129:絶望
再び対峙するペンドラゴン。
竜を想わせる黄金の瞳は、変わらず覇気に満ち溢れていた。
「さてさて――それではさっそく始めようか」
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・ワールドニュース!
ユーリさんが、『暁の女神ペンドラゴン』と遭遇しました!
彼女は刺客集団を統べるボスプレイヤーです。遭遇から20分以上生き残るか、一定ダメージを与えた時点で経験値とアイテムが発生します。
これより、ボスプレイヤーとの公開決戦を開始します――!
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「っ、いきなりだな……!」
空に浮かび上がる巨大ウィンドウ。
さらに遠方のプレイヤーにも見えるよう、メニュー画面に俺たちの戦いの光景が表示されることになった合図だ。
「あぁ、勘違いしないでくれよユーリくん。私の目的は、キミたち『魔王側』に新設部隊の脅威を知ってもらうことだ。私自身は手を出すつもりはないよ」
クスクスと笑うペンドラゴン。
そんな彼女の代わりに、『初心者の弓』を持った白づくめの集団が前に出る。
「さぁて。この世界の全プレイヤーに映像が繋がったところで――諸君ッ! どうか見てくれ聞いてくれッ! この子たちこそが我が『女神側』の隠し玉ッ、『量産型ユーリ部隊』だ――!」
次の瞬間、白づくめの者たちが手にした弓矢より闇色の輝きが放たれる。
それは間違いなく、憑依モンスターを宿している証拠だった……!
「よぉホンモノ! ここにくるまで苦労したが、ついにオレたちも戦えるようになったぜぇ!」
「もう幸運値極振りも最弱武器での無双も、お前だけのアイデンティティじゃねーんだよぉ!」
「覚悟しろよッ! これからは、オレたちこそが『魔王ユーリ』だ!」
ニッと『俺』のように笑い、『俺』の集団は高らかに吼え叫ぶ。
その異様な光景に、こちら側の仲間たちは改めて表情を苦くした。
「フフフッ……ユーリくん、これがオンラインゲームの宿命というやつだよ? トップとは真似されるものさ。
そう、彼らはキミに至るべく頑張り続けてきた。途中でキミのスタイルが弱体化されても、それでもめげないキミを見て、この子たちも努力し続けたんだ」
両手を広げてペンドラゴンは語る。
ただの猿真似と罵るなかれ、彼らの意志力は本物だと。
「何度も何度も殺されながら必死で憑依モンスターを仲間にし、大金をはたいてキミのピーキーな装備の劣化品をどうにか作らせ、二番煎じになることを承知で戦い続けた。
そんな彼らのことがいじらしくてねぇ……。より本物に近づくための支援を条件に、仲間になるよう事前に声をかけていたというわけさ」
……そして、今やそいつらは高レベルプレイヤーを蹂躙するほどの力を得たってわけか。
ここに向かう道中、まとめ役であるザンソードの下に被害者たちから報告が来ていた。
“集団PKを働いてきた女神側プレイヤーの中に、決して少なくはない数『魔王ユーリ』が混ざっていた。ヤツらの実力は本物だ”――ってな。
「か、勝てるのかよこれぇ……!」
「一人でも厄介だっていうのに……」
「くそっ、ユーリさんの群れとかマジでふざけるなよっ!?」
俺の軍勢を実際に目にし、魔王側プレイヤーたちが怯え竦む。
その様子にペンドラゴンはご満悦だ。威圧の咆哮を上げる竜がごとく、仲間たちへと笑い叫ぶ。
「ハハハハハッ! 怖いだろうッ!? 恐ろしいだろうッ!? この場にいない魔王側諸君も戦いたくはないだろうッ!?
