蝶子11
雄大が車でなく電車できたのは、そのほうが早いと判断したから。
いつもそつがないのよね。
自宅の最寄り駅の駐車場に止めた車に乗ってからも――要するに事務所を出てからずっと、雄大のお説教は続いた。
危機感がないだの、いつも思いつきで行動しすぎだの、何だのって。
うるさいわ。
うるさいけど、今はそのありがたみがわかる。
悔しいけれどね。
自宅に帰って、ようやく雄大のお説教から逃れると、クローゼットの奥にしまい込んでいた卒業アルバム――小学校から高校までのものを取り出した。
小学校のときから私は私で、気に入らない子を仲間外れにしていたわ。
高学年になると無視したり、聞こえるようにその子を笑ったり。
中学に上がるといわゆるカーストのトップで、底辺の子なんて気にもしなかった。
高校二年で咲良と同じクラスになって、気がつけばいつも傍にいたのよね。
それで私の取り巻きとしていつも私に気を遣っていたわ。
私に嫌われたくなかったのはわかるけど、それならどうして私と一緒にいたのかしら。
それは咲良だけじゃなくて、あのとき悪口を言っていた子たちはみんなそうだったんでしょうね。
それがあの停学から大きく変わったけど、私の取り巻きも顔ぶれが変わっだけで、私の生活は何も変わらなかった。
むしろ私に逆らうと怖い、となって、さらに特別扱いされるようになったのよ。
正確には腫れ物に触るように気を遣われていただけね。
小学校の卒業アルバムから中学のアルバムに移って入学式のときの集合写真を見れば、私が仲間外れにしていた一人がいないことに気付いた。
中学からの入学組とはクラスが違うからわかりやすく、もう一度小学校の卒業アルバムを開いて人数を数える。
他の中学受験で抜ける子が何人もいるから減るのは当たり前なんだけど、私がターゲットにした子が二人いないことがわかって今さらモヤモヤしてきてしまった。
それで急いで高校のアルバムを開いて入学式の写真を確認する。
一人いないわ。
全員で五人減っているけれど、私がターゲットにした記憶のある子では一人。
この子たちは単に外部受験しただけよね?
高校進学で外部に行く子は珍しいけれど、ないことはないもの。
そう思いながら、中学の卒業アルバムをもう一度開いて他のクラスの集合写真を見る。
みんなが並んで写っている右上に、別枠で無表情の写真が載っていた。
その子はもう名前も覚えてないけど、二年のときのクラス委員長で、ちょっとの間みんなでからかっていたわ。
写真の下に並んだ名前の中から、別枠の彼女の名前はすぐに見つかった。
「……相上紗良?」
え? どういうこと?
あの探偵も相上だったわ。
まさか兄妹とか?
そんな偶然ってある?
珍しい名字ではないけど、あの説教も他人事じゃなかったから?
それにこの子の名前〝紗良〟に何か引っかかるわ。
何だったかしら……?
まあ、いいわ。
あれこれ悩むのは性に合わない。
とにかく〝相上紗良〟についてはあの探偵に訊けばいいのよ。
縁故関係かどうか。
別の探偵に依頼する手もあるけれど、そんな遠回りにこそこそするのも腹立つもの。
正々堂々、正面から勝負してみせる。
負けず嫌いな性格で何度も損をしていることはわかってるわ。
それでもあの探偵にだけは負けたくないもの。




