている護衛はせいぜい一人です。
まあ、五人といっても、二人は移動時だけで普段は三人なんだけど。
リベリオ様だけでなく、殿下もご納得されているところを見ると、やっぱり五人は多すぎってみんな思っていらしたのね。
お父様やお兄様たちが私を甘やかしていたのも、別に才能があることを知っていたからではないんです。
あ、でも特別だと思っているのは間違いないのよね。
ただの親馬鹿兄馬鹿だけど。
本当は天才でも才能があるわけでもないんだけど、誤解されているならそれでいいわ。
私の座右の銘は〝言うは易く、行うは他の人〟だもの。――今、決めたんだけど。
それがファラーラ・ファッジンよ。おほほ――。
「とにかく、ファラちゃんが学院におる間はブルーノもおるし、それほど心配はしておらぬが、実際のところ絶対安全だとは言い切れぬ。それが移動時などになるとなおさらだ。だからこれを常に身につけていてくれぬか?」
お爺ちゃんはそうおっしゃって、真っ赤な石のペンダントを差し出してくださった。
ルビーかしら?
私これ嫌いなのよね。
宝石ならダイヤモンドでしょう? エメラルドも好きよ。
受け取って近くでみると、ルビーではなくて違う石みたい。
「これは……?」
「わしの魔力を集めた結晶とでも思ってくれ。お守りのようなものだ」
「学院長の……」
「この国の最強魔導士の魔力の結晶をお守りに持てるなど、羨ましいくらいだな」
お爺ちゃんの――最強魔導士の魔力の結晶と聞いて、殿下もリベリオ様も目をきらきらさせているわ。
男子ってこういうの好きよね。
ちょっと血の塊みたいで気持ち悪いけれど、それは胸に秘めておきましょう。
私、空気が読める子ですから。
「……ありがとう、お爺ちゃん。形見だと思って大切にしますね!」
「勝手に学院長を殺すなよ」
「何だ、ブルーノ。わしが死ぬことを想像して悲しいのか?」
「あなたは殺しても死なないでしょう?」
無理して喜んでいるふりをしたのがダメだったのね。
言葉選びを間違えてしまったわ。
だけどお爺ちゃんは気にしていないみたいだから、いいわよね。
それでは皆様、お先に失礼いたします。
帰ったら急いで課題を(家庭教師が)頑張らないと、鬼教師がうるさいですから。