――だからこそ、このタイミングで見せたんだッ! なぜならキミらの多くは、ユーリくんの強さを奉じて集まった連中だからねぇ。そのユーリくんもどきの連中が何百人といるとなれば、キミらにとっては地獄だろうッ!」
手を突き出すペンドラゴン。それを合図に、俺の軍勢が一斉に矢を構えた。
さらに悪夢は終わらない。周辺に降り積もった雪が“斬ッッッ!”という音を立てて吹き飛ぶと、そこから刀を手にした白武者たちが現れたのだ……!
純白の弓兵と剣士たちを侍らせ、ペンドラゴンは「どうだどうだッ!」と子供のようにはしゃぐ。
「こちら側に大量の新人プレイヤーが追加されたのは知っているだろう!? 彼らには高速レベリングを施し、最優のジョブである『サムライマスター』へと進化させたッ!
斬撃アーツの連打によって押し切ってしまえる職業だ。これでゲーム経験に乏しい者たちでも、立派な戦力というわけさ……!」
その光景に、隣のザンソードが「今度はクローン拙者だとォッ!?」と驚愕するのだった。
――まさに、戦う前から勝負を終わらせてしまうような見せ札の連打だった。
もう仲間たちの戦意はボロボロだ。圧倒的な数の差をつけられ、大規模な襲撃を受け、俺の軍勢を見せつけられ、さらに新参プレイヤーたちもまとめ役のザンソードもどきに仕立て上げられていると来た。
もはや空気が詰んでいる。多くの者が瞳を曇らせながら、「女神側を選んでおけばよかったか……」と後悔の念を吐く。
「終わりだよ、ユーリくん。これで、数も質も士気も勢いも、全てこちら側が上回ることになるだろう。
そしてキミの財力ももう脅威じゃないさ。幸運値極振りのユーリくん軍団に狩りをさせれば、あっという間にレアアイテムの山が築けるからね。重ねて言うが、終わりだよ」
朗々と響くペンドラゴンの声。それに反抗の言葉を上げる者はいない。
俺もまた、ヤツの放ってきた数々の手に打ちのめされ……、
「うっ……ぐすッ――……!」
『ッ!?』
大軍勢の中、俺は静かに涙した……!
両目から溢れる雫が止まらない。容赦のなさすぎるペンドラゴンの謀略に、もう泣かずにはいられなかった……っ!
「ッ、ユーリくん……キミも追い詰められたら泣いてしまうような、人の子だったというわけか。
いいさいいさ……心の折れた子を追い詰める趣味はないからね。魔王側大将を辞め、戦場を去るのなら手出しは……」
「何言ってんだバカッ! 出来るならもっと追い詰めてくれッッッ!」
「ッ!?」
ふざけたことを言うペンドラゴンに叫ぶ!
そう――俺は嬉しいんだよッ! 嬉しくて嬉しくて涙が止まらないんだよォーーッ!
「ありがとうっ、ありがとうな、ペンドラゴンッ! そして他の女神側プレイヤーたちも本当にありがとうっっっ!!!」
腕を広げて感謝を謳う! もうあまりにも感動的で全員抱き締めたい気分だッ!
なぜかみんなが固まる中、俺は泣きながら何度も頭を下げる――!
「あぁッあぁッ、ありがとうみんなぁ! もう感謝してもしたりねーよっ! ここまで容赦なく追い詰めるのは大変だっただろう!? 立案したペンドラゴンはもちろん、他のみんなだって全力で努力してくれたはずだ! お前たちの本気っぷりには泣くしかないッ!」
絶望的な状況に心が弾んで止まらない。
この残酷さが心地いい。何万人もの見ず知らずの人たちが頑張って俺を虐めてくれている興奮に、身体が熱く火照って震えてしまう。
両手で必死に抱き締めても、感激の痙攣が止まらない……ッ!
「あぁ、いい加減に気付いたんだよ――俺は絶望が大好きだ……!」
この、最低最悪にまで追い詰められた状況を前に、俺は最高の笑みを敵軍に浮かべるのだった……!
・次回、地獄――!
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