守る会1
「ここに集まってもらった皆はもうすでに、ファラちゃんが常人にはない発想力があることは理解していると思う。そしてその発想力はわが国には益に、他国にとっては脅威になり得るであろうこともな」
ええっと。利益は独占したいんですけど。
まさか領地からの収益だけじゃなくて、そのほかの収入も国に上納しないといけないの?
売上からの上納はジェネジオがしているはずなのに?
まさか、蝶子の世界でいう所得税?
そんなの許していたら、何だかんだと上納しなくてはいけなくなるんだから。阻止しないと。
どうすれば上納しないですむかしら。
やっぱりいわゆる脱税?
ダメよ。法を犯すのはリスクが高すぎるわ。
だとすれば、節税?
いいえ。そんなちまちましたことは面倒くさいわ。
それならいっそのこと、法を変えてしまえばいいのよ。
上納額は少ないにこしたことはないんだから、みんな大喜びで賛成してくれるはずだわ。
って、その前に本当に上納しないといけないのか調べるのが先ね。
ふふん。私は賢いから無駄な労力は使わないのよ。
というわけで、自分で調べるのは面倒くさいから、家庭教師に教えてもらいましょう。
そうだわ! いっそのこと搾取する――徴収する側になるのはどうかしら?
お父様は領民から徴収しているし(悪夢の中ではもっと徴収するべきって不満だったのよね)、それをさらに上納しているわけだから……。
最終的に国に――王家に上納金は集まってくるのよ。
ということは、殿下と結婚すれば上納しなくていいわけで、さらには上納金が手に入る。
それって、最高じゃない?
いいえ……それでは本末転倒だわ。
私がそもそも不労所得をたっぷり得るために(ジェネジオが)頑張っているのは、国外悠々自適生活のためだもの。
やっぱりこの国の課税システムと諸外国の課税システムも知っておくべきね。
そして一番上納額が少ない国で生活するのよ。
「――というわけで、当面は飛行の練習は中止だ」
「え!?」
「ん? やはりファラちゃんは不満かな?」
「それは……」
まったく話を聞いていなかったから、どういうわけで中止なのかわからないわ。
まさか空を飛ぶにも制空権とか何かがあって上納しないといけないの?
「せっかくの発案をすぐ世に出せぬは悔しいであろうが、しばらくは耐えてくれんか。どうすれば事を内密に進められるか、ファッジン公爵などともよく相談したうえで対応するからな」
ああ、空を飛べるかもってことは秘密なのね。
それはできる人に任せておくわ。
私は後でノウハウを教えてもらえればいいのよ。
あら、だとすれば……。
「部活動は――〝魔法ラブ〟の活動はどうなるのでしょうか?」
「まだこだわるのか……」
「大切なことです、先生。学生の本分は遊びですから。あ、違った。えっと……学びを通じた友情ですから!」
「君はもっと真面目に勉強しろ。計算や語学はいいが、魔法理論が残念なことになってるぞ」
「理論って、面倒くさくありません? 過程はいいんですよ、実践できれば」
「それは実践できる者が言うことだ」
「私、まだ成長期ですから」
だからそのうち空だって飛べるし、背だって伸びるのよ。
ちょっと自分が魔法が上手くて背が高いからって偉そうにしないでほしいわ。
「いつか私だって、先生の背を追い越してみせるんですからね!」
「ファラーラ、それは無理があるんじゃないか。ブルーノは私より背も高いしなあ」
「ですが、ベルトロお兄様は大きいですもの。私だって可能性がないことはないと思いますわ」
「それはまあ……」
「えっと。それじゃあ、僕ももっと背が伸びるように頑張るよ」
「では、一緒に頑張りましょう、殿下!」
そうよね。
男子だって背が高くなりたいでしょうからね。
そこで俯いて肩を揺らしているリベリオ様はきっと笑っていらっしゃるのね。
ちょっと殿下より背が高いからって油断しているんだわ。
ふふん。今に見ていなさい。
いつか殿下と一緒に見下ろしてさしあげるんだから。
「あ、ではどうすれば背が伸びるか考えないと。基本は食事と睡眠と適度な運動ですけど、私には運動が、エヴィ殿下には睡眠が足りないのかもしれませんね。殿下、子供は寝るのも仕事ですからね。今から国政のこととかで頭を悩ます必要はないんですよ。とりあえず面倒くさ――難しいことは大人に任せればいいんです」
「いや、だけど僕はそれほど子供では……。それに王太子としての義務とか――」
「義務は十パーセントでいいんです。今は七十パーセントの欲望に忠実でいいんです!」
国外悠々自適生活が待っている私と違って、殿下は卒業したら本当に義務に縛られてしまうものね。
お気の毒に。
だから今のうちに遊ぶ――友情をもっと育むのよ。
今もリベリオ様以外の方とご一緒されているお姿はお見かけするけれど、部活動を始めれば新しい出会いがあるかもしれないもの。
そうだわ! そこで恋だって芽生えるかも!?
「やっぱり部活動は必要だと思います!」
「……ファッジン君の思考はさっぱりわからん。どういう過程を経たらそうなるんだ」
「馬鹿だな、ブルーノ。どんな紆余曲折があろうと、ファラーラの主張は何一つ変わっていないじゃないか」
「要するに、振り出しに戻るってことだな」
そもそも発端は部活動でしょう?
それなのに何一つ進展していないんだもの。
って、大変!
静かだと思ったら、お爺ちゃんは苦しそうに口を押さえていらっしゃるわ!
まさかお餅でも喉に詰まらせたんじゃ!? いつの間に!?
「お爺ちゃん! 大丈夫ですか!?」
背中を叩くべきかと駆け寄ろうとしたら、お爺ちゃんは「ぶはっ!」って息を吐きだした。
呼吸が再開できたのね!
そうよね。お餅なんてあるわけないもの。
だけどまだ苦しそうだから失礼かとも思ったけれど背中をさする。
私、おじい様もおばあ様もいないから、お爺ちゃんには長生きしてほしいのよ。
「す、すまな、い……ファラちゃん……。その、〝魔法らぶ〟が何かは、わからぬが……成長期からの、背を伸ばす方法……に、大切なことが何かを確信しておることも不思議だが……。そうだな。殿下もファラちゃんの言う通り、義務は忘れて学生生活を楽しめばよい。友情も遊びも大切なことであるからな。もちろんプローディ君もだ」
「は、はい」
「わかりました」
お爺ちゃんの呼吸はだんだん落ち着いてきて、それから殿下とリベリオ様によく遊ぶようにっておっしゃった。
要するに、部活動の許可をくださったってことね。
よし。私の目的は達成。
あとの難しいお話は皆様でどうぞ。
空を飛ぶことはいったん保留して、それ以外のことを考えないとね。
いっそのこと、成長を促す栄養補助食品の開発なんて面白いかも。




