第116話 (104)なんとなく僕たちは大人になるんだ
「オラフさん、この間のこと聞かせてくださいよ!」
「こ、この間のことって?!」
「あの迷子犬の飼い主さんとの関係ですよ!」
仕事が終わり、僕たちはパーク内にあるコンビニの前で駄弁っていた。最近仕事終わりにコンビニの前でオラフさんと他愛のない話をするのが習慣になっていた。そこでずっと気になっていたこの間のエディーの事件でのことを聞いてみた。あの美人の飼い主のエリカさんとオラフさんは“スクール”で一緒だったらしい。一体スクールとは何のことなのか。オラフさんの過去の話を僕は全く知らない。ケンジという名前もその時判明したのである。
「カッピー!僕初めて会った時はケンジですって名乗ったはずだよ!」
「え?!ほ、本当ですか??」
「本当に酷いよ!誰も僕の名前知らないんだから!別にオラフって呼んでくれて良いんだけどさ!」
「…。そんなこと言うなら、オラフさんは僕の名前覚えてますか?」
「…。え?カッピーでしょ?」
「いや、だからカッピーはハナさんが付けたあだ名ですよ!本当の名前!」
「…。カピバラ?ほら、松原って書いてマツバラみたいに、カピ原って書いてカピバラ?」
「そんなびっくり苗字なわけないでしょう!」
「…。エリカちゃんとは子役時代に一緒だったんだよ。」
「話逸らさないで下さいよ…!って、え?!オラフさん子役やってたんですか?!」
「うん。実はね。子供の頃はもっと小さくてキュートな感じで、結構ドラマとかCMに出てたんだよ。」
自分でキュートとか言っちゃうのか、というツッコミはさておき、驚きの事実である。オラフさんは子役をやっていて、ドラマやCMに出ていた?!
「ほら、検索したら沢山出てくるんだよ。」
そう言ってオラフさんが見せてくれたスマホの画面には、見たことのある子どもの写真が沢山羅列されていた。
「え?!このCM見たことありますよ?このドラマも!『気が狂いそう』、『マルコの利き手』、『覇王の教卓』!これ全部見てた!え?!ケンジくん?」
「そう。実はあのケンジくんです。」
「面影なさ過ぎですよ!」
あの有名な子役のケンジくんは、小さくておかっぱでキュートなクシャッとした笑顔が可愛い男の子だ。今目の前にいるのは、巨大で巨体でパワフルな大男である。
「い、一応ほら目元とかは昔のままでしょ?」
子役のケンジくんの写真と今のオラフさんを交互に見比べる。確かに言われて見れば、目元はそのままな気もする。しかし、今のオラフさんを見て、あのドラマに出てたケンジくんだと一見してわかる人はまずいないだろう。
「よく、エリカさんもわかりましたね?」
「まぁ、昔仲良かった人はわかりやすいのかな?てか、そんなに分からないかな?」
「これを並べられて同一人物ってわかるのは、至難の業な気が…。」
「まぁ、とにかく僕は子役をやっていて、その時に通ってた演技スクールでエリカちゃんとは一緒だったんだよね。」
「へー。エリカさんも有名な子役ですか?」
「いや、エリカちゃんはすぐに辞めちゃったんだよね。元々人前に出るのとか得意じゃなかったみたいで。スクールは辞めちゃったんだけど、子どもの頃は僕とエリカちゃんとユウくんって子と3人でよく遊んでたんだよ。」
「へー!それがこの前たまたま再会したんですか??すごいなー!」
「そう。本当にたまたま…。」
そう言うとオラフさんは何だか寂しそうな表情になった。
「再会、嬉しくなかったんですか?」
「いや!そんなことないよ!でも色々思い出しちゃってね。」
「色々?ですか?あ、話したくなかった全然話さなくて大丈夫ですよ!すいません、不躾に色々聞いちゃって。」
「いや!全然そんなんじゃないんだよ。さっき話したユウくんって子が何年も前に亡くなっちゃってね。そこから疎遠になっちゃって。」
「そうなんですね…。」
すごい話の連続に頭がついていかない。少なくとも分かることは、オラフさんはただの大食いの巨漢ではなく、色んなことを経験して、今に至っている大人の男だということだ。そりゃあ、僕の名前くらい記憶から抜け落ちるのは仕方のないことなのかもしれない。てか、子役だったんなら記憶力良いんじゃないのか?セリフとか覚えてたんだし。僕の名前も覚えててくださいよ!
ぐぅ〜
「ご、ごめん!話してたらお腹すいちゃった!なんかお菓子買ってこようかな。」
ぐぅ〜
「僕もお腹空いてきました。一緒に行って良いですか?」
「うん!今日は奢るよ!」
「まじっすか!太っ腹〜!」
その後菓子パンを奢ってくれて、一緒にコンビニの前で食べた。こうしていると学生時代を思い出す。後から聞いた話なのだが、オラフさんは子役時代の稼ぎを全て貯金してあるらしく、かなりの貯金額があるらしい。なので、今は時々バイトしながら、秋にゾンビナイトでゾンビをするという気ままな生活をしているとのことだった。オラフさんから時折感じる謎の余裕はそこから来るものだったのだ。今度は菓子パンとは言わず、焼肉でも奢ってくれないものだろうか。ごめんなさい。冗談です。
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