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第183話 (169)CHANCE!

 ビッグボスと適当にノリで喋りながら、チラチラと横目でストリートを歩くメガネを気にかけていたが、いつの間にかメガネの姿は遠く見えなくなっていた。


——よし、とりあえず何とかなったな


「ちょっと!何無視してるのよ!」


「え?あ、な、何だっけ?あはは!」


「暇か?って聞いてんのよ」


「あー今暇になったというか…なんというか…」


「はぁ?なら、ちょっとお願いがあるんだけど…」


——お願い?


 ビッグボスから俺にお願いなんて初めてかもしれないな。自慢じゃないが俺はこの女にちっとも信頼されていなかった。表情や言動、その他全てからそれをビンビンに感じていた。パークで働いてる時からずっと。きっと今もそうだろう。それなのに俺に頼みとは一体どういう風の吹き回しだろう。


「お願いって何だ?金なら貸さないぞ?」


「あんたに借りるほど切羽詰まってないわよ。冗談言ってる時間もないの。聞いてくれる?」


 そう言うとビッグボスは今の状況を話し始めた。ココロのやつが倒れて、これから行われるショーに穴を開けてしまったらしい。そして、そこで踊るルッタッタダンスを踊れるダンサーを探しているとのことだった。


「事情はわかったけど…あんなダンスくらい他にも踊れる奴いるんじゃないのか?」


「本当に全然手が空いてるダンサーさんがいないの…!あんたにこの話持ちかけるくらいなんだからわかるでしょ?」


 そう言いながら、ビッグボスが頭を下げる。パークをクビになった俺がメインステージでのダンスか…。こんな形でのカムバックも悪くない。最高に主人公をしている気がする。ショーで観客の目を引く最高のダンスを見せる。そしてそのままパークの花形ダンサーの道を歩くことになるのだ。


——ふーむ。悪くないなぁ。


 俺はアゴを触りながら、うーんと考えていた。今この場では俺が優位だ。この話を快諾すれば、困っているビッグボスを助けることになる。これは貸しが出来るということだ。ここでビッグボスに貸しを作っておくことで、もしもじゃもじゃゾンビの衣装を盗んだことがバレてしまってもチャラにできる可能性があるんじゃないか?これはチャンスだ。無罪放免チャンスがきたのだ。


——ぐふふ。風が俺に吹いてきやがった


「ビッグボス、顔を上げろよ。いいぜ?俺が踊ってやるよ」


「え?!本当にいいの?」


「ビッグボスが困ってるのを放っておけないだろ?」


 俺は最上級のスマイルをビッグボスに向ける。ビッグボスが一瞬嫌そうな顔をしていたのを俺は見逃さなかったが、すぐに彼女は俺の腕を掴んで引っ張った。


「話が決まったら、すぐ来て頂戴。本当に時間がないの」


〜〜〜


 ビッグボスはスタッフ用のバックヤードへと俺を引っ張っていった。ここに入るのも久しぶりだ。まさかまた入れることになるなんてな。


カツンカツン


「あぁ〜ん。こんなところにいた!ビッグボス!ダぁ〜メっ、全然誰もいないわ。ちょっとショーについて打ち合わせさせてちょうだいっ!」


——何だこいつ、キャラ濃ゆっ!


 ビッグボスと俺の元に怪しげな女が近づいてくる。いや、男か?何だこいつ?!オカマ?!


「ニセ姉!ちょうどよかった!今ちょうどココロくんの代役が見つかったところなの!」


「え?本当に?!でかしたわ!」


「これがその代役のシャクレ。元々パークのダンサーをしていたの」


「どうもシャクレですっ!この度はお世話になりますっ!」


「えーこの辛気臭いおっさんがー?」


 初対面なのに失礼な奴だな。俺はたまらず言い返す。


「こう見えて、現役バリバリのダンサーなんで。ルッタッタダンスだって簡単に踊れますよ」


「ふ〜ん。まぁ背に腹は変えられないわねぇ〜」


 なんだこいつ!と思っていると、ビッグボスが間に入って紹介してくれた。こいつはニセ姉というらしく、今年のゾンビナイトの演出家らしい。今はこんな奴が演出家をやっているのか。


「とりあえず、メイクルームに行きましょう」


「それにしてもちょうど良かったな、たまたまゾンビの格好もしてるし」


「は?まさかアナタ、そのまま出るつもりじゃないでしょうね?」


「え?ダメ??」


「ダメもダメダメ!ありえんてぃ〜のよ!」


 ニセ姉はそう言うとぐぐぐっと近づいてきて、俺のアゴをむんずと掴み、顔をジロジロと見てきた。


「こんな顔じゃステージに立てないわ!来なさい!私がメイクしてあげるからっ!」


「ニセ姉!衣装はどうしますか?」


「そりゃあ、ココロの着てた軍服ゾンビのやつがいいわ、持ってきてもらえる?」


「了解しました!取りに行きます!」


 そういうとビッグボスはどこかへと走って行った。俺とニセ姉2人がその場に残される。


「ぼーっとしてんじゃないわよ!いくわよ!」


 そう言ってニセ姉は俺のアゴを掴んで引っ張ってゆく。


「痛い痛い!アゴを掴まないで!歩きにくいから!」

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