陣中見舞い3
「俺……お前と肩を組んだことあったか?」
「いや、覚えてないな。でもまあ、あったんじゃないか?」
「そもそもピシャは国からの要請を断って以来、行方知れずになっていただろう」
「画家になっていたんだなあ。確かに絵は上手かったからな」
「いや、そういう問題ではなく、行方がわからなかったんだぞ? もちろんテノン商会もその話は知っていたはずだ」
もっと喜んでくださるかと思ったけれど、思い出話を始められたわ。
どうやらジェネジオが依頼した画家は疎遠になっていたお友達だったみたい。
ここは黙って思い出に浸らせてあげましょう。
卒業アルバムのようなものも学院にはないですものね。
これを機会に同窓会とか楽しいんじゃないかしら。
「えっと、世界で一つだけだなんて、すごいね。しかもあのクレト・ピシャが描いたものだなんて、さすがファラーラだよ」
「そうおっしゃっていただけて嬉しいです! あ、そうですわ! エヴィ殿下もジェネジオに頼みましょうか? リベリオ様とのキラキラうちわを」
「いや、それは大丈夫」
うちわの感想をくださったのが殿下だけだなんて。でも嬉しいわ。
クレト・ピシャって初めて聞いた名前だけれど、そんなに有名なのね。
殿下もよくご存じのようなのに、肖像画は必要ないなんて。
蝶子の世界でも女の子同士でプリクラはよく撮っていたみたいだけれど、男子同士ではあまりなかったみたいだものね。……蝶子は女の子同士でも一度もないけど。
そんなものなのかしら。
「そういえば最近、リベリオ様をお見かけしませんが、まさかご病気ではないですよね?」
「……元気だと思うよ。何を思ったのかいきなり旅に出ると言って出発したきり、連絡はないけど」
「ええ!?」
「何だ、ファッジン君は知らなかったのか? プローディ君はしばらく休学しているぞ。女生徒を中心に騒いでいただろう?」
「……知りませんでした」
いきなり旅に出るとか、大ニュースよね。
そういえば少し前に学院内が騒がしかった気がしたけれど、私の噂かしらね、おほほほ。くらいにしか思っていなかったわ。
色々と考えることが多くて、それどころではなかったというのもあるけれど。
うちわとかお父様の健康のこととか蝶子のことに殿下との婚約解消、それにお化粧品とか魔法ステッキとか殿下のこと。
それでもいつもならミーラ様が教えてくれるのに。
確かに私も悪かったかもしれない。
噂好きのミーラ様のお話をたまに、時々、わりと聞き流していることがあるから、もうおしゃべりするのが嫌になったとか?
どうしましょう。ミーラ様に嫌われたかも。
ええと、こういう場合どうすれば許してくれるの?
金の延べ棒を渡す?
だけどミーラ様のお家は裕福だし、それくらいではダメかも。
ここはやっぱり女性らしく宝石?
なかなか手に入らない大きさだって以前ジェネジオが言っていた真珠はどうかしら?
いいえ。ダメだわ。
私はミーラ様だけでなく、エルダやレジーナ様との友情も大切にしたいもの。
二人とも優しいから不公平だって怒ったりはしないでしょうけれど……そうだわ! 情報よ!
それなら二人はそれほど興味がないでしょうし、さり気なくお話すればミーラ様は喜んでくれるはず。
よし、それではまずはミーラ様が知らないような情報収集ね。
「リベリオ様はなぜ今の時期にご旅行することになさったのでしょう? お祭りか何か、催しがあるのでしょうか?」
「旅行じゃなくて、旅な。似ているようで違うからな」
言葉の意味の違いくらいはこの際どうでもいいのに。
何がどう違うのかわからないけれど、今私が必要としているのは情報よ。
フェスタ先生に求めても無理そうなので、殿下に視線を移すとぷいっと逸らされてしまった。
ええ? どうして?
殿下まで私のことを嫌いに戻ってしまったのでは……。
ひょっとして私、最近調子に乗ってしまって以前の傲慢さが戻ってきているとか?
まさかの嫌われ人生お久しぶり!?
それで誰も私にリベリオ様行方不明事件を教えてくれなかったのかも。
「殿下は……やっぱり私のことがお嫌いなのですね……」
「はあ!? ちょっ、違う! 全然違う! 僕は――」
「殿下、少々よろしいですか?」
「い、いや、よろしくない! チェーリオ殿――っ!?」
このままでは殿下に婚約破棄されて幽閉コース?
だけどそれは私が殿下にプライドを傷つけられたことで精神に支障をきたしてしまったためで、その前に婚約解消すれば問題ないのよね。
よし、答えは見つかったわ。
あとはミーラ様に売る情報を手に入れるだけね。




