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チェーリオ13

 

「え?」

「あ?」

「嘘だろ?」

「浮いてる!」



 一瞬、錯覚かと思ったが、確かにブルーノは浮いていた。

 思わず驚きの声が漏れ、ブルーノは自分を見下ろしバランスを崩したのか倒れ込む。



「は? ――っうわ!」

「先生!?」

「ブルーノ!?」



 急ぎ助け起こそうとしたが、手を差し出してもブルーノは首を振り小さく震えていた。

 どうやら無事らしいな。

 これはブルーノが笑いのツボに入ったときの仕草だ。

 


 殿下とプローディ殿も駆け寄っていらっしゃったが、心配には及びません。

 大丈夫だと示すように私が殿下たちに笑顔を向けたとき、ブルーノは吹き出し声を出して笑いだした。

 仕方ないよな。


 まさかこんな大発見で大発明が、こんなに簡単な方法で実現するなんて誰が思う?

 しかもこんなに楽しくてわくわくするなんて。


 殿下とプローディ殿も笑いだして、ファラーラだけがわからないって顔をしている。

 すまない、ファラーラ。

 こればっかりは上手く説明できない。

 理屈ではなく、とにかく笑いがこみ上げてくるんだ。



「とりあえず、次は私がやってみるよ」

「ああ、お前の言っていた通りにイメージをしてみたのがよかったみたいだ」

「わかった」



 逸る気持ちを抑えてブルーノから箒を受け取り、アドバイス通りに集中する。

 今、自分は水の中に入っているかのように体は軽く、大地の干渉から解放されているのだ。

 そうイメージすると、次第に全身が浮遊感に包まれた。



「お兄様、浮いています!」

「本当だ!」

「さすがチェーリオ殿ですね!」

「マジか……」



 この感覚を知ると、今まで本当に大地に縛られていたような気がしてくる。

 こんなに体が軽く感じるなんて。

 興奮する皆の中で気持ちを落ち着けると、ブルーノとは違って無事に着地することができた。


 本当はもっと試したいが、プローディ殿や殿下が待っている。

 お二人はまだまだ成長途中で魔力も安定していないが、果たして上手くいくだろうか。



「――殿下、すごいです!」

「おお! 殿下も!」

「やったな、エヴェラルド」



 プローディ殿だけでなく、無事に殿下も浮遊することがおできになり、皆でもっと高く飛べないかと話し合う。

 魔力の媒体となるこの箒の形状や、土魔法をどう扱うか。

 最近は全てにすっかり冷めていたブルーノも興奮して顔を輝かせている。

 懐かしいな。



「――フェスタ先生! 箒を貸してください!」

「え?」

「ファラーラ?」

「皆様、箒での飛び方が間違っていますから。私がお手本を見せてさしあげますわ」

「いや、しかし……」



 何てことだ。

 あまりの興奮にうっかりてっきりファラーラのことを忘れていた。

 しかもファラーラは自分まで試すと言っている。

 もし何かあったらどうするんだ。



「ファラーラ!」

「ファッジン君、それはさすがに……」

「ファラーラ、いくら何でもはしたないぞ」

「ですが、これが箒での正しい飛び方なんです」



 ブルーノがためらいながらも箒を渡すと、ファラーラはスカートのまま柄の部分に跨った。

 乗馬用の服でもないのに、そのような格好をするなんてお転婆がすぎる。

 そんな無邪気なファラーラも可愛いが、殿下たちの前ではやめなさい。



「まあ、ご覧になっていてください」



 私の心配をよそに、ファラーラはちょっと得意げだ。

 本当に大丈夫なのだろうか。



「……少し浮きましたか?」

「いや、まったく」



 しばらく待ったが、浮く様子はない。

 それでも諦めないところは偉いぞ。

 何事も挑戦だからな。



「……少し浮きましたか?」

「ファラーラ、また次回頑張ろうか」



 どうにかファラーラも浮くことができないかと待ってみたが、やはりダメなようだ。

