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ミーラ3

 

 あー、退屈。

 まさか学園がお休みなだけで、こんなに退屈するなんて思いもしなかったわ。

 入学するまでのあの憂鬱が嘘みたい。

 それに今までの私は何をして過ごしていたのかしら。


 しかも初めてのお休みなのに課題が多いのよ。

 私の嫌いな計算の課題が特に多いわ。

 計算なんて別に淑女がする必要はないのに。

 あれは一般生用の授業で将来政務官になったりする人たちが勉強しておけばいいんだから。


 でもファラーラ様はスラスラ解いていたわよね。

 家庭教師を三人も雇われたのも殿下とご婚約されてからで……。

 やっぱりファラーラ様は将来の王妃様となるべく努力をされているのよ。

 それなのに(自称)側近の私がサボっていてはダメだわ。


 私も家庭教師を雇おうかしら。

 ここの問題がどうしても解けないもの。

 お父様にお訊ねしてみましょうか。

 お仕事の邪魔にならなければいいのだけれど。


 そう思いながら書斎にノックして入ると、お父様は何か考え込んでいらっしゃるようだった。

 今はダメな時だった? でも「入りなさい」っておっしゃったわよね。



「お父様、お忙しいところ申し訳ございません。ですが、どうしてもこの問題が――」

「ミーラ、良い知らせだ」

「はい?」

「先ほど入った情報によると、なんと王太子殿下がリベリオ様とともに、ファッジン公爵家へご訪問されたそうだ!」

「それは……ご婚約されているのですから……」



 当たり前ではないのかしら。

 確かに王太子殿下が臣下のお宅にご訪問されるなんて普通はあり得ないけれど、婚約者へのご機嫌伺いならあることでは?

 だけどご婚約が発表されたときの王太子殿下の冷めた表情を思い出せば、驚きではあるのかもしれないわね。



「ああ、まあ、そのとおりだな。いいか、ミーラ。これからもファラーラ嬢とは仲良くするんだぞ」

「それはもちろんです、お父様」



 今さら仲良くするのを反対されても困るわ。

 ところでお父様にお勉強を教えていただきたかったのだけれど、「これで運が向いてきたぞ」とか「損な役回りだと思ったが……」なんて嬉しそうに呟いていらっしゃるから、やめておいたほうがよさそうね。


 勉強は執事に教えてもらって、お父様はそっとしておきましょう。

 嬉しそうなお父様を見ていたら、私まで嬉しくなってきたもの。

 そうよね。王太子殿下がご訪問されるくらいの方――ファラーラ様と私は友達なのよ!


 友達……よね?

 それもエルダさんのおかげな気がするわ。

 エルダさんが呑気にファラーラ様とのちょっとした壁を壊してくれた気がする。

 彼女には感謝しないと。



 それから休み明けにお二人のことを話題に出せばファラーラ様は困ったように微笑まれてとても可愛らしかった。

 最近のファラーラ様は上機嫌で、きっといいことが――殿下との愛を順調に育まれているのね。

 だって、ファラーラ様が望まれて成立したご婚約ですもの。


 ああ、でもエルダさんってばいくらファラーラ様のご機嫌がいいからって、そんなお説教じみたことは言わないほうがいいわ。

 レポートなんてどうだっていいのよ。

 フェスタ先生はファラーラ様に厳しいと思うのよね。


 ちょっとご自分がチェーリオ様と仲がよろしかったからといって……って、ファラーラ様は素直にレポートを机の上に出されたわ。

 エルダさんも一緒にするの?

 それなら私も仲間に入れて! 

 エルダさんは教え方が上手なんだもの。



「あら、ファラーラ様。今からお勉強なのですか?」

「私もご一緒してよろしいでしょうか?」

「……ミーラ様、レジーナ様……。これは、昨日のレポートの……納得いかないところがあったので、修正して再提出しようと思っているの」

「まあ! さすがファラーラ様ですわ!」

「それでは、これから皆さんご一緒に勉強会にしませんか?」

「勉強会?」



 レジーナ様とさり気なく仲間に入れてほしいと伝えると、ファラーラ様は快く了承してくださった。

 勉強会だなんて、照れくさいけれど楽しそう。

 でもそのレポート、フェスタ先生から誤字脱字を直して再提出するよう言われたと先ほどおっしゃっていたものですよね。

 隠さなくてもよろしいのに、ちょっと見栄っ張りなところが可愛いです。


 そう考えれば、やっぱり今までの我が儘で傲慢な態度も可愛く思えてくる。

 あれもこれもぜーんぶ。

 純粋なゆえにちょっと欲望に忠実だっただけなのよ。

 きっと私は先にファラーラ様のお噂を聞いていて、先入観でしか見ていなかったのね。

 これからは自分の見たものできちんと判断しよう、そう思って勉強を始めたらまたファラーラ様が鼻歌を歌われ始めた。



「まあ、ファラーラ様。それは何ていう曲なのですか? 素晴らしい曲調ですわね」

「え?」

「ファラ、今の鼻歌だよ。さっきのと一緒の曲だったよ?」

「あ、あら……何だったかしら? 曲名は忘れてしまって……ごめんなさい」



 まさかファラーラ様は鼻歌に気付いていなかった?

 ここのところよく歌われていたのに?

 それではひょっとして、たまにスキップされていることもお気付きではないとか?


 いえ、それはさすがに……ねえ?

 あとでこっそりレジーナ様とエルダさんに伝えておかないと。

 スキップされていても指摘するのは禁止。

 だって、見ているだけで可愛いもの。


 それは学園の生徒みんなそうだと思うわ。

 みんなの目がとても温かいものね。

 以前からファラーラ様は黙っていれば天使のようなご容貌でいらしたけれど、ここ最近特に輝きを増していらっしゃるもの。

 同じ学年だけどお誕生日が遅いせいかお体が少し小さくて、やっぱりお守りしなければと思うのよね。




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― 新着の感想 ―
[一言] スキップ〜 やだ、可愛い! 美少女が微笑んでスキップ・・天使かな?あ!妖精でした エヴィ殿下も見たことあるのかな?声を掛けずに微笑む ミーラちゃん可愛い!やっぱりお互いに友達よね?てのがなん…
[良い点] やだ、ファラーラ様かわいい…
[良い点] あばたもえくぼ状態? 溺愛してるじゃないですか! いや、無自覚でスキップしてるファラは可愛いと思いますけど。 ミーラが女の子で良かったね、殿下。
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