箒1
「――あら? 殿下とお兄様は?」
「今、気付いたのか。君はもう少し周囲に気を配って発言にも気をつけたほうがいいぞ」
「やっぱりそれが私の嫌われる原因ですか? このままだと私、学院で仲間外れにされたりしますか?」
今ならわかる。仲間外れがどれほどつらいことか。
悪夢の中の私も蝶子も、これは大きく反省し償うべきだわ。
蝶子はそのために動き始めているのだから、私も頑張らないと。あの探偵は信用ならないけれど。
「私、決めました!」
「そうか。では誰にも迷惑をかけないように頑張りなさい」
「特待生などの一般生徒は今学院で肩身の狭い思いをしていますよね?」
「……ずいぶんよくなったようだがな」
「生徒会の方たちもそれなりにまあ頑張っていらっしゃるようですが、まだまだ甘いと思うのです」
「かなりの上から目線だが、その通りではあるな」
「ですが生徒会は女人禁制。しかも推薦であるがために、一般生徒たちにはどうしようもないのです。とはいえ、私が望むのは生徒たちが仲良くすることであって、対立は望んでおりません」
「……言っていることはまったく間違っていないのに、嫌な予感しかしないのはなぜだろうな」
「ですから、必要なのは組織ではなく情熱!」
「まったくもって意味がわからん」
「情熱といえば青春! 青春といえば部活!」
「そうか。それはよかったな。では、そろそろ殿下の救出に向かうか」
「ええ? まだ私が話しているのに途中で席を立つなんて失礼じゃないですか」
「……わかった。私は一切関わらないことを条件に続きを聞こう」
さらなる素晴らしい案を思いついたというのに、先生は適当にしか聞いてくださらないなんて酷いわ。
殿下はお兄様とご一緒なら心配はいらないでしょう? それともやっぱり人食い花でも出現するのかしら。
ちょっと気になるし、早めに話してしまいましょう。
「入部資格は情熱のみです。貴族でも一般生徒でも情熱さえあれば入れる団体を作るのです」
「君はまず〝組織〟と〝団体〟という言葉を辞書で引きなさい」
「先生、細かいことは気にしてはダメですよ」
「いや、そこが要なんじゃないか?」
「部活というのはですね、みんなで一つの目標を定めて己を鍛錬することなのです。個々の力を高めるためには皆の力も必要で、皆の力を高めるにも個々の力が必要なのです」
「その部活とやらの意味はわかったが、一つの目標とは何だ?」
「運動でも勉強でも何でもいいのです。ですが、魔法学院らしく魔法を――魔力を高めて新たな魔法を開発すればいいと思います!」
「はい、きた。これは絶対私に何か振るつもりだろう? はい、終了」
「大丈夫です! 先生は顧問をしてくださればいいだけですから」
「君は〝条件〟と言う言葉も辞書で引きなさい。思いっきり私も関わること前提ではないか」
先生は大きなため息を吐いて疲れたようにソファにもたれられた。
そんなだらしないお姿をされるなんて、私のことをお客様だと思っていない証拠ね。
でもまあいいわ。
「条件なんてものは臨機応変、交渉次第で何とでもなるんですよ」
「ではまず交渉しろ」
「しています」
「どこが?」
「アルバーノお兄様がおっしゃるには、交渉とは一切の隙を見せず有無を言わさず相手の話を聞くふりをしながら己の主張へと誘導し洗脳することだとおっしゃっていました。ですが私にはまだ洗脳は難しいですね。それとも先生には幻惑魔法を扱えるので耐性があるのでしょうか」
「まず、幻惑魔法は関係ない。あと、何をどう突っ込めばいいのかもうわからない。以前から思っていたことだが、ファッジン君は頭の中で整理してから話しなさい。色々と話が飛びすぎて訳がわからん」
「おそらくそれは先生が話に関係ないことを差し込んでくるからですよ」
「……ではどうして殿下がいらっしゃらなくなって、仲間外れを心配して、特待生のことから情熱の話になり、新たな魔法の開発になって洗脳しようとしているんだ?」
「先生の話し方では脈略がなさすぎます」
「ファッジン君の話を要約しただけだがな」
「わかりました。それでは先に結論を申します」
「よし、聞こう。それで満足したら帰ってくれ」
先生はしぶしぶといった様子で頷かれたけれど、きっと私の案をお聞きになったら驚かれるわ。
魔法技の教師として興味がないわけはないもの。
ふふふ。先生のお顔に警戒心が浮かんでいらっしゃるけれど大丈夫。
「考えたんですけど、フェスタ先生なら空も飛べるはずなんです!」
「頼むから……もう何も考えないでくれ」




