健康第一1
「ファッジン君……。君は悪魔か何かか?」
放課後、珍しくフェスタ先生から呼び出しを受けて職員室に行くと、開口一番酷い言われ様なんですけど。
だけど先生の机の上を見てちょっとだけ意味がわかったわ。
委員長からの企画書らしきものが置いてあったから。
さすが委員長(知らなかったけど)、仕事が早いわね。
「天使だとは(兄から)よく言われますが、悪魔と言われたのは初めてです。フェスタ先生には(お説教など)初めての体験ばかりさせていただき、多くのことを教えていただいていますね。今回はその技法で――」
「わかった。今すぐ食堂を使えるように交渉するから、黙ってくれ。そしてこのことに関しては委員長と話を詰めるから、ファッジン君はたった今から何も関わらないでいい」
「発案者ですのに?」
先生からの苦情らしきものの意味がわかったところで、どうしてそうなったのか説明しようとしたのに遮られてしまったわ。
しかも関わるな、だなんて。
「それが災いの元だ。元を断ち切れば被害は最小限に食い止められる」
「ですが……」
「それにみんなにもいい経験になるだろう。委員長の進路希望は政務官だったからな。学園側との交渉や予算立て、資金繰りなどいい勉強になる。心配するな」
「……それでももし資金が足りないようでしたらこっそり教えてください。私、お金ならありますから」
みんな――委員長や特待生の子たちはお金の心配をしていたもの。
それならその心配を取り除けば、みんなもっと自由にできると思うのよね。
だけど先生はいつになく優しい眼差しで私を見た。
やだ、そんなに優しい表情をされたら、気持ち悪いんですけど。
天変地異の前触れかしら。
「そういう心配は大人に任せなさい。たまにはあれこれ迷惑をかけることを考えるのをやめて、子供らしく迷惑をかけずに楽しめばいいんだから。たとえ王太子殿下の迷惑な婚約者でも君はまだ十二歳なんだぞ。迷惑をかけないようもっと力を抜きなさい」
「そんな……まるで立派な大人のようなこと言わないでください。先生には似合いません」
「おい――」
「ですが、高みの見物もいいかもしれませんね。先生と委員長たちの力量をしっかり見ていてさしあげます」
「本当に生意気だよな……」
フェスタ先生は独り言のように呟かれたけれど、しっかり聞こえていますよ。
それからまたため息ですか。
お疲れなんですね。お顔にも疲労の色が濃く出ているもの。
教師ってお仕事はやっぱり大変なんだわ。
迷惑をかけられることも多いみたいね。お気の毒に。
「ところでファッジン君」
「はい、何でしょう?」
「私は昨日、君にしっかり念を押して頼んだよな? アルバーノ殿のことを」
「…………あ」
そういえば、そうだったわ。
先生がお疲れなのはまさかアルバーノお兄様がご迷惑をおかけしたとか?
「兄は、今日から出仕のはずですが……」
「仕事は午後からだというので、先にわざわざ私の授業のない時間をちゃんと狙ってお越しくださったんだ。お互い次の予定がなかったらどうなっていたと思う?」
「ご心配なさらなくても、人は生きている限り睡眠が必要ですし、また何かしらの用事があるものです。いつかは時間切れになったと思いますわ。あ、そうそう。私もこの後用事がありますの。テノン商会のジェネジオを待たせておりまして。それでは失礼いたします」
にっこり笑顔で立ち上がりながら、すすすと後退する。
これぞ淑女の嗜み。
都合の悪いことからは逃げるに限るわ。
あらあら、また先生はため息を吐いていらっしゃるわ。
何か差し入れでもしようかしら。
いえ、でも賄賂と思われても嫌よね。
そうだわ。
チェーリオお兄様への陣中見舞いのときに何かお持ちすればいいのよ。
ちょうどジェネジオと会うのだから、なかなか手に入らないものを注文しましょう。
ジェネジオには化粧品用の入れ物の開発の進捗具合も訊かないとね。
化粧水と乳液はシアラを見ていても何も問題はないどころか、効果はあるような気がするわ。
朝起きたときの肌触りが違うってシアラも言っていたものね。
美容クリームは少し時間がかかっているけれど、乳液が世間に浸透したころに発売すればきっと簡単に飛びつくはず。
私の中の一番大きな不労所得まであと少し。
要するに悠々自適生活に近づいているのよね。
そのためにも健康第一、家族みんなには元気でいてもらわないと。
皆様、いつもありがとうございます。
本日より拙作『紅の死神は眠り姫の寝起きに悩まされる』のコミカライズが始まりました!
完全無料、登録不要のコミックPASH!にて連載開始です。
担当してくださるのはPASH!ブックスにて挿絵を担当してくださった深山キリ先生です!
詳しくは活動報告をご覧ください! よろしくお願いいたします!




