すれ違い2
「プローディ殿、いったい――」
「お兄様、早く除霊をなさってください!」
「ファラーラ? 何を言って――」
「だって、リベリオ様はやっぱり悪霊に――悪魔に取り憑かれているのでしょう!? 神様仏様イオシ様です!」
「いや、だから――」
「まあ、大変! きっと悪魔祓いに私たちはお邪魔ですね! それではちょっと失礼いたします! フェスタ先生はどうぞお兄様を手伝ってさしあげてください!」
私は超絶速さで立ち上がると、そのまま扉まで一目散。
もちろん握ったままの殿下の手は離さないわ。
だって一人になるなんて怖くて無理! 悪魔祓い見学も無理!
リベリオ様の引き留める声が聞こえた気もしたけれど、振り返ってはダメよ。
そうやって引きずり込んで仲間を増やす気なんだわ。
スカートの中でちょこちょこ足を動かして急いでお庭へと出る。
悪魔はきっと太陽の光は苦手なはず。
「ここまで来れば安心ですね?」
ほっとひと息吐いて振り返ったら、殿下は俯いて片手で口を押さえ震えていらっしゃった。
まさかこれは、蝶子の弟がよく見ていたホラー映画のパターン?
もうすでに殿下は取り憑かれているのかも。
「で、殿下……」
自慢ではないけど、私は走るのはあまり早くないと思うわ。
だって、走ったことがないもの。
それでもいざとなれば護衛騎士が待機している場所くらいまでは逃げきれるはず。
ああ、でもこういう場合、護衛騎士まで取り憑かれていたりするのよ。
とにかく逃げなければと殿下の手を離そうとしたけれど、強く握られて無理だった。
どうしましょう。
走る前に逃げ出せないわ。
絶体絶命の大ピンチなのに、殿下は盛大に噴き出して笑い始めた。
「ご、ごめん……。笑うなんて……ファラーラにも……リベリオにも失礼だって、わかっているんだけど……ちょっと……無理……」
ええ? こんなに私は必死なのに笑うなんて酷いわ。
そう思ったけれど、殿下のこの雰囲気は大丈夫そう?
「エヴィ殿下は大丈夫ですか? 取り憑かれていませんか?」
「うん……たぶん大丈夫」
「たぶん!?」
「取り憑かれているって言うと、そうかもしれない。ただ……本当に、ファラーラって面白いよね?」
「ええ!?」
ここは喜ぶべき? 殿下に面白いとおっしゃっていただけたのよ?
お笑い山の七合目くらいまでは登れたわよね。
あと少し頑張れば頂点を目指せるかも。
でも「取り憑かれた」ともおっしゃっていて謎。
見た目は変わらないけれど、本当に大丈夫かしら。
どこかに悪魔の刻印でもあればいいのに。
あら、ますます中二病的ね。
「……ファラーラは、リベリオのことを……どう思っているの?」
「リベリオ様ですか? それはもちろん、早く正気に戻ってくださればいいなと思っております」
「それって、さっきの告白はリベリオが正気じゃないと思っているってこと?」
「当然ではないですか。だってリベリオ様は……」
「リベリオは?」
私のことを毛嫌いしていて、悪夢の中でもずっと殿下との仲を邪魔していたのよ。
はっきり言えば、殿下のことはあまり覚えていないのに(サラもだけど)、リベリオ様に関してはあれこれと嫌なことをされた記憶がたくさんあるもの。
肝試しのときだって、サラをけしかけてきたりしていたのに。
それがいきなり私のことを好きだなんて、悪魔か何かに取り憑かれているに決まっているわ。
いえ、それとも……。
「わかりましたわ! リベリオ様は嘘を吐いていらっしゃるのです!」
「嘘?」
「はい。リベリオ様はずっと私のことを嫌っていらっしゃったもの。ですから、私と殿下の仲を裂くおつもりなのですわ!」
「だが――いや、何でもない」
「ええ? エヴィ殿下は何かご存じなんですか?」
「直接本人に聞いたわけではないから、憶測では何も言えないよ。ごめんね」
「そうですか……」
男同士の友情ってやつね。
まあ、いいわ。
私だって、エルダやミーラ様、レジーナ様がいるもの。
「それで、ファラーラはどうするつもりなの?」
「それはもちろん、売られたケンカは――いえ、私は騙されません! 下手な策略にはまってリベリオ様の思い通りになんてさせませんから!」
「……そうだね」
ええ、そうですとも。
私、用心深いタイプですから。
簡単に騙されたりなんてしないのよ。
おほほほ!
ところで、悪魔祓いはもう終わったかしら。
殿下はご無事なようだけれど、少しお元気がないのはやはりリベリオ様のことがご心配なのでしょうね。
悪魔にしろ嘘にしろ、お兄様のお力でリベリオ様が正気に戻っていらっしゃればいいけれど。
でも中二病は厄介な病気のようだし、こじらせていると完治は難しいのかも。
あ、そうだわ! そうよ。そうすればいいのよ。
ふふふ。さすが私。
とってもいいことを考えたわ。




