128:雪原での再会
「――いくぞッ、お前たち!」
『ぅ、うぉおおおおおおおおおおおーーーーーーーーーーッ!』
空に暗雲立ち込める中、俺は数百人の味方プレイヤーを率いて野を駆けていた。
どんなモンスターにも負けはしないはずの圧倒的な大群である。しかし、彼らの表情はどこか不安げだった。
◆ ◇ ◆
――事の始まりは数十分前。
数多の隠密部隊を抱えたクルッテルオより、各地での襲撃報告を受けた直後のことだ。
突如としてクルッテルオから映像付きのメッセージが届いたのだ。
それをザンソードが開いてみると……。
『――やぁ、魔王側のプレイヤーたち。可愛い鼠のメッセージ機能から失礼するよ』
あぁ……そこには四肢を刻まれたクルッテルオと、敵の総大将であるペンドラゴンの姿が映り込んでいた……!
『集団PKのサプライズ、驚いてくれたかなぁ? どうせキミたちは“数では負けても質では負けていない”と己を鼓舞していたところだろうからねぇ。その思惑を潰させてもらったぞ……!』
ペンドラゴンの言葉に歯噛みする仲間たち。
一方俺も表情を歪めながらも、同時に上手いと感心してしまう。
――このゲームのデスペナルティシステムは、経験値の20%削除。
それを利用してこちらの質の向上を……レベルアップを阻害しに来たというわけだ。
数の差に加えてレベル差までつけようとする、本当に悪辣な一手である。
『さらに、だ。私としても新設部隊の運用実験をしたかったところだからねぇ……!
さぁ、ユーリくんのことが大好きな魔王軍のみんな。どうか見たまえ、我が“量産型ユーリ部隊”の活躍を――!』
次の瞬間、ペンドラゴンの周囲に表示されるいくつもの映像画面。
そこには、『初心者の弓』を持った白づくめの集団が、魔王側のプレイヤーたちを嬲り殺しにする光景が映り込んでいた……!
「なっ――なんだこりゃ!?」
「嘘だろおいっ!」
「ユーリちゃんの、量産プレイヤーって……!?」
まさかの隠し玉にざわめく執務室。
冷や汗を掻く俺と困惑する仲間たちに対し、ペンドラゴンは高らかに謳い上げる――!
『あぁ脅威だろうッ!? なぁ驚いただろう!? こんな連中と、ぶっつけ本番で戦いたくなんてないだろう!?
ゆえにこそ、キミたちに“前哨戦”の機会を与えてやろう。今から一時間後、我が支配地「雪原都市ニブルヘイム」の前にまで来るがいい。私のユーリくんたちと戦わせてあげようじゃないか……ッ!』
――その言葉を最後に、ペンドラゴンからの映像メッセージは途切れるのだった……。
◆ ◇ ◆
「……それでユーリよ。我らは本当に出向かなければいけないのか?」
並走するザンソードが青い顔で問いかけてくる。
曇天より降り注ぎ始めた雪を浴びながら、「ぶっちゃけ嫌でござる」とヤツは正直に呟いた。
「おぬしの量産型軍団とか地獄だろうが。それに、あのいかにも性格悪そうなペンドラゴンの口車に乗るのもマズい気が……」
「諦めろよザンソード。無視するって選択肢自体、とっくに奪われてるんだぜ?」
そう。俺たちはこの誘いを受け入れざるを得なかった。
あぁまったく……何も知らない一般プレイヤーの視点に立ってみろ。
『魔王軍』はまず数で負け、そのうえ集団プレイヤーキルなんて食らった立場だ。
加えてそこで、大将直々の前哨戦の誘いを断った――なんてことになってみろよ?
「ここで逃げたら、始まる前から負け犬になっちまうだろうが……! 女神側プレイヤーは調子に乗り、魔王側プレイヤーの戦意は地に堕ちるだろうぜ」
「っ……なるほど。そうなれば、新参プレイヤーたちもさらに女神側に付くことになるだろうな。無抵抗で叩かれる犬の立場になりたいヤツなどいるまい」
「そういうこった。だからこそ俺たちは、ここでどうしても噛み付かなければいけない……ッ!」
そうして走り続けること数十分。
雪も激しくなってきたところで、俺たちは真っ直ぐに伸びる影を見た。
近づいていくたびに巨影の全貌が明らかになる。それは、雲すらも超えてどこまでどこまでも伸び続ける、巨大な大樹だった……!
「へぇ……あれが『女神の霊樹ユグドラシル』ってやつか」
こちら側における『魔王墳墓ユゴス』に当たる存在だ。
ウチの機械仕掛けの墓がガシャンガシャンと魔鋼を作り続けているように(墓ってなんだっけ?)、あの木の根元から神鉄とかいうアイテムが吐き出されているらしい(木ってなんだっけ?)。
「さてさて。あの木が見えるくらい近づいてきたとなれば……」
吹きすさぶ雪風の先に――ついに俺たちは捉えた。
大樹の生えた白亜の都市を背に、堂々と待ち構える純白の集団を――!
「よぉペンドラゴン、久しぶりだな」
「やぁユーリくん、久しぶりだねぇ?」
かくして、俺たちは再会を果たす。
共に数百人規模の戦士たちを率い、降り積もる雪が血で染まる未来を感じながら……!
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