第180話 (166)ミッション in ポッピブル
「おい!シャクレ!どういうことか話してもらおうか!」
「ま、まぁメガネ落ち着けよ…せっかくの美形が台無しだぜ?」
「いいから話せ。この衣装は何だ?何でこんなに道ゆく人に写真を撮られるんだ?何でお前は俺を連れて逃げようとするんだ?」
俺はメガネにパークの端に追いやられて詰められていた。メガネが着ている衣装は俺がパークの倉庫から盗んだもので、それがスタッフにバレるとまずいから着替えよう。そんなことをそのままメガネに伝えることはできない。正義感の強いメガネのことだ。俺のことをどんなに責めるかわからない。迷惑行為をしたリュウにブチギレていたメガネの姿が今でも脳裏に焼き付いている。
——くそ!詰んだ!!
俺はメガネになんていって言い訳して誤魔化せばいいんだ。とりあえずこの場さえ切り抜けて誤魔化せば何とかなる。とりあえずこの場さえ。今目の前のメガネが納得してくれる理由を…。
——あー!思い浮かばねー!
何をどう言ったところでメガネに話が通る気がしない。嘘つけ、本当の事を話せ、そう言われてブチギレられる未来しか見えない。何か、何か誤魔化すことが出来ないか…。
「おい!シャクレ!黙ってちゃわかんねぇよ!」
「メガネ…これには話すと長くなるワケがあるんだよ…」
「だからそれを言えって言ってるだろ!」
「まぁ言っても…メガネにわかってもらえるかどうか…難しい話だからなぁ…」
俺は何の意味もない言葉をずっと喋ってとにかく時間稼ぎをしていた。メガネも何か勘付いているようで、マジでキレちゃう5秒前と言った感じのご尊顔である。やばいな。もう走って逃げようかな。
ポン
そうしていると俺のポケットに入っているスマホが震え、通知音が鳴った。俺は顔だけで声に出さず、出てもいいか?とメガネに伝える。メガネもそれを理解したのかコクリと頷き、俺から離れた。スマホを確認すると、それはリュウからのメッセージだった。
『シャクレさん、マズいです。メガネさんのゾンビ姿がテーマパークのコツに拡散されてます』
その文言と共にSNSの投稿画面のスクリーンショットが添付されていた。そこには確かにメガネがゾンビに仮装している姿が映っていた。
——そうか、待てよ?
その画像を見た瞬間ピカーンと何かアイデアが浮かんできた。これならメガネを誤魔化せるかもしれない。
「誰からのメッセージだったんだ?」
メガネが俺に詰め寄る、もう考えている時間はない。口から出まかせに思うまま話すしかない。
「実はな…今のは俺らのチャンネルのファンからだったんだ…」
「は?何で今ファンからメッセージが来るんだよ」
「お前のその格好だよ。お前のその仮装、実は前にパークにいたゾンビの仮装なんだ…」
「…なるほど。だから道ゆく人が写真を撮ってたのか…それがファンと何の関係があるんだ?」
「大アリなんだよ!そのファンは、そのもじゃもじゃゾンビの大ファンだったんだ。それでパークでもじゃもじゃゾンビの姿をもう一度みたいってメッセージが来て、その願いを叶えてあげたくてメガネにその仮装をしてもらったんだ」
俺は口から出まかせをリズムに任せて喋った。脳がぐるぐると回転しているのがわかる。何か言葉を出せ。言葉を出して、メガネを納得させるんだ。
「…。そうだったのか…。それでさっき来たメッセージは…?」
「あぁ…それは…これだよ」
俺は先ほどリュウから送られてきたスクショのメガネの写真の部分だけを見せた。
「この通り。もじゃもじゃゾンビの姿が見られて嬉しいです。ありがとうございますだってさ」
——どうだ?
何とか誤魔化せている感触がある。メガネも神妙な顔をして頷いている。
「そうか…。ファンが喜んでくれたなら良かった…」
「それでメッセージには続きがあってだな…」
「続き…?」
「そう…そのファンはここから更衣室までの間のどこかにいるらしいんだが、ゾンビみたいに動いてるメガネの姿を見たいって…」
「何でそこまで俺がしなくちゃいけないんだ…?姿見れただけでも結構なことだろ?」
「頼む!見せてやってくれ!その子はもじゃもじゃゾンビがいなくなってからというもの、食事も喉を通らなくなって、なんか病気に…あのそのとにかくなんか身体を壊して病んでしまったみたいなんだ…!さっきメガネの仮装姿を見て、体の調子もみるみる良くなったらしいんだ!だから最後に!最後にゾンビみたいに動いてる姿だけ!見せてやってくれないか!頼む!メガネ!」
俺は一息で捲し立てた。正直かなり無理がある気がする。しかし勢いで何とかならないか?俺は祈るようにメガネを見る。するとメガネは頷きながら俺に話しかけてくる。
「わかった…!それがその子の願いなら俺はやってみせるよ。ゾンビみたいに歩けばいいんだな」
——おぉ!通った!!
俺は心の中でガッツポーズをした。よし!何とかメガネを誤魔化せたぞ!
「いいのか!よろしく頼む!」
「更衣室に着いたらそのまま着替えていいんだな?その子の願いはわかるけど、他の人に写真を撮られまくるのはごめんだから」
「お、おう!更衣室に着いたらもう着替えて大丈夫だから!」
「わかった。もう今から行った方がいいよな?」
「うん!その子待ってるみたいだから、行ってあげてくれ!」
——まぁそんな子いないんだけどな
「うーうー」
「お?いいぞ!メガネいい感じだ」
俺はゾンビみたいに漂って歩き出したメガネの横をついて歩いていた。すると、メガネが俺に向き直って話し始めた。
「いやシャクレが俺と並走してたら変だろ」
「え?」
「ゾンビみたいに歩いて欲しいんだろ?お前が横にいたらダメだろ。ゾンビじゃないだろ、それは」
「あ、あぁそうか。悪い悪い」
ここで変にディティールに拘り出したメガネ。しかし、ここで指摘して揉めたくないと考えた俺はメガネの意見を全肯定することにした。
「じゃあ、俺はメガネから離れておくな!」
「おう、当然だろ。更衣室に着いたら連絡するから、その子がちゃんと見れたか教えてくれよ」
「わかったわかった!頼むぞ!」
「うーうー」
そう言うとメガネは俺に背中を向けて、更衣室の方へと歩き出した。よし、何とかなった。テーマパークのコツが新ゾンビと情報を流してくれたから、ゾンビとして漂うメガネを見た人はメガネを新ゾンビだと思うだろう。メガネもそれに違和感は抱かないはずだ。あとは、更衣室に着くまでにメガネの衣装が盗品だと気づかれないように祈るだけだ。勘の鋭いスタッフがいれば一発アウトである。




