第156話 (143)二十九、三十-2
「ココロさん!めっちゃかっこよかったですよ!」
「カッピー…ありがとう…」
僕はステージのリハーサルを終えて、バックヤードへと戻ってきたココロさんを出迎えた。しかし、ココロさんは浮かない顔をしていた。
「どうしたんですか?」
「いや…こんなもんじゃねぇんだ…」
「え?」
「先輩だったらもっと…もっとキレのある踊りを踊ってたんだ…まだ足りねぇ…」
ココロさんは衣装を脱ぎながら、先程のダンスの反省点を心で反芻しているようだった。
「そんな…全然キレありましたよ…?」
「カッピーは優しいな…でも、オレは納得できねぇんだ」
そう言って衣装を脱ぎ捨てたココロさんはバックヤードを出て行こうとする。その間際、僕にこう伝えた。
「もし、もっかいリハーサルやるってなったら、連絡頼むな。」
「え?どこ行くんですか?」
「ベイサイドエリアのガラスのとこで練習してくる。時間がないんだ。まだまだ練習しないと…」
バタン
そう言うとココロさんはバックヤードを出て行ってしまった。
「にゃーんか気が立ってるねぇ」
ずっと僕らの話を遠くから黙って聞いていたハナさんがそう言った。確かにただならぬ雰囲気だった。
「あんなココロさん初めて見ましたよ!いつもウェーイって感じなのに!」
「あいつなりに、先輩を怪我させてしまったことへの責任を感じてるんだろうねぇ〜」
「でもダンスだってそんなに変なところなんて…」
「他人から見てそうでも、自分で細かい箇所が気になり出したら止まらないもんさ。ココロくんもああ見えて完璧主義だからねぇ」
確かになぁ。自分のダンスが一番気になるのは自分だ。それは僕もよくわかっている。一度気になった箇所を何度も練習して、練習しすぎてよくわからなくなって、もっと練習して、何が正解なのかもわからなくなってしまう。結局は自分がどこで納得できるかなのかもしれない。それは他人がいくら言っても仕方のないことだ。ココロさんが気のすむまでやるしかない。
そう考えていた僕にあることが、ふと頭をよぎる。
「そういえばココロさんが脱ぎ捨てた衣装…もし帰って来なかったら誰が片付けるんですか?」
「そりゃあ今気づいたカッピーでしょ。ココロくんのソウルフレンドなんだし」
「えぇ!そんなぁ!」
「立つ鳥跡を濁さずっていうだろ?カッピーも跡を濁さないようにしないとねぇ」
「僕が濁したわけじゃないのに…ってあれ?」
ハナさんと話しながら、先程衣装が脱ぎ捨てられた場所を見てみる。しかし、そこから衣装はなくなってしまっていた。
「あれ?衣装がない!あれ?あれ?」
「なんだぁ。さすがカッピー片付けるの早いねぇ!立つ鳥跡を濁さず選手権優勝だね!」
「いやいや、僕ずっとここにいたでしょ!あれ?ココロさん持って行ってたのかな?」
「ハナにカッピー!そろそろあんた達の番よ!早く袖に待機しな!!」
衣装を探している僕の元にニセ姉が近づいてきて、そう言い放つ。もうそんな時間なのか。まぁ、もう衣装がないんだから大丈夫か。きっとココロさんが持って行ってたんだろう。
〜〜〜
ーーふふふ、ジョージびっくりするだろうなぁ
ユーはバックヤードから盗み出した軍服ゾンビの衣装を身につけて、パークを歩いていた。
ーーやっぱり服は着られるんだ!
ストリートを歩きながら、ガラスに映った自分の姿を見てみる。顔は透けているが、ぱっと見は軍服ゾンビにしか見えない。帽子を深く被り、少し顔を伏せがちにして襟を立てればすれ違う程度ならバレないだろう。ジョージのやつこれ見たら驚くぞー。そう思って、ジョージの元に向かっていると、突然後ろから声をかけられた。
「ココロくん!さっきのダンス良かったよ!」
聞き覚えのある声。聞いて聞いて聞きまくっていた声。幽霊だとバレないように視線を声の方にやるとそこには…。
ーーケ、ケンジ…!
ケンジ、今はオラフさんと呼ぶべきだろうか。俺にとっては親友であるケンジがニコリとした顔をして立っていた。




