第211話 (197)ロックンロールは鳴り止まないっ
じゃーーーーーん
——まだ、まだだ……!!
じゃんじゃかじゃんじゃか
——まだ、まだ、まだぁ……
曲は終わった。最高だった。熱を帯びた演奏、その熱が客席に伝播する。そして、ダンサー達が各々の踊りを踊る。俺たちバンドだけじゃ生まれない熱狂があった。普段なら、演奏を止め、「ありがとう」とか言って楽屋に引っ込むところだ。だが……。
——もっと、もっと、いけるだろ……
じゃんじゃんじゃんじゃか
俺は遊園地で帰りたくない帰りたくないとごねる子どものようにジャカジャカとギターをかき鳴らし続けていた。この場の全員の視線が俺に集まるのを感じる。しかし、熱が高まる中、案外俺は冷静だった。音に混じり合った中でも、視界はくっきりと周囲を捉えている。
——おい、ベースにドラム。着いてこいよ。
伝わるはずだ。俺が今弾いているコード進行で。これから俺が何をしようとしているか。着いてこい。合わせてみせろよ。ロックバンドだろ。俺はベースとドラムの方に一瞥もやらず、ただギターの指板を見ながら、ギターを掻き鳴らしていた。
◆◆◆
じゃんじゃかじゃんじゃか
——バカが……! ボーカルが暴走しやがった……。
曲を終え、ベースを置いて去ろうとしていたところに、突然轟音のギターの音が聞こえて来た。頭がおかしい。俺たちのワンマンライブならまだしも、ここはアウェイのテーマパークのステージだ。時間も決まっていれば、演出も決まっている。それを破るのはプロのミュージシャンとして御法度だ。ゾーンに入ったのか何なのかしらないが、俺たちは素人じゃないんだ。
(プロだとかどうとかうるせーぞ。ロックバンドだろ?)
じゃんじゃんじゃんじゃか
ボーカルがギターを再び掻き鳴らす。ロックバンドなら俺に着いてこいと、そう言っている気がした。弾いているこのコード進行は間奏部分のものだ。大方、さっきの曲を間奏からアウトロまでもうひと回しやろうのメッセージなのだろう。馬鹿が。そんな勝手許されるはずがない。俺は周囲を見回してスタッフに確認しようとする。勝手にボーカルが始めたこのアンコールもどきが、ステージ進行上許されないものならば、俺はあいつの腹部に一発入れて黙らせる必要がある。
「う、うぉおおおお!!!」
どんどんどんどん
——くそ……! ドラムまで……!
俺がスタッフを探している間に、ボーカルの奇行に応えるようにドラムが叫びながらバスドラムをどんどんと踏み鳴らし、音を重ね始めた。はぁ……勘弁してくれ。お前らが通じ合ってるか知らないけど、ここは俺らのホームのライブハウスじゃないんだよ。俺らが勝手に演奏している間、ゾンビダンサー達はどうするんだ。ライブに慣れてないパークのスタッフ達はどうするんだ。俺らが勝手をすることで後続の後輩達がここでライブできなくなるかもしれないんだぞ。
——ダメですよね?
袖にいるスタッフと目が合う。スタッフは今起こっている状況を理解できていないようだ。当然だ。テーマパークのダンサーがまだまだ踊り足りないからと言って、勝手にステージをもう一度やることなどないだろう。しょうがない、ボーカルを止めるか……。俺がボーカルの方に歩みを進めようとしたその時、客席の方から声が上がった。
「終わりなき闇が始まるぅう!! さぁ、闇だぁ。闇を喰らわせろ、もっと……もっとだぁ!」
——な、なんだ?!
叫び声の方を見ると、ゾンビがいた。ゾンビは空を見上げ咆哮していた。そのゾンビに呼応するように、周りのゾンビ達も叫び始めた。
「ゔぅ……!! ゔぉおおお!」
「ゔぉあ!! ぐぅあああ!!」
——ははは、馬鹿ばっかじゃん!
なんだかよくわからないが、あそこのゾンビ達もゾーンに入ったらしい。そのゾンビ達の咆哮を聞いて、客席も状況を理解し始める。
「な、なに?」
「終わりかと思ったけど、まだ続くのかな?」
「わたしももっとおどりたーい!」
——ははは、なんだこれ
どうやら、熱狂の外にいたのは俺だけだったらしい。俺はベースのネックを握り直す。ふと、花道の方を見るとゾンビダンサーの1人がこちらを向いて、「来い」と言っているようだった。どうやら、馬鹿なのはロックバンドだけじゃなかった。ダンサーも馬鹿ばっかりだ。最高じゃないか。
——よっしゃ……来い!
俺はドラムの方へと体を向ける。ドラムが腕を振り上げる。ハイハットのカウントの後、俺たちは再び音の中だ。きっと後で怒られるだろう。しかしそんなことはもう関係ない。すいません、僕たち馬鹿なんです。今のことしか考えられないんです。
しゃんしゃんしゃんしゃん




