健康第一2
とはいえ、ジェネジオは探偵でも何でもないのよね。
油断ならない商売人ってだけで。
信用はできても信頼はできないのよねえ。
本当にこのまま素直に我が家の問題を相談してもいいのか悩むわ。
これは私の恋愛相談とは違うのよ。
きっと政治的問題に発展してしまうかもしれない。
恩を売るのはいいけど、買うのはいやだわ。
まあ、踏み倒せばいいのだけど。
うーん。
あ、そうだわ!
あれこれ悩む必要はないのよ。
だって私、我が儘だもの。
「――というわけで、あなたが今までで一番美味しいと思ったお料理の国はどこかしら?」
「またずいぶんといきなりな質問ですね」
私の問いかけに、ジェネジオは大きなため息を吐いた。
いきなりではないと思うのだけど。
話は一段落ついていたもの。
さすがジェネジオというか、用件は伝えていなかったけれどちゃんと化粧瓶の試作品を持ってきてくれたのよね。
しかも注文のつけようのない仕上がりのものばかりで、選ぶのに困ったくらい。
だから他のデザインのものはこれから展開する化粧品用にすることに。
ちなみに今も販売している化粧水をほんのちょっとだけ成分の配合を変えて、容器を変えてお値段は倍で売り出すことにもしたのよね。
ええ、ぼったくりですが何か?
フェスタ先生もおっしゃっていたもの。
価値は人それぞれ。
購入する方が満足されるなら、それが価値なのよ。
ふふん。
「やはりどの料理も美味しいとなると、トラバッス王国ですね」
「え? ああ、それってアルバーノお兄様がつい先日までいらっしゃっていた?」
「はい」
「とても遠い国の?」
「アルバーノ様は信じられない速さでお戻りになったようですが、従者の方々は未だに国境さえ越えられていないとか?」
「そうなのよね。それでお母様が困っていらっしゃったわ。代わりの従僕がなかなか見つからないって。あ、でも護衛騎士は今朝戻ってきたらしいわ」
「……ファッジン家には使用人が多くいたと思いますが?」
「でもアルバーノお兄様の従僕となると、忍耐力が必要だから。今は日替わりで担当しているそうなの」
それもあってお母様はお疲れだったのよね。
だけどシアラが普段こうして黙って傍にいてくれるように、従僕だって黙って右から左にお兄様の話を聞き流せばいいのに。
真面目に聞こうとするから疲れるのよ。
「それでね、あなたの家の――テノン家の料理長を我が家で雇いたいの」
「はい?」
「あなた以外にもテノン家の方は世界中を回っているでしょう? だからきっとあなたの家の料理人の腕は間違いないと思うの」
「……公爵家の料理長はどうされるのです?」
「クビよ。――というのは冗談で、トラバッス王国に修行に行ってもらいたいわ。修行先はジェネジオが見つけてね」
疑わしきは罰せず、なんて悠長なことはしていられないのよ。
クビにしてしまえば簡単だけれど、恨みを買っても面倒だし、もし本当に黒幕がいて勘付かれても困るもの。
黒幕って言い方は何だか事件のにおいがするわ。
時には女優
時には探偵
その正体は魔法少女ファラーラ・キララ!
なんてね。
キラキラの可愛いステッキがあるとなお良し。
あら、目の前に魔法の杖を持っている人がいるわね(比喩でなく)。
「それでは我が家の料理人はどうすればよいのですか?」
「あら、あなた方の人脈ならすぐに見つけられるでしょう?」
そうそう。
料理人の話だったわ。
もちろん我が家にも毒見――ではなく毒を発見する魔法で確認する使用人はいるけれど、誰だってミスはするもの。
緊張感がなくなれば特にミスは起こりやすいのよ。
親しき仲にも疑いあり。
仲良くなればなるほど油断して、手順もなおざりになっていくのよね。
料理人にしろ毒発見魔法を扱える人にしろ、定期的に担当替えは必要なのよ。
蝶子が働いていた会社でも、長年経理課にいた課長とやらが横領を働いていたって騒ぎになっていたもの。
そのあたりは王宮で働いている人も同様だろうし、お父様に今度お話してみましょう。
クビや左遷ではなく人材交流は大切なのよね。
そうなるとお父様も異動かしら。
それはそれでいいと思うわ。
「――公爵夫人はご存じなのですか?」
「大丈夫よ、あとで私がお願いするから」
「……わかりました。それでは早急に手配いたしましょう」
「よろしくね、ジェネジオ。それと、もう一つ……二つお願いがあるの」
「はいはい、何でもお伺いいたします。可能かどうかは別として」
「あら、一つは簡単よ。次の次のお休みまでにはできると思うわ。それよりも、私の杖なんだけど、もう一本ほしいの」
「不具合がございましたか?」
「いいえ、まったく問題はないわ。ただ、何て言うか……新しい杖には装飾ができないかしら?」
「装飾?」
「ええ。キラキラ~として、ピカピカ~として、クルクル~とする、リボンのついた可愛い色のものよ」




