油断大敵3
「ファラ、さっきは大変だったんだって?」
「……何のこと?」
「トルヴィーニ先輩に絡まれたって、フミから聞いたよ。大丈夫?」
あの場にいなかったエルダにももう話は伝わったのね。
やっぱり噂って早い……いえ、フミさんがあの場にいたのは見たわ。
エルダはそのフネさんから聞いたわけで、フナさんは瞬間移動でもできるのかしら。
それは冗談として、今はエルダを安心させないと。
「大丈夫よ、エルダ。私ったら、トルヴィーニ先輩には興味のない慈善事業への寄付を押しつけようとしてしまったの。だから怒ってしまわれたのも仕方ないわ」
「そ、そんなことありません!」
にっこり笑って元気なことを証明してから名女優ファラーラが少し悲しそうに答えれば、クラスメイトの……えっと、前の前の席の子が否定してくれた。
知っているわ。あなたが私と殿下とスペトリーノ先輩のうちわ二枚を購入してくれたことを。
ありがとう、素敵なクラスメイトさん。
本当は最初に絡んだのは私で、慈善事業の話も一部省略。
ものは言い様だから、クラスのみんなは私に同情してくれる。
これを機会にもっと私のキラキラうちわを買ってくれていいのよ。
そしてそのうちわで風を起こし、噂を流すの。
サラ・トルヴィーニは意地悪だって。
「そうですわ。ファラーラ様は何も悪くありません。私、一部始終見ておりましたから。きっと、あの方はファラーラ様の人気に嫉妬されているんですわ」
「私、あの素晴らしいお茶会でファラーラ様にお怪我をさせたことは忘れてませんから。許されませんわ」
そうだそうだ!
と、心の中では密かに同意しておくわ。
でもミーラ様とレジーナ様のお怒りはちょっと言いがかりに近いかも。
それなのに他のみんなも同調して怒ってくれる。
こうして民意は生まれるのね。
気をつけないと、私だってあっという間に悪者になってしまうわ。
ただし、この波を危険だと見送るのは素人。
乗ってみせるわ、このビッグウェーブ!
たとえカエルでも情報戦の荒波を乗り越えられるのよ。
進め、ファラーラ・ケロロ!
「皆様、私のために心配してくださってありがとう。ですがあれは事故でしたし、トルヴィーニ先輩もおつらい思いをされたはずですわ。とにかく、トルヴィーニ先輩がお元気になったようでよかったですわね」
「さすがファラーラ様! なんてお心が広いのでしょう!」
「本当にそうですわ! あのパーティーも本当に素敵でしたもの!」
「ええ、あのことさえなければ本当に楽しかったですわ」
もっと私を褒め称えていいのよ。
おほほ……って、待って。
波に乗っている場合ではないわ。
つい先ほど、自分が調子に乗っていると気付いたばかりじゃない。
傲慢ファラーラとはサヨナラしたでしょう?
謙虚が大事なのよ。
だけどここで謙遜してもさらに私への賛辞が始まるだけ。
それは間違えればサラ・トルヴィーニへの悪口にまた発展しかねないわ。
悪口というのは黙っていても、その場に居合わせているだけで発言者と思われかねないのよ。
だからするなら私のいないところでお願い。
というわけで一番いいのは話題逸らしなんだけど。
あからさますぎるのも場の空気を壊してしまうし、難しいところ。
ここは秘儀、ブルーノ・フェスタ戦法!
「それではまたパーティーをしませんか?」
「パーティーですか?」
「それは素敵です!」
「またファラーラ様のお屋敷で!?」
「でも招待されてばかりは申し訳ないな。主催者となると大変でしょう? ファラも一緒に楽しめないと」
適当に提案しただけなんだけど、パーティーと聞いたみんなはぱっと顔を輝かせた。
フェスタ先生のようにうまく話題が逸らせたのはよかったんだけど、エルダが私の負担を心配してくれる。
なんて優しいのかしら。
でも頑張るのは使用人で、手配するのはジェネジオだからいいのよ。
そう言おうとしたらミーラ様とレジーナ様もエルダに同意して頷いた。
「確かにそうよね」
「では、今度は我が家で催すのはどうかしら?」
「でもそれだとミーラ様が大変でしょう? 私はみんな一緒に楽しみたいな」
「エルダさん……」
ミーラ様もレジーナ様もエルダの言葉にじんわりしているその背後で、男子がチラチラ見ていることに気付いた。
何かしら? 私の大切な小鳩さんたちを邪な目で見ないでほしいわ。
でもまあ、お友達からなら……。
「そうだわ! クラス会はどうかしら?」
「クラス会?」
「ええ、せっかく縁があって皆さん一緒のクラスになったのですもの。来年からはそれぞれの進路でクラスは細分化されてしまうけれど、このクラスで親睦を深めるためにパーティーをしてはどうかしら?」
「そ、それって僕も参加できるってことですか!?」
「もちろん、同じクラスだもの」
たぶん。
さっきからチラチラ見ていた男子の質問に答えたけれどちょっと不安。
顔を覚えていないけど、始業前にこの教室にいるのだから同じクラスよね?
みんながわっと湧いたから、今さら違うクラスの生徒は無理とか言えないわ。
「ですが、場所はどうしますか? 食事などの手配は?」
「場所は……食堂を使えばいいのよ。食堂ならいつもこのクラスより大人数を相手に食事を提供しているのだから、対応できるはずよ」
「食堂でパーティー? 何だか楽しそう!」
本当にその場の思い付きでしかないけれど、みんなわくわくしているわ。
確か蝶子の大学の食堂がパーティーとかもできたのよ。
構内の教会では結婚式も時々行われていて、蝶子は馬鹿にしながらも内心では憧れていたのよね。
「でも許可は下りるかな?」
「大丈夫よ、エルダ。フェスタ先生がどうにかしてくれるわ」
「だけど資金はどうします? 昼食は無料とはいえ、さすがにパーティー費用まで学園は負担してくれないでしょう?」
「委員長の言うとおりね」
さすがミーラ様。
この男子生徒は委員長なのね。
顔だけは覚えておかないと。
「会費制にしましょうか? 食堂の料理長と交渉して、食材費や時間外労働費を割り出してもらって、そこから参加人数で等分して会費を徴収するのは?」
「でもあまり負担が大きいと特待生にはきついんじゃ……」
ええっと。会費って何かしら。
待って、蝶子の世界で聞いたことがあるわ。
そうよ。確かスポーツジムに入会したのに一回行ったきりで、会費を無駄にしているって弟に言われていたアレね。
そのとき蝶子が言っていたのは……ええっと、そうそう。
「細かいことは気にしないでいいのよ!」
「……え?」
「いや、でも……」
あら、失敗したかしら。
だけど会費の話で悩んでいたのは特待生たちだけみたいだし、失言というほどではないわよね。
こういうときは、私の得意技でいけばいいのよ。
「大丈夫。ひとまずフェスタ先生に相談しましょう?」
「ええ、そうですね」
「まずは許可が下りないと始まらないもんな」
納得してくれたようでよかったわ。
私の得意技・丸投げ戦法で失敗したことはないのよね。
さあ、フェスタ先生には担任教師らしく、働いてもらいましょう。
活動報告にお知らせがあります(*´∀`*)ノ




