親子1
「――楽しくなんてないから!」
って、またまた目覚めに叫んでしまったけれど、叫ばずにはいられないわよね。
蝶子がセキトウのことに気付いたのは嬉しいけれど、咲良に告げられてというのが悔しすぎる。
何だかみんなが騙し合いをしているみたいで虚しくもなるわ。
それにしてもようやく蝶子が私のことに意識を向けたわね。
だけど、まさか殿下のファンになっているなんて。
昔から蝶子はアイドルに弱かったのよ。
美少年
成長すると美青年
時々隠せぬおじさん臭
じゃなくて。
王妃様はお美しい方だけれど、陛下はちょっと……。
殿下は王妃様に似たのね。
ちなみに私のお父様はとっても素敵なのよね。
お母様も美人で、お兄様もかっこよくて……あら?
悪夢の中でお父様が倒れたとき、今よりちょっと恰幅がよくなっていなかった?
お兄様がおっしゃっていた病気予防に規則正しい生活、適度な運動、食事とか色々あったかしら?
確かにそれらを欠いては肥満への近道で、肥満は万病のもと。
お父様はいつもお忙しそうだけれど、運動はされているのかしら?
それに朝食と夕食はおそらく私と同じものでしょうけれど、お昼と夜会のときに何か召し上がっているのかしら?
忙しい人って食生活が乱れると聞いたことがあるわ。
「おはようございます、ファラーラ様。今から朝食をご用意してもよろしいでしょうか?」
「……今日は朝食室で食べるわ」
「かしこまりました。では、そのように伝えてまいります」
普段は着替えるのが面倒くさいから、部屋で朝食を食べるけれど、たまには朝食室で食べるのもいいわよね。
せっかくの休日だし、タイミングが合えばお母様やお父様もいらっしゃるかも。
ベルトロお兄様は赴任地にいらっしゃるはずだけど、アルバーノお兄様はどうしていらっしゃるのかしら。
後でお母様に訊いてみましょう。
メイドが運んできたお湯で顔を洗い、ちょっとすっきり。
ちょうどそこにシアラが戻ってきたので着替えを手伝ってもらって鏡の前に座る。
すると目についたのは蝶子へのメッセージ。
「……シアラ、あとでこの貼り紙、全て外して処分してくれる?」
「もうよろしいのですか?」
「ええ。ひとまず役目は果たしたから」
だけど蝶子ってば私のことを不気味って思っていたわよね。
よりにもよってあの泥棒猫に醜態をさらすところだったんだから、もっと感謝するべきよ。
この貼り紙を見たシアラやメイドたちに心配された私の身にもなってほしいわ。
もう知らない。って言いたいところだけれど、気になるから無理。
って、ちょっと待って。
私と蝶子は意思疎通が図れるってこと?
お互い夢に見ているだけじゃなくて、今回のようにメッセージを送ることができるの?
え、やだ怖い。
ひょっとして私って、蝶子の夢なだけで本当は今も幻とか?
それとも蝶子が私の夢の中だけの存在で本当は幻でしかないとか?
私は時間が戻ったみたいなのに、蝶子は何も変わらないのはどうして?
考えだすときりがなくて怖くなる。――から、考えるのはやめましょう。
悩むなんて性に合わないもの。
そうよ。この私が幻のわけがないわ。
だって、私はファラーラ・ファッジンなのよ?
このまま不労所得で悠々自適な生活を送るんだから。
そのためにもまずはお父様の健康よね。
まさか今日もお仕事をされるってことはないわよね?
支度ができて朝食室に向かうと、お母様だけが座ってお茶を飲んでいた。
テラスに繋がる窓は開け放されていて気持ちいい風が入ってくる。
お母様は私を見ると優しく微笑んでくださった。
「おはよう、ファラーラ。今日は珍しいわね?」
「おはようございます、お母様。せっかくの休日だから、たまにはここで朝食をとるのもいいかと思ったの。お父様は?」
「あの人は今日も王宮よ。先ほど出かけたわ」
「休日なのに?」
「そうね。ここ最近はちゃんと休んだことがないのではないかしら。色々とお忙しいみたいね……。お父様に何かご用事でもあったの?」
「え? いいえ、用事があったわけでは……」
困ったような寂しそうなお顔で答えてくださったお母様は、私に悪戯っぽい笑みを向けられた。
違います、お母様。
私は別にお父様にお願いがあったわけではないんです。
まあ、今までは私がお父様を捜しているときは何かをねだるときだったから仕方ないけれど。
いっそのこと、殿下との婚約解消をお願いしてみようかとも一瞬考えたけれど、お休みの日までお仕事をされているお父様にこれ以上我が儘は言えないわ。
ストレスもよくないものね。
「……お母様、お父様は何か運動などをなさっていらっしゃいますか?」
「運動? そうねえ……。王都にいる間は難しいのではないかしら。領地に戻れば色々とできることはあるけれど」
「ですよね……」
だけどお父様はほとんど領地に戻られないのよ。
どうしたらもっとお父様がゆっくりできるのかしら。
せめて毎日軽い運動としっかりした睡眠をとってくださったらいいのに。
う~ん。
「ところで、ファラーラ」
「はい。何でしょう、お母様」
「実は今日ね……」
「は、はい……」
何? 何かあるの?
別にお茶会などの予定はないし、来客の予定もないはずだけど。
そんな深刻なお顔をされるなんて、何があるんですか、お母様。
「あの子が帰ってくるのよ」
「……あの子?」
「ええ。先ほど連絡があって……。とにかく大変だと思うけれど、根気よく付き合ってあげてね」
「……誰と?」
「あら、もちろんベルトロとよ」




