すれ違い3
「殿下、そろそろ戻りましょうか?」
「もう落ちついた?」
「はい、大丈夫です」
私の気持ちが落ち着くのを待っていてくださるなんて、殿下はやっぱり紳士ね。
未だに握ったままだった私の手をご自分の腕へとさり気なく誘導して、エスコートしてくださる。
きっとリベリオ様も邪念を捨ててくださると思うと、提案するのが楽しみで足取りも軽くなるわ。
だけど居間へと戻ると、奇妙な光景が目に入って思わず足を止めてしまった。
ええ……。
やっぱり悪魔祓いが行われていたんだわ。
だって、長椅子へと席を移されたリベリオ様の両隣にお兄様とフェスタ先生が座られて、とても深刻そうなお顔をされていらっしゃるんだもの。
しかもフェスタ先生はリベリオ様の肩に手を置かれて、何かをおっしゃっているわ。
思わず回れ右をしようとしたけれど、殿下が私の手に手を添えられたために動けなくなってしまった。
「リベリオ、もう大丈夫か?」
「ああ。気持ちの整理もついた。元々わかってはいたんだがな。ファラーラ嬢、混乱させて申し訳なかった」
「い、いえ。ちょっと驚きましたが、私は大丈夫です」
なるほど。殿下はリベリオ様が正気に戻られたことがわかっていたのね。
それなら安心。
フェスタ先生の私を見る目が冷ややかな気がするけど、さっさと逃げ出したことを怒っていらっしゃるのかしら。
でも私は邪魔にしかならないもの。
だから後でちゃんと教会にお布施して、イオシ様の象徴である太陽のペンダントを授けてもらうわ。
それをリベリオ様にプレゼントして、私は魔除けの聖水をお譲りしていただけば大丈夫。
そうだわ。フェスタ先生とお兄様、殿下にもペンダントをプレゼントしましょう。
私はあのデザインが趣味じゃないのよね。
とにかくここは今の私にできることをやるまでだわ。
落ち込まれた様子のリベリオ様を励ますためにも、あの案は必要だと思うのよね。
中二病には中二病で対抗するのよ。
「リベリオ様、学院に戻られたら気分転換に部活動を始められてはどうですか?」
「部活動?」
「はい。リベリオ様に入部していただければ、とても心強いですわ」
そして女子部員も殺到するわね。
そうなると審査をしたいところだけれど、門戸は広く開放するって決めているからできないのが残念。
フェスタ先生が「悪魔だ……」って呟いていらっしゃるけれど、まさかまだ悪魔がいるの?
あたりを見回しても特に何もないわ。
驚かさないでほしいわね。
ほっと安堵していたら、殿下がにっこり笑顔を向けていらっしゃった。
「ファラーラ、部活動って何のこと?」
「あ、はい。何か目標を定めてみんなで努力し協力し合い成し遂げる活動ができるような団体を学院で発足させようと思っているのです。そこでせっかくの魔法学院なのですから、ただ受動的に魔法を学ぶだけでなく、もっと積極的に新しい魔法に取り組むのも楽しいと思いまして……。部内では出身など関係なく、みんなが分け隔てなく意見を言い、交流を図るのです。入部資格は魔法への情熱! 魔法への愛! その名も『魔法ラブ』!」
「ラブ?」
「はい。ラブとはすなわち愛なのです! というわけで、フェスタ先生が顧問なうえ、リベリオ様が入部してくだされば、きっと希望者が殺到しますわ」
「私はまだ引き受けてないからな」
「大丈夫です、先生」
「何が?」
「学院長にお願いすればきっと許可してくださいます」
「まったく大丈夫ではないな。むしろ決定事項になる」
「ファラーラ、それは僕も入れるのかな?」
「もちろん大歓迎です! 客寄せパン――人気実力ともに優れていらっしゃる殿下にはぜひお願いしたいです」
「それなら入るよ」
「いや、だから私は顧問など……」
せっかく部活動の話で盛り上がってきたのに、フェスタ先生は水を差さないでほしいわ。
だけど殿下がにっこり笑顔を向けられると、先生の反論が途切れた。
そうよね。殿下の権力つき純粋笑顔には何も言えなくなるわよね。
これは使えるわ。
「リベリオ様、いかがでしょう?」
その持て余した魔力と中二病力と無駄にいいお顔をどうぞ活かしてください。
そしていつかは変身魔法も開発するのよ。ふふふ。
「その、何かの目標や新しい魔法と言うが、具体的には何をするつもりなんだ?」
リベリオ様、それはとても良い質問ですわ。
内容とともに、前向きに検討されていることがわかりますもの。
それでは私が自信を持ってお答えいたします。
「それはもちろん、空を飛ぶのです!」
「振り出しに戻ったよ……」
フェスタ先生、うるさいです。
皆様、いつもありがとうございます!
この『悪夢から目覚めた傲慢令嬢はやり直しを模索中』が書籍化されることになりました!
発売は8月7日です。詳しくは活動報告をご覧ください!
よろしくお願いします(*´∀`*)ノ




