97:師弟対決、決着!
――弓使いの特殊技。
そんなの大体、矢が分裂したりだとかそんな感じだと思ってた。
だがしかし。
「食らうがいいッ、上級天魔流アーツ『暴龍撃』!」
「うひぃっ!?」
天狗仙人の放った矢は巨大な竜のオーラを纏い、俺に向かって襲い掛かってきたのだ!
ってそんなのもう弓術じゃねえだろーーーー!?
「ッ、【武装結界】発動! 現れろ、七枚の盾よッ!」
咄嗟に十八番のスキルを使い、暴龍の前に盾を展開する!
しかし竜のオーラが盾の群れへと当たった瞬間、その全てが吹き飛ばされたッ!
「ってマジかよ!?」
風圧により干渉物を薙ぎ払う一矢――つまりは初級の天魔流弓術『暴風撃』の強化版ってことか!
天駆ける龍はそのまま俺へとブチ当たり、堪らず崖からぶっ飛ばされてしまう!
「うぉおっ!?」
そのまま地面にダイブ開始だ。
何百メートルもの距離をものすごい速さで落ちていく……!
――そんな俺に対し、天狗師匠は一切容赦しなかった。
「こんなものでは済まさんぞユーリよッ! バトルを楽しむ貴様の笑顔を見るたびにッ、ワシの中の暴力欲はもう煮えたぎって限界じゃった! ワシだってずっと、貴様のようにバトルを楽しみたかったんじゃァ!」
限界まで弦を引き絞る天狗師匠。
かくしてその矢が放たれた瞬間、今度は巨大な火の鳥となって襲いかかってきた!
「喰らえぃッ、上級天魔流アーツ『鳳凰撃』!」
って炎攻撃はガチでマズいッ!?
食いしばりスキル【執念】のおかげで死ににくい俺だが、継続的にダメージが発生する延焼状態になるとマジで駄目だ!
だが空中では身動きが取れないし……いや!
「使わせてもらうぜッ! 天魔流弓術『蛇咬撃』!」
俺は矢を岩壁に向かってぶっ放した!
その瞬間、放たれた矢は蛇のオーラを纏って岩肌の出っ張りに噛み付いてくれる。
「ナイスだヘビ太郎っ、そのまま縮め!」
『シャーッ!』
俺の命令に素直に応えるヘビ太郎(今命名)。
弓とオーラで繋がった状態で縮んだことで、俺の身体も岩壁にビッタリと引き寄せられた。
その数瞬後、背中に当たるギリギリのところを巨大な鳳凰が駆け抜けていった。こえぇ。
「はぁ、アーツのおかげでギリ助かったぜ。にしても使えるなぁ『蛇咬撃』」
どこにでも噛み付いてくれるし、ゴムのように伸び縮みする性質のおかげで今のような緊急回避にも使える。
「……ぶっちゃけ今の状況は最悪だ。こっちは崖にへばり付いた状態で、向こうは上から撃ちたい放題とかクソゲーだぜ。
だが、新たに習った天魔流の技たちさえあれば……!」
逆転の手は全て揃った。このまま一気に片をつけてやる――!
「よぉー師匠! 技を覚えるためにもこれまで散々ボコられてやったが、サービスタイムは終了だッ! こっからは俺がヒィーヒィー言わせてやるから、覚悟しろよッ!」
「フハハッ、やれるものならやってみるがよいわァーッ!」
俺の言葉に天狗師匠は楽しそうに笑った。
仮面で顔こそ見えないが、まるで無邪気な子供のようだ。それほどまでに矢を人間にぶっ放すのが楽しいのだろう。まったく可愛い爺さんだぜ。
「いくぞユーリよッ、上級天魔流アーツ『邪魂魍魎撃』ッ!」
かくして次なる奥義が炸裂する。
今度は矢が無数に分裂し、悪霊の群れとなって降り注いできたのだ――!
「って今度は弾幕での制圧かよッ!?」
そういう手数押しもキツいんだよなぁ。
食いしばりスキルで耐える俺にとっては、デカい一発より細かい百発のほうが驚異だ。
……さてはあの爺さん、初期装備なのに全然死なない俺のカラクリにほぼ気付いてやがるな?
「まぁいいさ、そんな技があることくらいは読めてたぜ!」
最上級アーツ『暴龍撃』は『暴風撃』の進化版で、『鳳凰撃』はおそらく『爆炎撃』の超火力バージョンだ。ならば矢を分裂させるアーツ『流星撃』の発展型もあるかもしれないと予想は出来てた。
ゆえに、勝利プランに変更なしだ。
「いくぜッ、【武装結界】発動!」
襲い来る百鬼夜行に対し、虚空より七枚の剣を展開させる。
からのッ、
「飛び道具を散らすにはこれだろ!? 天魔流弓術『暴風撃』!」
次の瞬間、七本の剣が強風を放ちながら魍魎の群れへと突撃していった!
そしてぶっ飛ばされる魑魅魍魎ども。
上級だろうと所詮は手数で押す技だ。一発一発の威力は初級技の『暴風撃』より小さく、七本の剣は天狗師匠目掛けて突き進んでいく!
「ッ、剣に『暴風撃』を纏わせて放ってきたじゃと!? これもう弓術かァ!?」
崖っぷちから咄嗟に後退する天狗師匠。
それにより、七本の剣は当たることなく真上に飛んでいってしまうが――、
「弓術だぜ。一応、弓を装備してなきゃ使えないからな」
「なにッ!?」
天狗師匠の言葉に真上から答えてやる!
――そう。俺は『暴風撃』の発動と同時に矢を放ち、『蛇咬撃』を使って最後尾の剣の柄に喰らいついていたのだ。
風が発生するポイントは鏃。つまりは刀身部分であるため、真後ろからなら干渉もできる。
「飛翔する剣を推進力にした疑似飛行法パート2だ! これなら服も破れないぜッ!」
「って貴様は気軽に空を飛ぶな! くっ、今すぐに撃ち落としてっ――」
新たに矢を取り、弓を上に向けんとする天狗師匠。
……だがもう遅い。そこから弦を引かなければ攻撃さえ出来ない鈍重さが、弓矢最大の弱点なんだからな。
師匠が矢を構えた時には、俺は彼に向かって飛び降りていた。
「なぁッ!?」
「というわけで師匠ッ、デカいの一発食らっとけやァァあああああ!」
叫びと共に、弓を持つ手をグッと真後ろに引き絞り――ッ!
「天魔流近接弓術『牛王一閃撃』!」
「ぐがァァあああああーーーッ!?」
巨大な牛のオーラを顕し、師匠に叩きつけたのだった――!
・次回、卒業式です――!(※師事時間20分)




