パーティー1
「ファッジン様、本日はお招きいただき、ありがとうございます!」
「どういたしまして……どうぞ今日は楽しんでくださいね」
「はい!」
「フミは食いしん坊だけど、あんまり欲張って食べすぎないようにね」
「ひどい、エルダ。ファッジン様の前でそんなこと言うなんて」
そうそう。フミさんね。
お名前を先走って呼ばなくて正解だったわ。
危うくタミさんと言いそうになったのよね。
「――フミさん、我が家の料理人が作るイチゴパイは特に美味しいからおすすめよ」
「あ、ありがとうございます! さすがはファッジン様ですね! この時期にあんなにたくさんのイチゴをご用意できるなんて!」
ええ、もっと私を褒め称えていいのよ。
だってあのイチゴはお兄様が私のために考案した冷室で収穫できたのだもの。
さて、お客様の来場も落ち着いてきたわね。
主催者としてお客様をお迎えするのはかなり大変。
学園の女生徒全員に招待状を(お母様の秘書が)配ったから、欠席者が何人かいても百人近くになるものね。
もちろん、このファラーラ・ファッジンの招待を断る人なんて限られているでしょうから、出席者の人数も多いのよ。
この規模のパーティーをこの短期間で準備するなんて、本当に(使用人たちが)頑張ったわ。
お母様の秘書を中心に、(私以外)みんなが力を合わせていたものね。
あ、あとジェネジオもうろうろしているのを見たわ。
王宮の魔導士の天候予想でも我が家の庭師の予想でも、本日は晴天なり。
ということで、ガーデンパーティーにしたのよ。
ちょっと日差しがきついから、庭に天幕を張って日陰を作って、そこでお食事をしてくれてもいいし、お庭のお花を楽しんでくれてもいいのよね。
にしても、ポレッティ先輩に偉そうに言ったけれど、本当に主催者って大変だわ。
飲み物などが足りているかは執事たちが気を配ってくれているからいいけれど、お客様が楽しんでくださっているか、一人で退屈していないか、トラブルが起こってないか目を配らないとダメなのよね。
しかも招待したからには、お客様のお名前を間違えるわけにはいかない。
でも無理よ。だって知らない人ばかりだもの。
我ながら無茶なことを考えたものだわ。
そのために、私の背後にはお母様の秘書が控えているのよね。
さらに私の隣にはなんとミーラ様とレジーナ様、エルダもいてくれるのよ。
秘書は貴族令嬢たちの顔はわかっても特待生のことはわからないから。
以前の私は顔や名前を覚えていなくても気にもしなかった。
それがどれだけ失礼なことでも、私には許されると思っていたのよね。
だけど今日、こうして一人一人に挨拶してお名前を呼ぶと、みんな嬉しそうに顔を輝かせてくれる。
そうよね。
みんな私のことは知っていて当然だから気付かなかったけれど、蝶子がコネで好きなアイドルと会うことができたとき、名前を呼んでもらってすごく喜んでいたもの。
要するに私はみんなにとってアイドルのような手に届かない存在ってことね。
ふふん。
これでもう参加者はそろったかしらと思ったところで、会場にざわめきが広がった。
どうしたのかと思えば、執事に案内されてやってきたのはポレッティ先輩とベネガス先輩他数名。
嘘でしょう?
まさか参加してくださるとは思っていなくて、油断していたわ。
今回は急きょ決まった開催で、招待状の出欠は取っていなかったから。
もちろん、席が足りないなんてことはないわ。
全員が同時に着席したって十分なように椅子だってテーブルだってそろえているもの。
準備に抜かりはないのよ。――お母様の秘書は。
「今日はお招きいただき、ありがとう」
「ポレッティ先輩、ご参加いただきありがとうございます」
「ファッジン様、こちらをどうぞ」
「――ありがとうございます」
簡単な挨拶とともに差し出されたのは、一輪のフリージア。
今日のパーティーは制服着用が条件とともに、どんな花でもいいので一輪ご持参くださいとお願いしていたのよね。
華やかなポレッティ先輩にフリージアは少し地味な気がするけれど、これは深読みしていいのかしら?
フリージアの花言葉は色々あったけれど、確か『親愛の情』もその一つ。
だとすれば、先輩からの和平の申し入れとして受け取るわ。
ええ。これは降伏ではなく、同盟ね。
まさかの怪我の功名。
この素敵なパーティーを(お母様が)思いついたのも、先輩との仲違いから。
ベネガス先輩やその他軍団の皆様からも花を受け取り、係の者に生けてもらう。
あら、くノ一先輩はどこかしら?
どこにいるのかわからないところがさすがだわ。
とにかく、この『花とイチゴのフェスティバル』も大成功ね。
さすがファラーラ・ファッジン主催だわ。
おほほほ……ほ?
せっかく悦に入ろうとしたのに、また会場がざわりとして心の高笑いが止まる。
今度は何なの?
目の前のポレッティ先輩からその視線を追って私は驚いた。――けど、そんな素振りは絶対に見せないわ。
笑うのよ、ファラーラ。
さあ、とびっきりの笑顔でサラ・トルヴィーニを迎えましょう。