 ファラーラだけ浮くことができなかったのは残念だが仕方ない。

 元々女性は男より魔力も弱い傾向にあり、さらにファラーラはまだ成長途中で魔法も基礎を学んだだけだからな。


 慰めようとしたが、ファラーラはそこまで落ち込んだ様子はなかった。

 以前なら自分も、と強情に言い張り泣き出したところだ。

 いつの間にか聞き分けもよくなって、ちょっと寂しい気もするな。



「それでは『魔法ラブ』初の活動はこれで終了にしましょうか」

「勝手に発足させるなよ……」



 ファラーラは気を取り直すように一つ咳払いをすると、実験の終わりを宣言した。

 本当に成長したなあ。


 名残惜しいがファラーラを殿下に託して帰宅を見送る。

 プローディ殿はファラーラと殿下に笑顔で別れの挨拶をされていたが、背を向けられたときの表情が切なかった。

 こればかりは時間しか薬はないので、どうぞお大事に。



「――さて、どうする?」

「私たちにはどうしようもないだろう。早急に学院長へ相談するべきだな」

「やっぱり爺さんか……」



 三人を見送った後、屋敷の中に戻りながらブルーノが問いかけてきた。

 主語がなくても何のことかはすぐにわかる。

 空を飛べるなど、世界中を震撼させるほどの大発見だ。


 新しい発見にはしゃぎはしたが、頭の隅では今後の対応を考えていた。

 それはブルーノも同じだったようだ。

 ただ私たちの手に負えないことは明白で、魔道士協会会長である学院長に委ねるしかないこともわかっていた。


 ブルーノは爺さんに頼ることに気が進まないのだろう。

 学院長に借りを作ると取り立てが容赦ないからな。

 幸いだったのは、この大発見をファラーラがまず私たちに話してくれたことだ。


 殿下とプローディ殿はこのことを簡単には口にされないだろうし、ファラーラも大丈夫だろう。

 ファラーラは意外と完璧主義なので、まだ浮くことができなかったことを誰かに話したりはしないはずだ。


 帰ってからこっそり練習するかもしれない。

 まさか怪我をしたりしないだろうか?

 母さんに連絡して何かあったらすぐ呼んでくれるよう頼んでおこう。

 ついでにファラーラが無茶なことをしないよう、シアラに目を離さないようにも伝えてもらわなければ。



「本当にお前の妹はとんでもないことを思いついてくれたな」

「ファラーラと一緒だと退屈しないだろう?」

「……ああ。だがその何十倍も面倒だ」

「相変わらず失礼なやつだな」



 天使なファラーラに何てことを言うんだ。

 軽く背中を叩けば、ブルーノはにやりと笑うだけ。

 本当はこれからのことにわくわくしているくせに素直じゃない。


 それではブルーノが学院長に訪問伺いの手紙を書く間に、私も母さんに手紙を書こう。

 どうかファラーラが無茶をしませんように。




チェーリオ視点、これでようやく終了です。長かった・・・。

他兄視点は(読者の皆様が)面倒くさいと思いますので、たぶんありません(笑)

お付き合いくださり、ありがとうございます。

次話から本編に戻ります(*^▽^*)/

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― 新着の感想 ―
[一言]  チェーリオ視点、面白かったです❗  沢山、笑いました。  個人的には、ブルーノ視点を読める事を楽しみに、このまま作品を読み進めたいと思います。  有り難う御座います。
[気になる点] チェーリオ編面白かった~慣れてきたせいか名残惜しいw 他の兄様は無い予定なんですか?脳筋お兄様とか、脳内の思考が文になったら…想像するだけで面白いんですけど!! ぜひお願いしますw
[良い点] チューリオ兄様視点面白かった〜♪ 思った以上にエヴィ殿下が狡い大人教育を経て逞い青年になっていたり リベリオが本気で面倒くさいけど、ファラ応援側確実になった事も嬉しいし。 フェスタ先生の苦…
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