友達1
「ファッジン様、このお休みはまた王太子殿下とお過ごしになったそうね?」
「……ポレッティ先輩、こんにちは。おっしゃるとおり殿下がご訪問してくださいましたので、楽しい時間を過ごすことができました」
休日が終わり登校すると、また探偵もどきたちの活躍で、殿下が我が家に訪問されたことはみんな知っていたみたい。
ミーラ様もレジーナ様も当然知っていて、仲がいいとからかわれてしまったのよね。
誤解だとも言えず、笑って誤魔化したけれど、誤解が深まっただけのような気がするわ。
別に照れ隠しではないから。
それでもまさかそのことでポレッティ先輩に声をかけられるとは思わなかったわ。
生徒会とはまた違う総回診を前にして、ちょっとだけ怯んだのは内緒。
だけどミーラ様とレジーナ様が私の両脇をがっちり固めて立ったから、負けずに立ち向かえる。
二人とも本当はちょっと怯えているのに、ポレッティ軍団からエルダを隠したのよ。
こんな状況で怖がってなんていられない。
私はファラーラ・ファッジンよ。
可愛い私の小鳩さんたちを守るためにも戦うわ。
さあ、いつでもかかってきなさい!
そう思ってポレッティ先輩に微笑んでみせると、満面の笑みが返ってきた。
やだ、怖い。
「ここのところ、いつも殿下と休日をお過ごしでしょうからお忙しいとは思ったのですけれど、今度の休日に我が家で開くお茶会にご招待できたらと思いましたの。よろしければお二人もどうぞ?」
ポレッティ先輩の言葉と同時に差し出された招待状は三枚。
ベネガス先輩の後ろからさっと現れた先輩は俯いたままでお顔がまったく見えず、視線はきらきらした分厚いカードに吸い寄せられそうになってしまう。
この先輩、黒子なのかしら。それとも忍者?
さすがポレッティ軍団。
くノ一くらいいても驚かないわ。
招待状はきちんと封をされたものではなく、ただのカードということは正式なものではないのね。
要するに主催はポレッティ先輩。
とはいえ、あのポレッティ侯爵家に招かれるというのは、なかなかの栄誉。
まあ、ファッジン公爵家ほどではないけれど。
おほほほ!
って、そんなことよりも!
招待状を差し出されてミーラ様とレジーナ様は一瞬顔を輝かせたけれど、すぐに視線を交わして小さく頷いたわ。
待って、待って。私も仲間に入れて。
「ファラーラ様、私たちはファラーラ様にお任せいたします」
「そ、そう……」
仲間に入れてとは思ったけれど、任せてとは思っていなかったのよ。
いいの? 本当に?
私はポレッティ先輩の派閥を取り込むつもりだったわ。
だけど、予定変更するのよ?
まだ私たちはたったの四人なのに。
ポレッティ派とは決別、敵対関係に発展する可能性もあるんだから。
それでも私、あなたたちに後悔なんてさせないわ。
「――先輩、招待状が一枚足りませんわ」
「ファッジン様、残念ながら私の主催するお茶会に一般の方はお招きいたしませんの。ですからファッジン様、ストラキオ様、タレンギさんの三人の招待状しかございませんのよ」
「そうですか。でしたら私たちはご招待をお受けいたしませんので、招待状の必要はございませんわ」
私が答えた瞬間、ポレッティ派の先輩たちはぽかんと口を開け、周囲で様子を伺っている人たちは息を呑んだ。
当のポレッティ先輩は頬を紅潮させてぷるぷる震えていらっしゃる。
まずいわね。これは爆発寸前かしら。
「わ、私の招待を断るとおっしゃるの?」
「私たちは四人ですから、三枚では足りないと申しております。ですが、招待客を選ぶのは主催者の自由ですものね。もちろん招待を断るのが、招待客の自由であるように」
「ファ、ファラ、私のことは気にしないで。ミーラ様もレジーナ様も。ね?」
「あ、あら。彼女もそう言っているじゃない。気になさる必要はないのではなくて? それに一般の方が私のお茶会にいらっしゃっても戸惑うだけで楽しめるわけがないわ」
「主催者は、招待した以上はどんなお客様でも最上のおもてなしをするべきだと思いますわ。そして招待客を楽しませるよう努力をしなければなりません。もし私の友達のエルダが楽しめないと感じるような催しなら、きっと私も楽しめないと思います。――だからエルダ、あなたが気にする必要はないのよ?」
怒りを通り越して唖然とするポレッティ先輩から、心配そうに表情を曇らせているエルダに振り返って微笑みかける。
今度はちゃんと上手く笑えているかしら。
ミーラ様もレジーナ様も顔色は悪いけれど微笑んでいらっしゃるわ。
「ポレッティ先輩、もしよろしければ次からは我が家へ招待状を送ってください。母と相談のうえ、お返事いたします」
ポレッティ先輩の箔付けのために、こんな公衆の面前で招待してきたのが間違いなのよ。
私だってこれからは貴族社会のルールにちゃんと従おうと思っているわ。
だけどここは学園で、制服をお召しになった以上は先輩も学園の基本理念を理解するべきでしょう?
さあ、ここでフィナーレよ。
優雅に軽く会釈して、立ち去るの。
足が生まれたての小鹿のようにプルプル震えているけれど。
頑張れ、ファラーラ・バンビ。
「ファラ、本当によかったの?」
「私たちは入学してからずっと四人でいるのよ。だから今さら三人でなんて物足りないわ。ねえ、ミーラ様、レジーナ様?」
「ええ、そうよ」
「エルダさんの訛りは和むのよねえ」
「え? 私、訛ってます?」
「え? 気付いていなかったの?」
気にするエルダに三人で慰めていたら意外な事実発覚。
思わず三人で突っ込んでしまったわ。
それがおかしくて私が笑ったら、三人も一緒に笑う。
最初は勘違いと打算で始まった付き合いだけれど、これはもう友情だって言っていいわよね?
私には三人も友達ができたのよ。




