友情1
「私も、そのことについては心配しておりました。新薬については存じませんでしたが、ジェネジオ・テノンとの新製品開発など、ファラーラ嬢には常人にはない発想力があるようです。そして今回の驚くべき発明については……」
「ええ。テノン商会との新製品開発については他商会もどうにか情報を手に入れようと躍起になっているそうです。またチェーリオ殿が行っている寒冷地の薬草栽培もそうですが、特に今回の発明が実用化されれば、国の勢力図が変わってきます。ファラーラはその渦中に立たされることになるでしょう」
「ふむ。やはり二人もその心配を抱いたか」
んん? どういうこと?
私がすごい発見をしたから、すごいねってだけじゃないってこと?
リベリオ様のお耳にも、私がジェネジオと新しい化粧品開発を行っていることが届いていたのね。
まあそれはクラスで宣言したからだけど。
それよりも、殿下のおっしゃったことにびっくり。
他の商会が情報を手に入れようとしていたなんて知らなかったわ。
ジェネジオだって何も言っていなかったもの。……あとで苦情を入れないと。
「ファラちゃんは次から次へと面白い発想をするようだが、それはどうやって思いつくのかな?」
「え……」
どうやって思いつくのかと訊かれても、蝶子の世界にあったものが欲しくなっただけなのよね。
それをここで説明するの?
どうしよう。普通なら信じてもらえないだろうけれど、なぜかお爺ちゃんは知っているような気がするわ。
あら? フェスタ先生が幻惑魔法の使い手で、その力は血族に受け継がれていくってことは、お爺ちゃんも幻惑魔法が使えるってこと?
しかも幻惑魔法はまだまだ謎が多くて……。
嫌だ、怖い。
ひょっとしてお爺ちゃんはやっぱりエスパーなのかも。
「爺さん、無茶ぶりはやめてください。どうやって思いつくかなんて説明は難しいでしょう? それに答えは簡単。ファラーラは天才だからです!」
「お兄様……」
「その通りです、学院長。ファラーラはすごく……面白いんです。だからこそ、思いつくことが多いのだと思います」
「殿下……」
お兄様、兄馬鹿でありがとうございます。
そして殿下、それって、フォローしてます?
なぜかしら。殿下に面白いと思われているなんて、地味にショックだわ。
ひょっとして殿下は私のことが好きなのかも? なんて思っていたけど、大きな勘違いだったみたい。
なるほど。そんな勘違いをしていた自分にショックを受けているのね。
やっぱり気をつけないと。
最近感じる殿下の好意は『(面白いから)好き』であって、『(異性として)好き』ではないのよ。
危うく恋愛あるあるの罠に嵌まるところだったわ。
ということは、リベリオ様の『好き』もそっちなんじゃない?
それなら納得。
中二病なリベリオ様はきっと『面白い女』が好きなのよ。
そうね。私のモテ期なんて所詮そんなものなんだわ。
でもいいの。私には心から愛してくれる家族と大好きな友達がいるから。
うん。女友達って素敵よね。
だって、面白いからでも優しいからでも強いからでも『好き』は『好き』だもの。
ケンカすることはあっても、仲直りとかしてさらに友情が深まるのよ。――仲直りなんて高等な技ができるのか不安だけど。
それに他に『好き』な人ができても、それはそれ。
一緒に『好き』になってもいいし、合わなければその子と付き合わなければいいだけだもの。
蝶子の元婚約者のように〝真実の愛〟とやらを見つけて(見失ったみたいだけど)、別れを切り出されることもないしね。
友情は永遠なのよ。
だけど……。
その大切な友情が壊れるのが恋愛が絡んだときなんだわ。
蝶子が見ていたドラマや漫画でもよくあったもの。
でも大丈夫。
私は好きな人はいないし、この先も恋愛には興味ないから、エルダたちの恋を応援してあげられるわ。
私の勝手な予想だけれど、エルダとミーラ様とレジーナ様が同じ人を好きになることはないと思うのよね。
もちろん油断はできないから、気をつけてはいないと。
間違っても、フェスタ先生のお母様のような気の毒なことにはならないように、明日みんなに標語を教えてあげましょう。
教室に貼ってもいいんじゃないかしら。
いえ、教室はダメね。フェスタ先生の古傷を抉るかもしれないもの。
フェスタ先生が恋愛下手なのは、ひょっとしてお母様の面影を追っていらっしゃるからとか?
それって何ていうんだっけ……? ええっと。
ああ、そうそう! マザコンね!
お母様を大切に想うお気持ちは大切だけれど、囚われてしまってはダメよ。
チェーリオお兄様は先生のことをよく理解していらっしゃるようだし、やっぱり大切にするべきは友情よね。
「フェスタ先生、どうかチェーリオお兄様のことを一生大切にしてくださいね」
「君は何を言っているんだ」
何って、友情を大切にしてくださいってお願いしているだけです。




