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165:それぞれのスタイル




 ――激戦は続いた。

 女神側の者たちを相手に、俺の仲間たちも全力を出して暴れ続けていた。

 もはや他人を庇える余裕のある者は少ない。

 低レベルの者はもちろん、戦闘職以外の者たちも必死で敵に抗った。


「おりゃぁああああッ! みんなしねー---っ!」


 ちびっこ職人グリムが吼えた。身体よりも巨大なハンマーを乱雑に振り回し、目につく相手を叩き潰していく。

 ……はたから見たらヤケクソにしか見えないが、あれで割と無双できているのだから恐ろしい。


「実はグリムって高レベルプレイヤーだったりするからなぁ……」


 このゲームではモンスターを狩る以外にも、アイテムの作成や改良でも経験値が獲得できる。

 そのため、数多の装備をいじりまくってきた彼女は、レベルだけなら準一線級の数値を誇っていた。

 しかも『いざという時、戦える自分でありたいっ!』と言って、セカンドジョブには鉄槌系高火力ジョブ『ハードスマッシャー』を選んでいるからな。舐めてかかった者は返り討ちにあってしまうだろう。


 ――しかし、もちろんスペックだけで戦い続けられるほど甘くはない。


「わっ、わわっ!?」


 彼女の戦闘技術は素人同然だ。ハンマーの勢いに足を滑らせ、戦場でコケるという大失態を犯してしまった。

 今やこの場所に『容赦』などという言葉はない。隙を晒したグリムに目を付け、数多の敵が殺到した。

 だが――その時。


「ピンチですわね、グリムさん」


 純白の傘より放たれた魔力砲が、飛びかかった者たちを吹き飛ばした。

 へたれ込むグリムの前に、白き貴婦人が舞い降りる。


「うふふ……たまにはバトルもいいですわねぇ」


 彼女の名はフランソワーズ。職人界のトップであり、数少ない『ベータテスター』の一人だ。

 また、グリムがライバル視する存在でもあったりする。


「うぎぎぎっ、フランソワーズ……!」


「あら、うぎぎってなんですか。助けてもらったのなら、『ありがとうございます』でしょう?」


「えっ!? ぁ、あぅ、ぁ、ありがとう……ございます……!」


 真っ赤になりながら言葉を絞り出すグリム。早速やり込められているようだ。

 フランソワーズはフッと笑うと、そんな彼女に手を差し伸べた。


「さぁお立ちなさい。服飾系の職人たるもの、自身も常に優雅でなくては。たとえそこが戦場であろうと、ね」


 まぁリタイアするならそのままで――と言葉を続けたフランソワーズに、俺の専属職人は吠え掛かる。


「誰がリタイアするかっ! 我が活躍はこれからだーっ!」


 差し伸べられた手を借りず、自力でグリムは起き上がった。

 小さな両手にハンマーを構え、燃える戦場の中心で叫ぶ


「我こそはグリム! 最強の魔王・ユーリ殿の専属職人であるっ! おらっ、死にたい奴はかかってこーいっ!」


 ハンマーを振り回しながら敵へとかけていくグリム。

 一瞬彼女は振り向くと、フランソワーズに向かって挑発的な笑みを浮かべた。

 まるで『これからは、お前が私を追いかけてみろ』と言うように。


「フッ……ウチの大人しい妹ちゃんみたいな顔して、なんて生意気な子」


 言葉とは裏腹に、フランソワーズは嬉しそうに笑った。

 そしてその背を追いかけようとした刹那、笑顔のままで彼女は言った。


「あの子があんなに立派になったのは、アナタのおかげですわね。そこの最強の魔王様?」


「おっと、気付いてたか」


 爆炎と煙が立ち上る中、こちらを向いた彼女に歩み寄っていく。

 流石はフランソワーズだな。この乱戦の中でも取り乱さず、周囲の状況をきちんと把握しているようだ。


「あぁ、グリムのことを助けてくれてありがとうな。十秒前まで忙しくてよ」


「……アナタの両手と、後ろの道を見たらわかりますわぁ……」


 頬を引くつかせるフランソワーズ。

 俺の両手に握られた敵の生首と、背後に続く粒子化していく死体の山を見て、溜め息を吐いた。


「呆れるくらいにお強い人。本来ならば、ないない尽くしで終わるはずだったアバターを、よくぞそこまで鍛え上げましたわねぇ」


「ハッ、ないない尽くしだからだろ。ろくにバトルも出来ないような始まりだったからこそ、色んなモンを掻き集めたんだ」


 フランソワーズに剣を射出する。それと同時に、彼女も魔力砲を打ち込んできた。

