食堂1
「ファラって、やっぱりしっかりしているんだね~」
「え? そうかしら?」
「うん、そうだよ。フェスタ先生のこと『まだ若い』とか、『頼りがいがある』とか」
「そ、それは家庭教師の先生がご高齢だったから……」
「家庭教師の先生もいるの? やっぱりすごいなあ」
エルダは嫌みなくにこにこしていて、本心らしい。
すごいのはエルダだわ。
もし私だったら僻んでいたと思うもの。
それにしても、うっかりしていたけれど、私はまだ十二歳だったのよ。
発言に気をつけないと、ちょっと上から目線になって嫌われそう。
食堂は混雑していたけれど、もうすでに食べ終わった人たちもいて、席はちらほら空いていた。
入学前のオリエンテーションで食堂の使い方は聞いていたけれど、ドレス姿の新入生たちはちょっと戸惑っているみたい。
ふふふん。
エルダも不安そうだけれど、ここは任せてほしいわ。
だって蝶子の世界の学校の食堂とシステムは同じだったもの。
「ここのシェフの腕はどうかしらね?」
「しぇふ?」
「あ、料理人のことよ。美味しいといいわね」
「そうだね」
不安そうなエルダのために、私が先にトレイを持って進む。
食堂では小皿に盛られたお料理を好きなだけとっていいのよね。
蝶子の世界ではそのあとで清算していたんだけれど、ここは全て無料。
ただビュッフェのときによくやるパターン、取りすぎないように気をつけないと。
順番の列に並んでいたら、ふと視線を感じて振り返った。
すると、かなりの美少年と目が合う。
だけどすぐにふいっと顔を逸らされてしまった。
誰だったかしら……どこかで見たような……?
「ファラ、今の王太子殿下よね? 見つめ合うなんて、こっちが恥ずかしくなっちゃう」
「あ、ああ……!」
そうよ。すっかり忘れていたわ。
今のは王太子殿下――私の婚約者だったわね。
あの悪夢の中で婚約解消を告げられたときの印象が強すぎて、ここひと月会っていなかったから記憶がかすんでいたのよ。
というか、見つめ合っていないどころか、思いっきり顔を逸らされたんですけど。
「殿下はもう食事を終えられたみたいね。ご挨拶はしないの?」
「……必要ないわ。あ、ほら、順番よ。何を食べようかしら……」
悪夢の中の私なら急いで駆け寄って、これみよがしに声をかけたと思うわ。
そうよ。そうだったわ。
どこでもかしこでも、殿下をお見かけするたびに駆け寄ってべったりくっついていたのよ。
黒歴史をまた思い出してしまった。
ああ、我ながらすっごくうざいわ。
それなのに五年も婚約してくれていたんだから、感謝しないと。
ただ一つ、すごく大変な問題にぶつかってしまった。
好みのお料理が盛られた小皿を取りながら、ため息を飲み込む。
どうしよう。どうしたらいいのかしら……。
美少年
地位とお金はあるけれど
やっぱりただの鑑賞用
って、心の一句を詠んでいる場合じゃないわ。
まさかの婚約者が子供にしか見えない案件発生。
いえ、子供なんだけど。
今の殿下は確か、十三、四歳?
そりゃ、子供だわ。私は十二歳だけど。
あの婚約解消宣言のときだって、十七、八歳?
ダメだ。ちょっと恋愛対象には見ることができない。
これって、そのうち変わってくるのかしら?
蝶子にも四歳年下の弟がいて、客観的に見てなかなかのイケメンだった。
女の子にもモテていたみたいだけれど、蝶子には所詮弟でしかなかったのよね。
当り前だけれど。
あれは血縁関係の為せる感情? それとも小さい頃からの成長を見ているから?
だとしたら、このまま殿下の成長を見守っているのはよくないんじゃないかしら。
恋愛感情の有無はこの世界ではあまり結婚に求められていないけれど、さすがに弟と思えるような人とは結婚できないわ。
よし、そうならないためにも、これからできるだけ殿下に接触しないようにしましょう。




