ミーラ2
ファラーラ様が戻ってくるまでの間、レジーナ様と今後のことを打ち合わせ。
やっぱりレジーナ様も最近のファラーラ様のお噂を耳にして、お変わりになったと思っていたみたい。
とにかく制服についてはレジーナ様も急いでお家に手配の連絡をされたのよね。
「それにしてもファラーラ様、遅くありません?」
「まさかあの教師、ファラーラ様だと知ったうえで、わざとお説教しているのかも。職権乱用じゃないかしら」
ファラーラ様は将来の王妃様になられる方。
その方に「俺は説教したんだぜ~」なんて武勇伝にするつもりなのかも。
レジーナ様がそんなことを言いだして、心配になった私たちは職員室に向かった。
すると廊下で耳に入ってきたのは、ファラーラ様らしき方がポレッティ先輩に絡まれていたという情報。
その話をしていた男子生徒に詳しく聞けば、そこにあの担任教師が現れてポレッティ先輩はファラーラ様を解放されたらしい。
「よかった……」
「ええ、本当に。てっきりファラーラ様はあの教師に辱めを受けているのかと思いましたわ」
「は、辱め……?」
私たちの会話を聞いていた情報提供者の男子生徒が驚いたように呟いた。
まだいたのね。
「いえ、何でもないの。ありがとう、教えてくださって」
「い、いいえ。大したことではありませんから!」
一応は先輩(顔がわからないから一般生ね)にお礼を言って職員室を覗けば、制服姿の女生徒は見当たらなかった。
もう食堂に向かわれたのかも。
そこでレジーナ様と食堂へ行くことにすれば、やっぱりいらっしゃった。
だけどまさか情報通の従姉のマリーお姉様がファラーラ様にお気づきでなかったなんて驚き。
やっぱり制服をお召しになって平民と一緒にいらっしゃるからだわ。
きちんとご挨拶をされたことがなかったようなので、本当は私が紹介しなければいけなかったのに、ファラーラ様は自ら名乗られた。
その畏れ多さに、マリーお姉様たちは驚いたみたい。
そうよね。将来の王妃様にご挨拶をさせてしまったのですものね。
ここは遅くても私が紹介するべきだと思ったのに、お一人どうしてもお名前がわからない方がいて怒らせてしまった。
この私としたことが、貴族令嬢のお顔がわからなかったなんて。
サラ・トルヴィーニ先輩に申し訳ないことをしてしまったわ。
だけどマリーお姉様からお優しい方だって伺っていたのに、何だか怖そう。
マリーお姉様までなぜか怒っているようで怖かったけれど、まあいいわ。
だって、最近のファラーラ様は別人のようで、一緒にいてすごく気楽なんだもの。
思ったより、学園生活も悪くないかもね。
「――ミーラ、学園初日はどうだった? 兄から聞いたがファラーラ嬢が制服でいらっしゃったらしいな」
「そうなんです、お父様。それで私も明日は制服を着用しようと思います。はじめファラーラ様は自由着用のことをご存じないのかとも思ったのですが、そうではないようで……。しかも平民の子と仲良くされていたんですよ!」
「平民と? ファラーラ嬢が?」
「はい。エルダ・モンタルドっていう特待生なんですが、すごく楽しそうにお話されていて、私も仲間に入れてもらいたくなりました。でも平民の子と仲良くするのは……」
「ミーラ、それは気にしなくていい。ファラーラ嬢が仲良くしているのなら、仲間に入りなさい。最近はファラーラ嬢の評価もずいぶん変わってきたが、ミーラから話を聞いていると、王太子妃になるための演技ではなく、本気で変わろうとされているようだな」
「はい、お父様。最近のファラーラ様はお優しくて、でも半信半疑でもあったのですが、今日確信しました。ファラーラ様は別人になられたかと思うくらいです」
「……そうか。それでは引き続き頑張りなさい」
「わかりました、お父様」
今のままのファラーラ様なら頑張る必要なんてないかも。
今日のファラーラ様は本当にお優しくて、小さくて可愛らしくて、制服をお召しになっていても輝いていらっしゃったもの。
エルダっていう平民の子のファラーラ様に対する態度は気に入らないけれど、ファラーラ様が気になさっていないのだから目をつぶりましょう。
翌日、私も制服を着て登校すると、同じように制服の女生徒の姿が増えていたわ。
はあ? 何なの、あれ。私のファラーラ様の真似かしら。
レジーナ様と言いつければ、ファラーラ様は天使のように微笑んでおっしゃった。
「ミーラ様、レジーナ様、この制服が着用できるのはたったの三年間よ。ドレスは卒業してからいくらでも着ることができるのだから、きっとみんなもそのことに気付いたのよ。この三年間、学生であることを楽しもうって」
「さすがファラーラ様だわ。なんて素敵なお考えかしら」
「そうよね。学生時代なんてたった三年だもの。一般の子たちだけでなく、私たちも制服を楽しめばいいんだわ」
まさかファラーラ様がこんなふうに考えられる方だったなんて、気付きもしなかった自分に自信がなくなってきたわ。
王太子殿下とご婚約されて変わられたってみんなは言うけれど、やっぱり本当に意地悪な人はそんなに簡単には変われないはずよ。
ずっとファラーラ様は我が儘で意地悪な方だと思っていたけれど、本当は違ったのかも。
考えてみれば、ストラキオ家の人間とはいえたかが男爵家出身の私をお傍に置いてくださっているものね。
レジーナ様なんて地方領主の娘よ。
お父様はそのことをご存じだったのかしら。
それで仲良くするようにとおっしゃってくださったのかもしれないわ。
だってたかが男爵家の私だと、学園では肩身の狭い思いをしたはずだもの。
いくらマリーお姉様の従妹といっても、学年も違うし、隣のクラスにはポレッティ先輩の妹のヴィオラ様とカルリージ伯爵令嬢のロミーナ様がいらっしゃるしね。
まあ、ヴィオラ様はお姉様と違っておとなしいって噂だからそこまで問題視することはないけれど、ロミーナ様はなかなか曲者らしいわ。
ここは私が盾となって、ファラーラ様をお守りしていかなければ。