 ――俺たちの攻撃は真横を逸れ合い、背後から飛びかかってきていた敵二人を撃ち抜いた。

 相手の鮮血が互いの衣服に飛び散り合う。


「この衣装をくれたフランソワーズにも感謝だ。お前のドレスは、今でも一緒に戦ってるよ」


「あはは……もう原型なくないですこと?」


 改造されまくった和風ドレスを見て、職人様は苦笑してしまった。

 彼女は呟く。「それはもう、グリムさんの作品ですわね」と。


「ユーリさん。アナタの何より強い武器は、前に進み続けるその心だと思います。どんな不幸にも不遇にもめげず、常に凛とするアナタだからこそ、あの子を預けたんですわ」


「お姉ちゃんしてんなぁ。んで、正解だったか?」


「……さぁどうでしょう。少し、凶暴になりすぎた感がありますからね~」


 ちらりとグリムが駆けていったほうを見るフランソワーズ。

 そこには何も案ずることなく、「うぉりゃぁーッ!」と暴れ続ける少女の姿があった。


「ははっ、俺たちの妹分は最強だな」


「えぇ、まったく。……それでもやっぱり心配なので、後を追いかけてきますわぁ……!」


「過保護だなぁ」


 本当にお姉ちゃんみたいな奴だ。


 ま、この最終決戦じゃ何をするかは個人の自由。

 好きな仲間をサポートしまくったっていいし、弱い敵を狙って無双してもいいし、逆にタイマンじゃ勝てない相手を乱戦に紛れて暗殺しにかかるのもよし。

 どんなスタンスでも構わない。全力だったら、何でもアリだ。


「ここでお別れですわねぇ。では魔王様、お互いに最後まで生き残りましょう」


「おうよ」


 久方ぶりの会話を終え、職人様と道を分かつ。

 あばよ、フランソワーズ。どうかグリムと頑張ってくれ。

 あいにく俺は、誰かをサポートする気なんてなくてなぁ……。


「――いましたっ、アナタが魔王ユーリですね! ファンのみんなーっ、敵の大将を見つけましたよーッ!」


 と、そこで。

 なにやら赤いフードを被ったアイドルっぽい子に連れられ、無数の軍勢が殺到してきた。

 一斉に向けられる武器の切っ先。そして熱い視線の数々を前に、俺の身体はたかぶった。

 何の集団かは知らないが、最高だ。


「うっふっふ、わたしはアカヒメ。今をときめくバーチャルアイドルでぇすっ☆ 今日はナマ配信しながらアナタをブッ殺して、さらに名声を――って、なんでニヤニヤしてるんですか!?」


「いやぁ、愉快で堪らなくてなぁ……!」


 ああ、やっぱり一対多数のシチュエーションはいいなぁ。

 顔を向き合わせたタイマンも好きだが、顔を把握しきれないほどの軍勢に襲われまくるのも大好きだ。

 殺意と暴力独り占めとか、最高すぎて愉快になる。まるで高級ビュッフェみたいだ。


「さぁみんなッ、俺を絶望させてくれ! 手足を千切ってみんなで刺しまくってくれ! 徹底的に追い込んでくれッ!

 その上で、全力で抗うからァッ! ズタボロにされるのもズタボロすんのも全力で楽しむからァーッ!」


「ひぇええッ、ナマ配信に映っちゃダメなタイプの人だぁーっ!?」


 騒ぐバーチャルアイドルさんに全力で駆ける。

 来ないんだったらこっちから行くぜ。どんな地獄にも飛び込んでやる。


「俺は、絶望が大好きだ……!」


 ソレを喰らって強くなることこそ、このユーリ様のスタイルだからなぁ……!


挿絵(By みてみん)


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と思って頂けた方は、感想欄に希望やら疑問やらを投げつけたり最後に『ブックマーク登録!!!!!!』をして、このページの下にある評価欄から『評価ポイント!!!!!!!!』を入れて頂けると、「出版社からの待遇」が上がります! 特に、まだ評価ポイントを入れていない方は、よろしくお願い致します!!!



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― 新着の感想 ―
[良い点] 配信者絶対殺すマン・・・・・・ アバターキラー越えて(配信)アカウントキラー
[良い点] ユーリ君が生配信ダメなキャラであることヾ(*´∀`*)ノ [気になる点] ヴァーチャアイドルよりもフランソワーズさんの方が魅力的である感じが、ヴァーチャアイドルの力量をあんまり大きく見せて…
[良い点] 今回も面白かったです。 フランソワーズ、いいキャラしてて好きですね
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