167:VS『悪鬼アラタ』&『死神姫アンジュ』
「「「行くぞォーーーーーーッ!」」」
アンジュとアラタに向かって俺たちは駆け出した。
ここが勝敗の別れ際だ。ペンドラゴンに匹敵するというあの二人を倒すことが出来れば、魔王側にとって大きなアドバンテージとなる。
だが、逆に俺たち三人が破れたら、ただでさえ兵数で不利なこちら側はほとんど詰みだ。
ゆえに敗けるわけにはいかない。あの二人を倒して一気に勝利に近づかせてもらう!
「喰らいやがれッ、『断罪の鎌』!」
「斬らせてもらうぞ、『烈刃斬』!」
「ブン殴るッ、『双撞掌』ッ!」
同時にアーツを放つ俺たち。まともに当たれば一撃死する一斉攻撃だ。
それをどう防ぐかと思いきや、アンジュという名の少女プレイヤーは思わぬ手を打ってきた。
怯むことなく彼女は大きく前に出ると、
「――ぐぅうッ!?」
「なっ!?」
俺たち三人の攻撃を、身体一つで受け止めたのだ……!
無敵化しているわけではない。俺とザンソードの刃が食い込み、スキンヘッドの拳が腹にボコリと食い込んでいる。ダメージを受けた証拠に、アンジュの口から鮮血が噴き出した。
しかし、
「これくらいの痛みじゃッ、足りないなァッ!」
彼女は笑みを浮かべながら、両手の鎌を振り回してきた――!
「うぉおっ!?」
咄嗟に後退する俺たち。ドリルとチェーンソーの拷問器具じみた攻撃が目の前を掠める。
「さぁ、ほら、もっと打ち込んできなよ。アナタたちが死ぬまで死なないから……!」
ジュクジュクという水音が戦場に響いた。
見れば、アンジュの身体に刻まれた傷が高速で再生しているのがわかった。
おそらくは自動回復系のスキルを持っているのか。それに、一斉攻撃をまともに受けても一撃で果てなかった生命力を考えるに……。
「耐久型のプレイヤー、ってわけか。こりゃ厄介だな……!」
疲れが出てくる終盤では絶対に当たりたくないタイプの敵だ。
さぁどうするかと考えた矢先、俺たち目掛けて黒影が迫った。
黒く巨大な大剣を握ったアラタが、超高速で襲いかかってきたのだ。
「ブチ殺す――ッ!」
横合いより一閃。黒剣の刃が俺たちへと迫る。
それに対し、スキンヘッドが裏拳を叩きつけた。超重量の剣撃がビタリと止まる。
「スキル【神殺しの拳】発動! あらゆる衝撃を無効にッ」
「まだだ」
次の瞬間、黒剣が弾き飛ばされた。
だが、宙を舞うのは得物だけだ。拳によって攻撃を受け止められた時にはすでに、アラタは柄を手放してスキンヘッドの懐に潜り込んでいた。
そして、拳を引き絞ると――、
「貴様から死ねぇー-ッ!」
「ガァアアアアアアアッ!?」
一撃粉砕。唸る拳がスキンヘッドの胸骨を破砕し、天高らかに吹き飛ばした。
舞い上がっていくアイツの血が、雨のように降り注ぐ。
「ッ、スキンヘッドッ!?」
「次こそ貴様だ」
もはや驚いている暇すらなかった。一切こちらに間を与えることなく、悪鬼・アラタは嵐のごとき連続拳を叩き込んできた。
物凄いパワーのラッシュだ。咄嗟に複数の盾を展開するが、ほぼ数撃でそれらが砕けて割れていく。
その連続攻撃から逃れるべく素早く後退するも、ビタリと寄られて離せない。
「くそっ、アンジュが耐久型なら、こっちは筋力と敏捷に特化した攻撃型か……!」
どちらもネットゲームの基礎と言えるタイプだ。
様々な技やスキルで戦う俺とは大違いだな。
「ユーリッ、加勢するぞ!」
「おっと、僕を放置しないで欲しいなぁッ!」
ザンソードが駆けつけんとするが、双鎌を手にしたアンジュに阻まれる。
剛拳によるラッシュから抜け出せない……!
前だけでなく横合いからもパンチが放たれ、盾をすり抜けて何度も攻撃を食らわされる。
「アリスさんを傷付けたヤツめぇえッ! これで終わりだぁぁあぁぁあああー--ッ!」
だがそこで、不意にアラタの拳が大振りになった。
盛大に後ろに引き絞られるヤツの右腕。それが炸裂するまでの間、思考と行動のチャンスが訪れる。
“あの大振りは何だ!? 感情の昂ぶりが押さえられなくなったのか。あるいは罠か。罠だとしたら、ここで大きく後退して距離を稼ぐチャンスか。いや――!”
思考を巡らせること一瞬。俺は行動を決定した。
たとえアイツが殺意に燃えすぎてミスったとしても、あるいは何らかの罠だとしても、下がってばっかなんて男らしくないだろ。
「敵が隙を見せたんならッ、攻めるのみじゃオラァーーーッ!」
俺は拳を握り固めた。地面を強く、強く踏み込む。
そうだ、距離を取るにしても、下がるだけが手じゃない。敵を殴り飛ばせばダメージまで与えられるじゃねえかよ!
“さぁアラタ、今度は俺の拳を喰らいやがれ!”
そう考えながら、拳を突き出した――その瞬間、
「ああ、勇敢なキミなら攻めてくると信じていた」
ズパァァァァンッという衝撃音が、戦場に響く。
されどそれは、俺の拳がアラタの身体に突き刺さった音ではない。
いつの間にかヤツの左手に握られていた大剣に、拳を防がれた音だ。
「っ、その、大剣は……」
スキンヘッドに弾かれたものじゃ……。そう呟かんとしたところで、俺は気付いた。
足元の近くに、刃が突き刺さっていた跡があることに。
――つまりアラタは、大剣が吹き飛ばされた場所まで俺を誘導していたのだ。
ときおり放たれる横合いからの拳は、軌道を修正するためでもあったわけだ。
「はっ、はは……おまけに振り上げた右腕に視点を集中させて、その間に左手で剣を回収か……!」
完全に踊らされていた……。しかも先ほどの静かな口調を考えるに、取り乱しているのも演技だったか。
いずれにせよもう遅い。フェイントのために引き絞られていた拳が、俺へと迫り……、
「悪いがこっちは、何年もオンゲーをやってる老兵でな。若いヤツには、負けられないんだよ――ッ!」
盛大に炸裂する悪鬼の剛拳。
防御値ゼロの俺の身体に突き刺さり、胸元で爆弾が破裂したような衝撃が走る。
「がッ、はぁぁああー-ッ!?」
俺の脳裏に過る最悪。
食いしばりスキルの適用外――アバターの粉砕による一撃死。
その可能性を身体に走る衝撃から感じながら、俺は吹き飛ばされていった……!
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