質問3
「お嬢様、なぜそのご質問を私になさるのかはこの際流しましょう。そしてお答えする前にまず、浮気について性別は関係ありません。男性だろうが女性だろうが、浮気をする者はしますし、しない者はしません」
「だけど、男性のほうが圧倒的に多くない?」
確かに咲良だって浮気をしていたから、女性は浮気しないとまでは言わないわ。
それでも男性のほうが圧倒的に多いと思うのよね。
「……ここからはあくまでも私の個人的な意見ですが、浮気といった類のものは倫理観の問題です。性別も愛情の有無も関係なく、する者はする、しない者はしない。以上です。ただ女性よりも男性のほうが浮気率が高いと思われるのは単に発覚しているかしていないかの問題です。女性は嘘が上手いですからね」
「違うわ。男性が鈍いだけよ」
だって女性側から見たらバレバレの演技でも男性は簡単に騙されるじゃない。
以前のサラ・トルヴィーニのことはよく覚えていないけれど、今は相手によって態度を変えているのに、殿下もリベリオ様も気付いた様子はないんだもの。
まあ、蝶子みたいに鈍い女性もいるけれど。
もちろん私は自分以外をあえて見なかっただけだから、鈍かったわけじゃないのよ。
なんて考えていると、シアラが耐えかねたように口を開いた。
「ジェネジオ。あなたねえ、お嬢様はまだ十二歳でいらっしゃるのよ? お聞かせするようなことではないでしょう?」
「質問されたんだからしょうがないだろ。文句があるならお嬢様の家庭教師か学園に言えよ」
「お嬢様はとても聡明な方ですからね。家庭教師の三人の先生方もお褒めになっておられました」
「それはよかったな。ところで俺は決まった相手がいるなら絶対に浮気はしないぞ。って聞けよ、シアラ」
最近思うんだけど、この二人って以前付き合っていたときもこんな感じだったのかしら。
こんなに見ていて面白いのに、以前の私はもったいないことをしていたかもしれないわ。
二人以外にも見逃しているものはいっぱいあったはずよ。
それに制服を着ていなかったらエルダが話しかけてくれることなんてなかったでしょうね。
不労所得で悠々自適な生活も考えなかったわ。
「というわけで、早くうちわの試作品を見せてくれないかしら?」
「お嬢様の〝早く〟の定義が理解できませんが、何度も邪魔されながらも私なりに精いっぱい迅速に対応させていただいております。その結果、本日こうして試作品をご用意することができました」
早く、と言っているのにジェネジオの前口上は長いわ。
ジェネジオは一度立ち上がると、別のテーブルの上に置いていた箱を持って戻ってきた。
そういえば最初に部下らしき人が持って来ていたわね。
ジェネジオは私の前のテーブルに箱を置くと、開いて中に被せていた布を広げた。
そして中から一枚のうちわを取り出す。
さすがジェネジオだわ。
私が描いていたとおりのキラキラうちわを作ってくれるなんて。
モール部分は何でできているのかしら?
ええ、本当に想像通りのキラキラうちわね。
だけど――。
「いかがでしょうか?」
「私の理想通りではあるけれど、なぜ肖像画が私なの?」
「私は商売人ですから。売れる商品を作ることが仕事です。許可は当然いただけるものだと思っておりますが、違いますか?」
「……他の方の許可はいただけたの?」
「はい。殿下も生徒会の皆様も初めは驚いていらっしゃいましたが、慈善事業に貢献できるのならということで許可をいただきました。学園長も学園内に限るのとの条件で販売許可をいただいております」
そう言ってジェネジオは他のうちわも取り出した。
まさか私のものまで作るなんて、これで売れなかったら恥ずかしいじゃない。
「……もし、売れなかったらどうなるの?」
「ファラーラ様のものは全て私が買い取らせていただきます!」
「シアラ……」
「残念ながら受注生産にするので売れ残ることはまずないな。諦めろ、シアラ」
「そうですか……」
シアラ、気持ちは嬉しいけれど、在庫を抱えることはやめてね。
たしか部屋もそんなに広くなかったでしょう?
とにかく受注生産でよかったわ。
「だけど、注文が殺到したらどうするの?」
「骨組みはある程度制作しておきますし、先に調査して人気の度合いもすでに調べておりますので、お客様のお手元にお届けするまでにそれほどお待たせすることはありません」
「なるほどね。ちなみに誰が一番人気なの? やっぱり殿下? それともスペトリーノ会長?」
「いいえ。我が商会の調査員が調査した結果、殿下は下手をすると一枚も売れないだろうと」
「どうして? 生徒会ほどあからさまではないけれど、殿下もかなり人気があるのよ?」
「はい。存じております。ですが、お嬢様の婚約者でいらっしゃる殿下を表立って応援することはないだろうと」
「そんな……」
「そして、一番人気はお嬢様でいらっしゃいます」
「……え?」
「当然でございます」
シアラってば、そんなドヤ顔しなくてもいいのよ。
それにしたって私がスペトリーノ会長を押さえて一番人気だなんて。
え~。困ったわ~。会長や生徒会の皆さまに申し訳ないもの~。うふふふ。
「ちなみに、お嬢様のうちわはすでに一件ご注文をいただいております」
「だけどまだ当事者以外には知らせていないのでしょう?」
「はい。ですから当事者である、殿下からご注文をいただいております」
殿下……。
いくら婚約者とはいえ、王太子殿下がキラキラうちわを振るのは止めてほしいです。
だけどうちわは振るだけとは限らないのよね。
部屋に飾るとか……って、それもダメよ。
王太子殿下のお部屋にきらきらうちわ。
想像するだけで残念すぎるわ。
「私といたしましては、殿下のうちわをお売りすることはできなくても、お嬢様と殿下がご一緒に描かれたものなら飛ぶように売れると思っておりますが、いかがでしょうか?」
「それは絶対にダメー!」




