ミーラ4
「あれ? ひょっとしてみんなで勉強会?」
「きゃっ、あ、え、い、はい!」
「ププ、プローディ先輩! お、王太子殿下まで!」
キター!
いつかは来ると思っていたけれど、本当にこの日が来るなんて!
王太子殿下が――プローディ先輩までいらっしゃるなんて!
こんなに間近でお二人を拝見することができるなんて、最高の役得!
いいえ、素晴らしいオマケだわ!
「ごきげんよう、殿下。リベリオ様」
さすがファラーラ様。お二人を前になさっても冷静なままなんて。
興奮のあまりすっかり礼儀を忘れてしまっていた私は、慌てて席を立ちお二人に膝を折って挨拶をする。
「ごめんね、勉強会の邪魔をして。だけどエヴェラルドが愛しの婚約者が何をしているのか心配みたいでね」
「おい」
「まあ……」
やっぱり殿下はファラーラ様のことを気になさっていらっしゃったのね。
そんなプローディ先輩のお言葉に、ファラーラ様と殿下が目と目で会話されていらっしゃるわ!
ああ、なんて至福。
ここは私が盛り上げて、もっとこの至高のひと時を延ばさなければ。
「わ、私たち、まだ入学したばかりで学園のことをよく知らないのですが、何か知っておいたほうがよいことはございますか?」
「そうだなあ。それでは学園七不思議なんてどうかな?」
「七不思議ですか?」
私の問いにプローディ先輩は考えながら答えてくださった。
昔、何かの本で王宮の七不思議の話は読んだけれど学園にもあるのね。
そんな子ども騙しには誰も怖がったりしないでしょうけど、興味はあるわ。
一つ一つお話を伺えば時間稼ぎにもなるし……って、殿下はずっとファラーラ様のことを見つめていらっしゃる!
気付いて、ファラーラ様!
またいつものぼんやりモードに入っていらっしゃいますよ!
そうなるとファラーラ様のお顔はにやけたり怒っていたり悲しそうだったり、百面相になるんですから。
見ていて飽きないのは事実ですが、愛しの殿下の熱視線には気付いてください!
ああ、でもファラーラ様がとても楽しそうに微笑まれているわ。
何をお考えなのか知りたい。
どうやら殿下も同じお気持ちだったらしく、ついに話しかけられた。
「――ずいぶん楽しそうだね?」
「はい!? え、ええ。皆様の会話が楽しくて」
「へえ? ファラーラ嬢は学園七不思議に興味があるんだ?」
「な、七不思議?」
やっぱり私たちの話は聞かれていなかったんですね。
それに楽しそうでしたのに一気にお顔の色が悪くなられたわ。
もしかしてファラーラ様は怪談系は苦手なのでは……。
それでは王宮の七不思議は――いえ、それよりもっとたくさんありますけれど、将来大丈夫ですか?
「殿下、リベリオ様、せっかくのお話の途中で申し訳ないのですが、私たちはまだ勉強中ですので……」
「ああ、そうだったね。ごめんね、邪魔をして。じゃあ、行こうか、エヴェラルド」
「そうだな。ファラーラ嬢、お嬢様方、お邪魔をして申し訳なかったね。それでは、また」
いい感じに話を逸らされましたけれど、たぶんお二人も気付かれたと思うわ。
ファラーラ様の弱点を知られてしまったのは私の不覚。
何とか挽回しなければ!
そう考えていたら、次の日にプローディ先輩が肝試しに誘ってくださった。
ちょっと意地悪かとも思ったけれど、これは殿下との仲を深めるチャンスでは?
レジーナ様に目で合図を送り、次いでファラーラ様に目で懇願する。
ファラーラ様は私たちの気持ちを汲んでくださって、プローディ先輩に了承された。
やったわ!
これでお二人は危機を乗り越えられることでさらに愛を深められるのよ。
プローディ先輩もてっきりそのおつもりだと思っていたのに。
どうしてサラ・トルヴィーニ先輩までお呼びしたんですか?
しかも殿下にベタベタしすぎではありません?
プローディ先輩は楽しんでいらっしゃるみたい。
まさか愛は障害があるほうが燃えるとか思っていらっしゃるのでは?
それは作戦失敗ですよ。
お二人にはまだ早いです。
いえ、まあ、結果から言えば楽しかったんですけど。
エルダさんが怖がるふりをしてファラーラ様を助けたおかげで、トルヴィーニ先輩に弱点を知られずにすんだものね。
素晴らしい機転だわ。
それどころか、ファラーラ様が殿下とトルヴィーニ先輩を組ませて余裕を見せることで逆に優位に立たれたのよね。
それに、憧れのプローディ先輩と肝試しできたことは一生の思い出になります。
ファラーラ様、ありがとうございました。
ただしサラ・トルヴィーニ先輩、あなたは許せません。
鈍いプローディ先輩(男子)にはわからなくても、私(女子)にはわかります。
幼馴染という立場を使って、想い合うお二人を引き裂こうとしているとね!
それなら私にも考えがあるわ。
トルヴィーニ先輩はお優しい方だとマリーお姉様から伺っていたけれど、今までお会いしたことがなかったのは格下の家の催しには一切出席なさらなかったからですよね。
ファラーラ様は公爵夫人とご一緒に全てではなくても招待されれば応じられていたのに。――振る舞いは別として。
ポレッティ派の方たちに除け者にされている方々を庇っていらっしゃるとも伺ったけれど、一般生徒のことは眼中に入っていませんよね。
まあ、私もエルダさんと仲良くなるまで気にもしていなかったけれど。
これからきっとファラーラ様が望まれなくてもファッジン派は自然発生するはず。
だけどファラーラ様にはそのような些末なことで煩わせたくはないわ。
それなら私とレジーナ様がきちんと取りまとめないと。
規律は清く、正しく、美しく。
レジーナ様が表担当、私は裏担当。
というわけで、まずはトルヴィーニ派の内部崩壊に取り組みましょう。
明日はさっそくマリーお姉様とお話しないと。
今だってお優しいファラーラ様はエルダさんのことを心配しているわ。
確かに夜道は学園内でも危険ですものね。
ファッジン公爵家の馬車に簡単にお乗せになるなんて、さすがファラーラ様。
やっぱりファラーラ様は天使のような方なのよ。




