152:殉愛至極のエンゲージリング
「ん……?」
再び激突する直前。不意に、コリンの首元から粉のようなものが落ちた。
よく見れば彼女はネックレスをしており、それが崩れ落ちたのだ。
「うげ、しょーがなしですね」
首元を払うコリン。そこで、彼女の右手の中指に嵌められている指輪の存在にも気付いた。
あの毒々しいデザインって、たしか……!
「HPを1にする装飾品『呪縛の指輪』か。前にコリンが探してたモノだな」
なるほど読めたぜ。彼女の超スピードの理由が。
「要するに俺と同じ手か。HPを代償に、自身を強化してたんだな」
ゲームの中には、『HP~以下の時に発動可能』というような装備がある。
たとえば俺が身に着けている『邪神契約のネックレス』がそうだ。コイツはプレイヤーのHPが1の時、幸運値を三倍にしてくれるという装飾品だ。
他にも、HP1の時に筋力値が三倍になるスキル【死ぬ気の馬鹿ヂカラ】ってのもあるからな。装備品にしろスキルにしろ、コリンは厳しい条件を満たすことで敏捷値を極限まで上げていたのだろう。
……しかし、それならマーくんの蹴りを食らった時点で死亡してしまうはずだが……。
「さっき崩れたネックレス。おそらくアレが、食いしばり系の能力を持っていたってわけか?」
そう指摘する俺に、コリンは素直に頷いた。
「えぇその通り。ユーリさんのスタイルをちょいパクして、速さを極めてみました。もちろん発動確率が幸運値依存の【根性】や【執念】は使えないので、『身代わりの首飾り』という装備を保険にしましたがね」
一日一度しか使えない上、使い捨てなんですよね~と彼女は苦笑した。
なるほど。そう考えると俺の【執念】は本当に破格だな。
「ちなみにスキル名は【高速突破のオーバードライブ】。HP1の時、敏捷値を三倍にするスキルです。他の三倍になる系スキルとは併用できませんが、強力でしょう?」
「確かにな。……じゃあシルのほうは筋力値強化のスキルを?」
「えぇそうですよ~!」
なぜかニチャァ~っと笑うコリン。彼女は「ですよねーシルさんっ♪」と俺の元副官の肩を抱いた。
よく見ればシルのほうも、左手の中指に『呪縛の指輪』が嵌められている。あと、なぜだか顔が真っ赤っかだ。
「うぐっ、やめなさいよ雑魚ネコっ! 触んな!」
「ほらぁシルさんのお口から教えてあげてくださいよ。『私は【死ぬ気の馬鹿ヂカラ】の持ち主ですぅー』って!」
「あああああああッ!? そのクソみたいなスキル名言うなぁああああっ!」
コリンに本気で殴り掛かるシル。しかし速度を極めたネコミミ忍者は「うひひひっ」と笑いながら余裕で拳を避けてしまう。
あぁシル……そのスキル名気にしてたのか。たしかに女の子的には嫌かもな。
「なるほどなるほど。ステータスの爆上げ自体は前の仲間殺しの装備でもしてたが、アレの強化は刹那的だからな」
しかし今の彼女は、アトラク・ナクアを倒した後も継続的に戦闘を続行していた。そいつは【死ぬ気の馬鹿ヂカラ】によるものだったか。
「納得いったぜ。――んで、お前らは一体どんなことをやってくれるんだ?」
「「っ……」」
俺の問いに、二人の雰囲気に真剣さが戻る。
コリンがじっとこちらを睨み、「気付いてましたか」と呟いた。
そりゃあそうだろ。
「前のイベントの時にも言っただろ。急にペラペラ喋るやつは、時間を稼ぎたいかアホかの二択だってな。
……そしてお前らは俺の最高のライバルだ。思惑もなく駄弁るわけがない」
それに、『霊剣フツノミタマ』による封印状態は数分程度で解除されるからな。
その貴重な時間を浪費するわけないさ。
「さぁ、魅せてくれよお前ら。俺を倒すための次なる手を!」
弓矢を番えて問いかける。
すると、少女たちは意を決したような表情で手を繋いだ。指に嵌められた『呪縛の指輪』が重なり合う。
「レベルが上の相手を前に、パートナーと離れず一分以上経過――これで発動条件は満たしました。私たちの必殺スキルを、ご覧に入れましょう」
「……このスキルを習得したのは本当に偶然よ。条件は、『指輪型の同じ装飾品・同類のスキルを持ったプレイヤーが同じHPで相打ちした際、ごく低確率で覚える』というもの」
二人の身体に変化が起こる。
繋がれた手を中心とし、桜色の光が彼女たちを包み込んでいく。
「おいおい……何をやる気だよ……!」
――スキルの強力さは、習得条件や発動条件の厳しさによって決まる。
この法則に当て嵌めたら、これから発動するスキルは史上最強クラスのものだっ!
「「私たちの全力を見ろッ! 能力共有スキル発動ッ、【殉愛至極のエンゲージリング】!」」
最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
少しでも面白い! 続きが読みたい! と思っていただけたら、
『ブックマーク』と広告下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしていただけると幸いです!
評価ボタンは、モチベーションに繋がりますので、何卒応援よろしくお願いします!




