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チェーリオ2

 

「久しぶりだな、チェーリオ。旅はどうだった? 実験のほうは順調だぞ」

「なかなか興味深い症例もあって勉強になったよ。無事に治癒することもできたしな。それについてはまたレポートを作成するが、それよりも色々とすまないな、ブルーノ。おかげで助かったよ」

「気にするな。お前の案はなかなか面白いぞ。順調に時期はずれのイチゴも成長しているし、これを応用すれば――」

「そうか! ではファラーラが喜ぶな!」

「……まあ、そうかもな」



 ファラーラのイチゴ好きは相当だからな。

 これできっと約束を果たせなかった分の穴埋めに少しはなるだろう。


 ブルーノの別邸の温室を借り、庭師の力も借りながら始めた実験は順調に進んでいるらしい。

 久しぶりに会ったブルーノは変わりなく私を迎えてくれたが、ファラーラの名前を口にするとどこか様子が変わった。

 そうだ。ブルーノは学院の教師をしているのだから、ファラーラの学生生活で何か知っているのかもしれない。



「ファラーラに何かあったのか? まさか学院で虐められているのか!? ファラーラは可愛いからな。妬まれるのも仕方ないが、許せない。よし、犯人を教えろ」

「お前の兄馬鹿は手の施しようがないことはわかったから、ひとまず落ち着け。噂は聞いているか? ファッジン君が殿下と婚約してからずいぶん変わったというのは?」

「ああ、あの馬鹿げた噂な。あれはファラーラが変わったんじゃない。周りが変わったんだよ。ファラーラは前から天使のような子だったんだから」

「……いや、もうそれについては議論しても無駄だな。とにかくファッジン君は――」

「なあ、その〝ファッジン君〟と呼ぶのはやめてくれないか?」

「自分が呼ばれている気がするか? それなら――」

「いや、お前がファラーラの担任だという許せない事実を何度も突き付けられているようでムカつくだけだ」

「残念だが、呼び方は変えられない。たとえお前の妹でも私の生徒だからな」

「はあ? ほんと、お前のそういうところムカつくよな!」

「うるさい、兄馬鹿! 妹が大切ならちゃんと話を聞け! くだらないことにこだわるな!」

「やっぱり虐められているのか!?」

「それはない」

「そうか……。驚かせるなよ」



 そうならそうと早く答えてくれればいいものを、心配してしまったじゃないか。

 考えてみれば、天使のようなファラーラを虐めるなんて悪魔がいるわけないよな。

 そんなやつがいたら私が悪魔に魂を売ってでも後悔させてやる。



「ファッジン君は入学早々、特待生の友人ができたんだ」

「それは当然と言えば当然だろう。むしろ周囲がファラーラを放っておくはずがないからな」

「……彼女は――エルダ・モンタルド君は当初ファッジン君のことには気付かなかったようだよ。ファッジン公爵令嬢で王太子殿下の婚約者だとは。それで授業中にお腹が空いたらしいファッジン君にキャデを渡したんだ。それでつまみ食いをした二人を授業終了後に呼び出して――」

「ブルーノ! お前、それは職権乱用だろ!」

「どこがだよ! 正しく職務遂行しただけだろ! そもそも気にするところが違う! お前の妹がキャデを食べたことに驚けよ!」

「はあ? どこに驚く要素があるんだ? ファラーラはとりあえず食べ物だと認識したものは口に入れるぞ」

「赤ん坊かよ!」

「お前、さっきからファラーラを馬鹿にしているのか? 赤ん坊は何でも口に入れるだろうが。ファラーラはちゃんと食べ物しか入れないんだ」



 そして美味しいものを口に入れたときの幸せそうな顔はこちらまで幸せになるくらいだ。

 ちなみに口に合わなかったときの、この世の終わりのような表情もまた可愛くて堪らないんだよなあ。



「で、キャデを食べたときのファラーラの様子はどうだった?」

「この世の終わりのような顔になっていたな」

「可愛かっただろう?」

「……面白かったな」

「そうか、そうか。可愛かったか。だがな、ブルーノ。ファラーラはまだ十二歳だからな。いくら可愛くても惚れるなよ」

「十二歳だろうが、二十二歳だろうが、絶対にあり得ないから安心しろ。それよりもファッジン君は入学初日から制服を着用していたんだ。それでモンタルド君も一般生だと勘違いしたようだが、お前が彼女に制服を勧めたのか?」

「ファラーラが制服を……?」

「ああ。毎日着用して登校しているぞ」



 あのファラーラが学院の制服を着用しているなんて信じられない。

 そんな、そんなことがあるなんて……。



「学生たちの中に天使が紛れ込んでいるようなものではないか! ずるいぞ、ブルーノ! お前は担任という立場で毎日ファラーラの制服姿を見ることができるとは!」

「お前のその発言は変態めいているぞ。あと担任は学院長が決めたんだよ。代われるものなら代わってほしいがな」

「学院長が? 身びいきか!」

「まったくもって関係ねえ! むしろ孫だからってこき使われているんだよ!」

「そうか。では、私は今から教師になるぞ!」

「馬鹿なことを言うな! そもそもお前はファッジン君とは会えないんだろう?」

「うあああ! そうだった! ああ……ファラーラとの約束を破るわけには……」



 今でも約束を果たすことができず代替案としてイチゴ栽培をしているというのに。

 ファラーラは時に厳しくなるからなあ。

 このイチゴが熟すまではファラーラとも会えない。



「よし、覗きに行こう!」

「間違えた。お前はすでに変態だ。学院長が侵入者を見逃すわけがないだろう?」

「誰が侵入すると言った? きちんと手続きを踏んだうえで、覗き見するんだよ」

「そんな変態は俺が絶対許可しない。他の生徒への悪影響を考えろ」

「何と卑怯な……」

「教師として当然の対応だよ」



 そうだ。昔からブルーノは融通が利かないというか、遊びがないんだよな。

 それでよく学院長が心配なさって特別課題を出されていたんだよ。

 またの名を嫌がらせとも言うが。

 ブルーノを通しても許可は下りないだろうから、直接学院長に交渉しよう。

 よし、決めたぞ。




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― 新着の感想 ―
[良い点] ファッジン家の兄妹とまともに会話するのは疲れそうw [気になる点] 学院長がおじいちゃん……では幻惑魔法も使えるのかしら。今後登場するのかな?
[一言] そうかフェスタ先生は学院長の孫だったのか。 だからと言って影響はなさそうですが。 生徒の父兄が皆チェーリオお兄様のようでしたら、 教師の大半が辞表を出しそうですね。
[良い点] お に い さ ま www 校長先生、さてはファッジン家に耐性があるという理由で担任に決めましたね?
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