箒2
私のとっておきの案だったのに、フェスタ先生はちゃんと話も聞かずに否定しようとなさっているわ。
考えることをやめるなんて、それは人間をやめろと言っているようなものよ。
おサルさんだって色々考えているんだから。ウッキッキ。
どうやら結論から先に言ったのがダメだったみたい。
ここは一時撤退。
きちんと話を聞いてくださるように盾(殿下)と矛(お兄様)を捜しにいきましょう。
殿下は私のことをお嫌いかもしれないけれど、悪夢の中でだって辛抱強く付き合ってくださっていたもの。
きっとフェスタ先生に注意してくださるはず。
「それでは、盾(殿下)と矛(お兄様)を手に入れるために人食い花を(先生が)倒しに行きましょうか」
「何を言っているんだ、君は」
「今のは(半分)冗談です。そろそろ殿下たちをお呼びしたほうがよろしいかと思ったので」
「……ファッジン君でも冗談を言うんだな」
先生は驚いていらっしゃるけれど、私は冗談も言わないほど真面目に見えるってこと?
まさかそれで近づきにくいと思われていたとか。
これからはもっとみんなに冗談を言うべきね。
でもどんな冗談ならみんな親しみを持ってくれるのかがわからないわ。
「それでは今度はフェスタ先生が何か面白い冗談をおっしゃってください」
「いい加減に君は無茶ぶりが過ぎるぞ。私にとっては、今この時間が冗談であってほしいが」
フェスタ先生は大きくため息を吐いて答えられたけれど、そのお姿はもう何度も見たわ。
これはひょっとして、私と一緒にいても楽しくないと遠回しにおっしゃっているのかも。
何てこと。私に必要なのはお笑い要素なんだわ。
「わかりました。私はこれからお笑いの頂点を極めてみせます!」
「そろそろ正気に戻ってくれないか」
「だって先生、いつでもクラスの人気者は面白い人なんです。ですが別に私は人気者になりたいわけではなく、ただ嫌われたくないだけなんです!」
「……心配するな。ファッジン君は今のままで十分面白いから」
「本当ですか?」
「ああ、間違いない。それに君はすでに人気者だろう? あの……キラキラうちわとやらも一番の売り上げだったと聞いたぞ。すごいじゃないか」
「それは……そうですよね! ええ、そうでした!」
すっかり忘れていたけれど、私はうちわ売り上げナンバー1の人気者なのよ。
ということは嫌われているのではなく、憧れの存在で近寄りがたいのね。
それなら親しみやすさをアピールするべきかしら。
制服はもう着用しているから、他にもっとこう庶民的な……。
何かないかと考えていたら、そこに殿下とお兄様が戻っていらっしゃった。
お二人とも特に変わった様子はないので、どうやら人食い花の出現はなかったみたいね。
あら? だけど殿下のお顔が赤いわ。
「殿下? 何かございましたか?」
「い、いや、別に……ちょっとチェーリオ殿に……お勧めの本を教えてもらっていたんだ」
「そうですか……」
人食い花やキメラと戦っていたわけではないのね。
どことなく呼吸も荒いような気がしたけれど大丈夫みたい。
そうだわ。ミーラ様には殿下とチェーリオお兄様が二人きりで過ごされたのだけれど何があったか少し心配、と相談しましょう。
相談することによって、ミーラ様を信頼していると伝えるのよ。
これできっと友情も深まるわ。よし。
「それでは話を戻させていただきますね」
「戻すな、忘れなさい」
「今日はお兄様がお元気に(しっかり研究を)なさっているのか心配で伺いましたが、(まだ見ていないけど)問題ないようで安心しました。先生にはお世話になりっぱなしなのにお礼も満足にできず申し訳なく思っております。それなのにさらにずうずうしくも新たにお願いしたいことがあります」
「断る」
「実は私、先日とても素晴らしい案を考えたのです」
「私の授業中にな」
「ですが私にはまだ実力不足で不可能ですが、土魔法と風魔法がお得意なフェスタ先生なら可能だと思います」
「不可能だ」
「先生、合いの手を入れずにちゃんと聞いてください」
「そうだぞ、ブルーノ。ファラーラのお願いなんだから、心して聞けよ」
話がいつも逸れるのは先生が余計なことをおっしゃるからなのよ。
頑張って流していたけれど、つい反応してしまったらお兄様が援護してくださったわ。
さすがお兄様ね。
フェスタ先生は何かまた言いかけたけれど、諦めたように口を閉ざしてしまわれたもの。
するとお兄様がそのまま続けられた。
「だけどな、ファラーラ。風魔法なら私もブルーノに引けは取らないぞ。土魔法もブルーノほどではないが、得意だしな」
「ですが、お兄様はお忙しいですから」
「私は忙しくないとでも?」
「確かにフェスタ先生は学院で何かとお仕事を任されてお忙しいでしょうが、ファラーラの案を一度は試してみられてはどうでしょうか?」
何事もなかったかのようにフェスタ先生は口を挟まれたけれど、今度は殿下が追加援護どころか攻撃までしてくださった。
盾で殴り掛かるスタイルもありですね。
「とはいえ、僕も技ではまだまだだけど、魔力は十分あるよ?」
「ですが、殿下はお体を大切にしていただきませんと」
「私の体は大切ではないと?」
続いた殿下のご提案を心配しただけなのに、本当に先生は一つ一つが細かいと思うわ。
殿下もチェーリオお兄様も同様に思っていらっしゃるのか、フェスタ先生へ責めるような視線を向けられた。
やっぱり私の作戦成功ね!
フェスタ先生は不機嫌そうに眉間にしわを寄せて窓の外を手のひらで示される。
「ファッジン君は私に空も飛べるはずだと言ったんだぞ?」
「え? 空を飛ぶ?」
「ファラーラ、それはいくらなんでも……」
あらら? まさかの形勢逆転?
殿下とお兄様が先生側につくなんて。
私が我が儘を言ったときのように、お兄様は少し困ったように微笑まれたわ。
「ファラーラ、そもそもどうやって空を飛ぶんだ?」
「それはもちろん、箒に乗ってですわ」




