お爺ちゃん2
「あの、本当に私まで伺ってもよいのでしょうか……」
「何だ、怖気づいたか?」
「い、いえ。違います。ただ、私ごとき者が学院長のご家族の秘密を知るのは……」
ちょっと、リベリオ様!
せっかくのいいところなのに邪魔をしないでほしいわ。
そんなに不安なら、席を外せばいいのに。このお預け感をどうしてくれるの?
教えてくれるっていうんだから、素直に聞いておけばいいのよ。
「まあ、そう気負わなくても、この秘密を知る者はそれほど少なくはない。と言うよりも当事者は確信しておるであろうし、周囲の者も予想はしておるであろう。ただ我々が認めぬだけでな」
要するに、お爺ちゃんは殿下とリベリオ様を試していらっしゃるのね。
私は単なるおまけ。
もちろん、おまけでも何でも秘密を教えてくれるなら大歓迎。
ゴシップ大好き!
「世間では、魔法の才能のあるこのヒヨッコをわしが見出して引き取った、ということになっておるが……」
なるほど。だから私は先生のことを平民だと思い込んでいたのね。
だけど本当は血の繋がりがちゃんとあって、それを隠さなければいけなかった、と。
何だか陰謀の予感。
さあ、どうぞ。秘密よ、カモーン!
「こやつの母親はわしの実の娘でな。愚かにも男に騙され、未婚のままこやつを産んだのだよ」
「言い方に気をつけてください」
「事実であろう?」
うう、耳が痛い。
古今東西、異世界現世界、どこもみーんな一緒。
男性なんて狡くて浮気者で、女性は愚かで騙されやすいのよ。
やっぱり愛だの恋だの面倒なだけだわ。
この世に真実の愛なんて砂漠の中でダイヤモンドを見つけるようなものだわ。
気をつけよう
好きだ、愛しているよ
それは詐欺
これを標語にしておかないと。
ミーラ様にも広めてもらいましょう。
「その……先生のお父君の名を伺っても?」
そうそう。それが大事。
遠慮がちな殿下の質問に、フェスタ先生はふっと顔を逸らされた。
チェーリオお兄様の表情は変わらないけれど内心では怒っていらっしゃるのがわかる。
その怒りは先生のためで、酷い裏切り者の男性に対してね。
お兄様、私も同感です。こっそり靴に針を仕込んだり、足を引っかけたりしてやりますわ。
今日は〝魔法ラブ〟について話し合うのかと思っていたけれど、こちらのほうが大切。
未婚の母だなんて、先生のお母様はどれほど苦労されたのか。
そして非嫡出子である先生はすごく苦労されてきたはず。
今まで面倒くさい先生だなんて思ってごめんなさい。
これからは口うるさい先生とだけ思っておきます。
「――サルトリオ公爵だよ」
「え?」
「まさか……」
出たー!
ここで黒幕(勝手に認定)登場!
お父様の敵は私の敵。
サラ・トルヴィーニの外祖父だもの。それくらいはやりかねないわ。偏見だけど。
「そなたたちが信じられないのも仕方ないだろう。あの男はそなたたちの前では――いや、誰の前でも心優しく思いやりのある公爵の仮面を被っておるからな。残念ながら先王陛下は見事に騙されておった」
「こ、公爵は――サルトリオ公爵夫妻は仲睦まじいと有名で、サラも自慢にしているくらいで……」
「とても信じられません……」
殿下は信じられないといったみたいにうろたえていらっしゃる。
サラ・トルヴィーニと幼馴染なら公爵のこともよくご存じなのかもしれない。
それなら当然でしょうね。
リベリオ様ははっきり言葉にしているもの。
「信じる、信じないは好きにすればよい。ただあの男は我が血統に現れる力がほしかったようだな」
「……幻惑魔法ですか?」
「その通りだ。幻惑魔法の力を使わずとも、その力を得るために人を惑わせるなら、ほんに厄介な力であるな。娘は公爵の思惑に気付き、身ごもったことを隠して一人でこやつを産んだのだ。その後、心労のせいか産後の肥立ちも悪く、亡くなってしもうた。一人で抱え込まず相談してくれればよかったのに、その頃はわしも研究に没頭して娘のことは放ったらかしだったからな」
お、重いわ。すごく重い。
私、こういう空気すごく無理。
先生のお母さまはお気の毒だし同情するけれど、とりあえず空気の入れ替えをしましょう。
「ファラーラ?」
「どうしたんだ?」
「いえ、ひとまず換気しようかと思いまして」
窓に向かった私に、みんなが驚いたみたい。
でもほら、新鮮な空気を吸えば気分もすっきりするでしょう?
素直に答えたら、先生が小さく震えだして、それから大きく噴き出した。
それからお爺ちゃんも声を出して笑い始めて、チェーリオお兄様まで。
何がおかしいのかわからないけれど、空気の入れ替えの前に空気が変わったからよしとしましょう。




