156:騒乱の気配
『クルッテルオの命名経緯ってなんですか?』という質問をいただきました。お答えします。
3巻か4巻の特典ssで明かしたのですが、元々クルッテルオの「中の人」は、ネタでクルッテルオを作ったんです。
ただそのうち消すつもりでプレイしてたらなんかわりと強くなっちゃって、それで消すのもったいないかもと思ってる内にクソみたいな名前とキャラのままトップ勢になっちゃった感じです
「ここからが本番、かぁ……!」
スキンヘッドの言葉に笑みが零れる。そいつぁーワクワクするってもんだ。
「ペンドラゴンがいないことには気づいていたさ。兵数のほうも総軍には満たなかった」
ペンドラゴンのヤツ、兵力を分散させる策に出たらしい。
逃げていくプレイヤーも『第二拠点に急げ!』とか叫んでいたしな。
はたしてこの先、どんな手を打ってくるのやら。
「まぁいいさ。遅かれ早かれ、全員ぶっ殺すだけだ」
「おぉーコワッ。ウチの大将は血の気が多くて困るぜぇ」
「うるせーやいっ」
スキンヘッドと肩をどつき合う。
恥ずかしいから言葉にはしないが、今回はこいつが味方だからな。相手がどんな策で来ようが負ける気がしないぜ。
――そうして親友と仲良くしていた時だ。不意に空が輝き光ると、銀髪に黒翼の俺らのマスコット『魔王アザトース』が姿を現した。
ツインテールを振り乱しながら『我を見よー!』と喚き散らす。
『ちゅうもーくっ! ちゅうもーくっ! 大戦開始より二時間経過。ここでそれぞれの軍のプレイヤー数を発表するぞー!』
おっ、そりゃ助かるぜ。これまでの激突で、どっちがどれだけ減ったか知りたかったところだからな。
『では教えるぞー! 我ら魔王軍は現在5万1250人ッ! 対する憎き女神軍は、9万660人だっ!』
「お~……!」
その発表に、誰もが満足げな反応を見せた。
決して歓声を上げるほどではない。まだまだ兵数は離れている。
しかし、当初の8万対17万に比べたらマシだ。着実に俺たちは連中を追い詰めていた。
『よくやっておるぞ貴様たちーッ! まぁどっかの銀髪赤目の我とキャラ被りプレイヤーが、なぜか我の幹部であるクトゥルフやアトラク・ナクアを手懐けてるのはムカつくが、ちゃんと暴れさせてくれたようなので許してやろうッ! なにせ我は魔王アザトース、器のデカさは宇宙一だからなぁーーーーーっ! あーーーはっはーーー!』
胸を逸らして高笑いするアザトース。彼女は散々笑いまくった後、『ではまた来るぞぉ~! みんながんばれー!』と手を振りながら去っていった。
相変わらず愉快なやつだなぁ。でも、俺たちの成果に喜んでくれてるようで何よりだ。
「ともかく敵の数は把握した。残り9万人とちょっと、頑張って滅ぼすとしますか~!」
伸びをしながら立ち上がる。
休憩のほうはバッチリだ。生産職部隊も次々と装備を直し終えている。
隠密部隊から女神側の居場所や動向が送られ次第、次の行動を決めようと思う。
「中央の街を獲った以上、攻めるも守るもこちらの自由だ。さぁてどうするかなぁ」
兵数こそは劣勢なれど、ポジション的には俺たちが有利だ(俺もユーリだ)。
大戦開始から二時間。ダメージエリアもそれなりのところまで浸食しているだろうし、いずれ敵は森を焼き出された獣たちのようにコチラへ向かってくるだろう。
それを全力で迎え撃つのが王道か。いやでも、個人的には敵の拠点に攻め入りたい欲もあったりなかったり……!
「う~ん、やっぱり攻め攻めでいくかぁ……? ペンドラゴンに時間を与えまくるのはすげー嫌な予感がするしな。あと単純に早く戦りたいし。あぁでも今回は個人戦じゃなく集団戦だし、みんなの意見を聞かなきゃだよなぁ……」
「ガハハッ、大将の身はつれぇなぁーユーリ! まぁ慌てずに決めていけや。どんな策を打ち出そうが、オレぁオメェを信じるからよ」
「スキンヘッド……」
……そうだな。慌てることなく、大将として自信をもって決めていこう。
たとえ愚策を選ぼうが、コイツと一緒に実行すれば無理やりなんとかなるかもしれない。
それにみんなも強いしな。ソコの物陰からチラチラと俺たちを見ながら『攻めとか、ヤりたいとか、キメるとか、ものすごくエッチな話を……!?』と呟いているザンソード(ふんどし一丁)も、腕だけならば信頼できる。
「うし、それじゃあクルッテルオの連絡を待つかー」
「ンだなー」
「ぬッ、待ていッ!? クルッテルオまでおぬしたちの淫行に巻き込むのかッ!? あやつはネトゲー女子でありながらそれなりの美貌とかつての残念だったキャラ付けから、『この子を狙うようなヤツは他にいないだろうなぁー拙者でも落とせるかもー』とつねづね思っていた逸材だぞッ!? ユーリはもはやダメっぽいからアチラに靡こうと思っていたのに……あぁスキンヘッドよ。おぬしはどれだけ拙者の脳を破壊するのか……ッ!」
「「なんだコイツ」」
泣きながら飛び出してきたザンソード(ふんどし一丁)に、俺たちは揃って首を捻った。
――と、そこで。
『ユーリ、私よ。今大丈夫?』
視界の端にメッセージが表示された。
隠密部隊を率いるクルッテルオからのものだ。噂をすれば何とやらだな。
俺はキーボード画面を呼び出し、ポチポチと彼女に文字を返す。
「だいじょうぶだぞ、クルッテルオ。そっちは平気か、クルッテルオっと」
『ってその名前二度も打ち込まないでくれる!?』
うぉおっ、レスポンスが早い。
キーボードを見ずに打ち込むブラインドタッチってヤツで書いてるのかな?
俺は出来ないから憧れちゃうぜ。
『とにかく報告ね。敗走した女神側プレイヤーを追ったところ、「城塞都市イザヴェル」という場所に
場所に入っていったの。んで、その内情も探るべく、監視のプレイヤーたちの目を掻い潜りながら、どうにか中に入ったんだけど……』
「入ったんだけど……?」
文面からクルッテルオの困惑した様子が伝わってくる。一体どうしたんだ?
『そこにはざっと、2万人くらいのプレイヤーしかいなかったのよ。つまり女神側は、兵力をさらに別の場所に分散させてるってわけ』
「なんだと?」
2万……先ほど発表された数の、約四分の一以下だ。
残りの兵力は一体どこにやった?
「クルッテルオ、プレイヤーたちの話を盗み聞きして、別の拠点の割り出しを……」
『おおおおおおおおおおおお』
「っ!?」
それは突然のことだった。急にクルッテルオから、まるで初期のキャラ付けの時のような謎の文章が送られてきたのだ。
何があったんだと送り返すが、なかなか連絡が帰ってこない。
そうして数十秒――『れんらくむり』と、変換さえされていない言葉が帰ってきた。
『いまおわれてるなかましんだ』
「追われてる!? 誰にっ!?」
そう問いただすと、再びしばらくの間を置き……、
『あいては 修羅道のキリカ。やつらなんか しようとしてる』
“だから、きをつけて”と。
その言葉を最後に、クルッテルオからの連絡は途絶えたのだった……。
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